王都の危機・序
今日も通りは賑わっていた。
俺は王子に頼まれた物を買うために、ショッピングモールへ向かっていた。
(マサが居れば運転してもらえたのにな。)
俺は自動車の免許を持っていないため、一人の時は歩いて行くしかなかった。
突然、通りの先から大勢が押し掛けてきた。
まるで何かから逃げるかのように。
俺はその内の一人を捕まえて尋ねた。
「何があったんですか?」
「ヒカルさん!ちょうど良いところに!助けてください!」
俺は皆が来る方を見た。
遠くで、人と同等の大きさの羽の生えた蟻のような昆虫の群れが、人々を襲っている。
俺は剣を抜き、脚に力を込めて踏み込んだ。
通りに並ぶ建物の壁を駆け、虫の群れに飛びかかった。
斬撃で素早く仕留めたが、通りの角を曲がった俺は絶望した。
更に多くの虫の大群がこちらを見ている。
それらは、一気にこちらへ襲い掛かってきた。
俺は急いで水路の水を引き寄せ、自分の前に水の壁を作って大群を足止めした。
そして、力強く剣を振った。
虫の群れは次々と散っていくが、無限に押し寄せてくる。
俺は水の壁で攻撃を防ぎながら、空との意思疎通を図った。
最近、少し練習していた技だ。
水での防御には限界があり、押され気味だ。
(感じた!空を操れる!)
空と脳の接続を成功させた俺は、雷雲を呼び寄せ自分を囲う虫の群れに向かって雷を落とした。
一撃で大群は全滅した。
そう思ったが、一体だけ生き残った。
他の個体よりも明らかに大きい。
その一匹は、俺に向かって急降下してきた。
(速っ!)
俺は慌てて剣を構え、敵を一刀両断した。
巨大な昆虫の血が飛び散り、俺の腕に掛かる。
(酸か!)
俺の腕は、強酸により炎症を起こした。
この虫は危険だ。
一刻も早く、正体を突き止めなければ。
そう思った俺は、王子に伝えるため城へ向かった。
我が国の高い医療技術で俺の腕は少し回復した。
俺は王子、シュウさん、マサを呼んだ。
「見ろ、この傷を。」
「どうした?間違えて火に手を入れたか?」
「それはない。」
マサは冗談を言ったが、すぐに真面目な顔に戻った。
「それで?何があったんだ?」
「なんて説明したら良いのか…。とにかく、巨大な虫が居たんだ。」
「どのくらい?」
「人間と同じくらいか、それ以上。」
それを聞いて、今度はシュウさんが尋ねる。
「人間と同じくらい、と言っても誰と同じくらいなんだ?王子やヒカルと同じくらいなら、大した脅威じゃないな。」
「うるさい!」
シュウさんの冗談に、王子と俺は口を揃えて言った。
「それで?続きは?」
シュウさんが再び尋ねた。
「血が強い酸性だ。それでこの腕が…。」
「それは危険だな。まずは、正体を明かさないと。」
王子が呟くと、マサが言った。
「実験か何かで遺伝子を変えられたとか、そういう類いじゃないか?」
「一理あるな。」
シュウさんが頷く。
すると王子が言った。
「そうであるとして、出所は?国にそういう研究を行う輩がいるのか、外部から持ち込まれたのか。」
「後者であって欲しいな。」
俺はそう信じている。
「場合によっては避難指示を出した方が良いな。」
王子がそう言うと、シュウさんが口を挟んだ。
「それなら、名前を付けよう。フォーリナー、なんてどうだ?」
「…賛成。」
少し冷めた空気になった。
「酸性だけにね。」
俺が付け加えると、空気は更に冷めた。
そんな中、王子が手を叩いて言った。
「一旦、解散しよう。明日もう一度、様子を見て今後の方針を決めよう。」
王子が会議を上手く締め括ってくれた。
流石王子だ。
その日の夜。
城の中は妙に騒がしかった。
しかし、俺は気にすることもなくベッドに横たわっていた。
「ヒカル起きろ!フォーリナーだ!」
シュウさんが突然、俺の部屋のドアを開けて叫んだ。
「フォーリナー?見たこともないのに?」
「あれは間違いなくお前の言うフォーリナーだ!」
俺は眠い目を擦りながら、シュウさんと共に城のバルコニーに出た。
俺は目を疑った。
通りにいた時よりも遥かに大群のフォーリナーが城を攻めていた。
