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奥野さんはその日から毎日暇さえあれば店に顔を出し、私がいれば授業が始まる。奥野さんいわく、以前から毎日顔を出してはいたけれど、誰も認識していないのだから仕方がない。なかった事と同様だ。
教授も勉強を見てはくれたが、奥野さんの方が上手だった。学校から帰ってくると基本はずっと店にいた。お客さんが多ければ手伝いをするし、少なければ勉強をする。それは奥野さんがいてもいなくて変わらない。
私はついに目標を定め、真剣モードに突入した。
奥野さんはいい人で、私が集中して周りが見えていない事を察知すると、進んでお店の手伝いをしてくれる。アルバイト代は受け取っていないが、まかない料理とコーヒーとウィスキーを含んだドリンク飲み放題の特典は受けている。
おっ! 今日も頑張ってるね!
受験日が近付くと授業時間は短くなる。中川さんより早く店にいる日が増えてくる。
無駄話はなしよ!
キツく言わないと中川さんは黙らない。
かなでちゃんちょいときつくなったなぁ!
そう言いながらガハハと笑う。私は当然シカトする。
目標があるっていいんよな。なんかむっちゃ輝いてるでぇ。
キツく言っても黙らないのが中川さんだと思い知る。
無視をして勉強をしている間も、中川さんの独り言は時折耳に入るけれど、元から音楽の止まない騒がしい空間だ。大した障害ではない。
私は頑固で、父も母も頑固だった。滑り止めを受けた方がいいとの学校側の提案は無視をした。
教授や奥野さんも頑固のようで、その必要はないと言う。行く気のない学校を受験しても無駄でしかない。本気でやりたい事があるのなら、上手く行くよう頑張ればいい。
頑張れって言葉が好きなんだ。
奥野さんはいつもそう言う。
頑張っている人には失礼だとか、意味不明だよね。もっと頑張れって意味なの? とかこれ以上どう頑張ればいいの? とか言われる事あるんだけどさ、思慮が狭いって罪だよね。
奥野さんの言葉に父は渋面を作り、母ははにかみ、中川さんは大爆笑。
ただの応援じゃん! 素直に受け止めればいいのにね。
奥野さんはそう言った後、私の肩にそっと手を乗せこう言った。
だから後少し、頑張ろうね!
ふっと顔だけで振り返るとそこに奥野さんの笑顔が見える。あまりにもキラキラしていて、思わず息が止まる。頬が火照り視界がぼやける。ほんの少し意識が遠退き薄っすら瞳が閉じていく。
コツンッとおでこに感じる痛み。
はぁッ・・・・ 暖かいため息が溢れる。
変な声出さないの!
母の言葉と同時にペチンッとおでこが鳴る。
それまでの浮遊感が突然消える。夢から覚める感覚。
ちょっと! 何するのよ!
思わず飛び出す叫びに、ごめんと奥野さん。
しっかりしなさい! との母の言葉がそれを掻き消す。
ふっと父が鼻で笑うのを感じられた。
青春やねぇ。
中川さんがそう言うと、ドアが開く音が聞こえる。
いらっしゃいませと父と母が言う。