「あれはただの害虫じゃねえ。何らかの意図で送り込まれた敵国の兵器だ!」
シュウさんが言った。
おびただしい数のフォーリナーが俺たちの方へ向かってくる。
「気を付けろ!血を浴びたら、一溜りもないぞ!」
「分かってる!」
シュウさんは俺の警告にも怯まず、バルコニーから飛び降りた。
城の庭園も、フォーリナーの群れで埋め尽くされていた。
俺もシュウさんに続いてバルコニーから飛び出した。
俺たちは同じ地点に着地すると、背中を合わせた。
フォーリナーたちの視線が一斉に俺たちに向けられる。
「良いか、絶対に奴らに触れるなよ。」
「俺の精神支配を見せる時が来たな。」
シュウさんはそう言うと目を閉じ、腕を組んだ。
フォーリナーたちは四方八方からこちらに向かってくる。
「シュウさん!大丈夫なのか?」
俺の声は聞こえていないようだ。
フォーリナーはすぐ目の前まで迫っている。
あと少しで噛みつかれる。
しかし、寸前でフォーリナーは動きを止めた。
シュウさんは目を開いた。
「見てろ。」
次の瞬間、フォーリナーたちは俺たちを忘れたかのように仲間を攻撃し始めた。
「精神支配だ。精神の弱い者ほど簡単に操れる。」
そんな中、一体の大きな個体が俺たちに狙いを定めて飛んできた。
「あいつは精神が強いってことか?」
「ああ、そうだな。どうする!」
「ちょっと待ってろ!」
俺は天に手を翳し、振り下ろした。
空が光り、雷が落ちる。
巨大なフォーリナーは一瞬で焼け焦げた。
「流石だな!」
「お前もな!」
俺たちには互いを褒め合っている暇なんてなかった。
「ヒカル、城下町へ!」
「城の中の敵はどうする?」
「分担しよう、街は俺に任せろ。ヒカルは城内を頼む!」
俺たちはフォーリナーたちが仲間同士で戦っている間に、その場から離れた。
シュウさんは街へ降りる階段を下りていった。
俺は城の扉を開け、一階の広場に入った。
城内も、大量のフォーリナーで溢れ返っていた。
何人かの兵士が床に倒れている。
「冗談だろ。」
城の中で水や雷を使って戦う訳には行かない。
(シュウさんがこっちに来るべきだったな。)
俺は剣を抜き、一体ずつ倒すことにした。
飛び散る酸が身体に掛からぬよう、俺は素早く攻撃を続けた。
一体、巨大な個体が頭突きをしてきた。
俺はそれを素手で受け止める。
そしてそのまま敵の頭を掴み、力強く腕を振った。
フォーリナーの身体は頭と分断され、吹っ飛んでいった。
「少し、散らかしすぎたな。」
飛び散った奴の血が、城の床を溶かしている。
(後で怒られるか…。それにしても、なんて強酸だ。)
フォーリナーは、次から次へと襲い来る。
「もう良い。派手にやろう。」
俺は広場の中央にある大きな階段を駆け上がり、すれ違うフォーリナーを次々と切り刻んでいった。
(王子とマサはどこにいるんだ。)
二階の廊下を探し回ったが、フォーリナーしか見当たらなかった。
(無事だと良いんだが…。)
俺は力強く床を蹴り、天井を突き破って三階へ上がった。
「あ。これは流石に怒られる!」
頭を抱えていると、前からフォーリナーの群れが襲ってきた。
(構えてない!)
終わった。
と思ったが、フォーリナーたちは俺の目の前で爆発した。
「ヒカル!そこにいたか!」
マサだった。
彼が弓矢で俺を助けてくれたようだ。
彼が放つ矢は音速を越え、空気との摩擦で発火し、着弾点で大爆発を起こす。
心強い遠距離攻撃だ。
「王子は?」
「見当たらない!」
一緒にいると思っていたが、マサも王子を探していた。
「城の隅々まで探したが、どこにもいない。」
「連絡は?」
「既読がつかない。」
「嫌な予感がするな。」
城は危険生物に占領され、王子は行方不明。
最悪の状況だ。
だが、俺たちに考えている時間はない。
今も国民たちがフォーリナーから攻撃を受けている。
「シュウさんと合流するぞ!」
俺たちは走り出した。
陛下や王妃が他国へと赴いている今、この国を救えるのは、俺たちしかいない。
ヒカル視点の第一話です。
是非感想お願いします。




