王都の危機・続
街は正体不明の巨大な昆虫”フォーリナー”で溢れ返っていた。
今の俺には、目の前にいる人々を救うことしかできない。
「誰か!助けてください!」
通りの先から声がした。
目を凝らすと、一人の少女がフォーリナーに怯えて踞っているのが見えた。
俺は急いで向かったが、一体のフォーリナーが彼女の方を見た。
少女は思わず悲鳴を上げる。
その瞬間、フォーリナーは勢いよく羽音を立てて彼女に襲い掛かった。
俺は咄嗟に近くにあった自動車を持ち上げ、フォーリナー目掛けて投げつけた。
間一髪、フォーリナーは俺が投げた自動車に当たりぺしゃんこになった。
俺は少女の方へ駆け寄った。
「怪我はないかい?もう大丈夫だ。」
少女は大柄で筋肉質な俺を少し怖がっていたが、しばらく俺を見つめてから言った。
「あなた、もしかしてシュウ様ですか!」
「ご名答。俺は王子を守る騎士のシュウだ。」
俺は少し得意げに名乗った。
「まさかこんなところで会えるなんて!ところで、今この街では何が起きているんですか?」
「俺にも分からない。だが、外にいたら危険だ。家まで送っていくよ。」
俺がそう言うと、少女は恥ずかしそうに言った。
「実は…。この虫を近くで見たくて、家から出てきたんです。まさかこんなことになるとは。」
「何をしている!危ないに決まってるだろ!今すぐ家に帰るんだ!」
俺は少し強めに怒鳴りつけてしまった。
少女は俺と同じくらいの年齢に見えるが、虫だらけの街を一人で歩くには危険すぎる。
しかし、ふと思った。
(この地区だけ妙にフォーリナーの数が少ない。)
疑問はまだあった。
今の街は、油断すれば俺ですら虫の餌食になってしまうほど危険だ。
(この少女、なぜここまで無傷でいられたんだ?)
俺は少女に尋ねた。
「家はどこだ?そこまで送るから案内してくれ。」
「良いんですか!では、案内しますね。」
彼女は笑顔で答えた。
俺は彼女に若干の不気味さを感じた。
少女の後に続いて街を歩くが、フォーリナーは見当たらなかった。
まるで俺たちを避けているかのように。
(運が良いだけ、じゃないよな。確実に。)
俺は彼女を警戒しながら歩き続けた。
彼女の家は海沿いにあるらしく、かなり遠かった。
(好奇心だけで家から出てきたとは思えないほどの距離だ。彼女は何者だ?)
俺がそう考えていると、少女は足を止めた。
そしてこっちを向いて微笑んだ。
「は?」
気付けば、俺は海の上でボートを漕いでいた。
少女の姿はない。
ここに至るまでの記憶がない。
(そうか!精神支配だ!)
恐らく、俺は彼女に精神を乗っ取られたのだ。
フォーリナーが彼女に寄らなかったのは、彼女が奴らを操っていたからだ。
(つまり、最初に襲われていたのも演技か!)
俺は一旦、仲間に電話をすることにした。
しかし、スマートフォンが無い。
(取られたか!)
一刻も早く街へ戻らなくては。
彼女が敵側の人間であることは間違いない。
早く皆に知らせなければ。
俺はボートを降りて、全力で泳いだ。
俺が泳ぐ速度は、イルカと並ぶ。
(海に行かせたのは、間違いだったな!)
岸へ到着すると、俺は急いで公衆電話へ向かった。
「もしもし!ヒカルか?」
「シュウさん?無事で良かった。連絡が取れないから心配したよ。」
仲間の声を聞いた俺は少し落ち着いた。
彼女の精神支配から完全に解放されたような気がした。
「ああ、悪いな。それより、精神を操る少女に会ったんだ。やはりこの事件には、黒幕がいるようだ。」
「そう思っていたよ。実はな、王子が行方不明なんだ。今マサと探しているところだ。」
「何だって?」
俺は理解した。
敵は彼女だけではない。
「敵の狙いは王子の誘拐だ。護衛である俺たちの戦力を分散させるために、街にフォーリナーを放った。」
「嵌められたな。」
「ああ。だが諦めるな。王子はまだこの国から離れていないはずだ。何がなんでも見つけ出すぞ!」
「了解!」
俺は電話を切ると、急いで王子を探し回った。
どこへ行っても、フォーリナーしかいない。
通りを駆け抜けた瞬間、背後から声が聞こえた。
「お前!なぜここにいる!」
振り返ると、先程の少女が立っていた。
「おい!王子はどこだ。答えによってはただじゃ置かないぞ。」
「知ったことか。」
「気に入らない答えだ。」
少女は俺の精神を操ろうとした。
「二度も支配されねえよ。」
俺はそういうと近くの川の水を吸い寄せ、空中の一点に集めた。
俺は最近、水の状態変化を習得した。
集めた水を、氷塊へと変える。
そしてそれを少女目掛けて投げつけた。
彼女は避けられず氷塊に当たり、気絶してその場に倒れた。
ポケットには、俺のスマートフォンが。
俺は静かに取り上げた。
その時、港に一隻の巨大な戦艦が到着した。
(あれは…。敵の迎えが来たのか!)
もしそうであれば、国内にいる敵は必ず王子を連れて港を訪れる。
(ここで待ち伏せすれば…。)
しかし、俺の勘は外れていた。
戦艦から、大勢が港へ降りてきた。
「いたぞ!騎士の一人だ!」
軍隊が俺を指差し、こちらに突撃してくる。
「狙いは俺か?良いだろう!全員まとめて捩じ伏せてやるよ!」
俺はそう言うと自分の周りに氷の刃を生成した。
「ありったけを見せよう。」
俺は刃を振り回しながら、敵の中に突っ込んだ。
次から次へと敵を倒していく。
最初は好調だったが、俺は圧倒的な人数差を前に徐々に押されていく。
(なんて数だ…。)
俺は目を閉じて集中した。
(こいつらの脳の中に入り込むんだ!)
精神支配は、想像以上に上手く行った。
俺はゆっくりと歩きながら、周囲の敵を眠らせていった。
敵の兵たちが次々と倒れていく。
しかし突然、顔面に強い衝撃が走った。
振り返ると、一人の男が不適な笑みを浮かべて立っていた。
「速!超人か!」
「王子を探さなくて良いのかい?騎士さん。」
男は更に不気味な表情で言った。
俺は答える。
「ここで待ち伏せすれば、王子は来るんだろ。それまでは、お前と暇つぶしでもしようじゃねえか。」
「愚か者め。私たちは王子になんて興味ない。私たちの目的はこの国の騎士の討伐。」
「何だと!」
予想外だった。
まさか俺たちが本当の狙いだったとは。
男は続けた。
「でも、君たちは少し強すぎるんだ。三人纏まっていたら、歯が立たないよ。」
「そうか!そのためにフォーリナーを放ち、王子を拐い、俺たちを分散させたのか。」
怒りが込み上げてきた。
「その程度で敗れるような騎士じゃねえよ!」
俺は男に殴り掛かった。
男との肉弾戦が始まった。
力では俺が勝っているが、速度では明らかに負けていた。
打撃を何度も打ち込まれ、攻撃の隙が無い。
「噂に聞いていたより弱いな。その程度か?ああ?」
相手には、煽る余裕すら与えてしまっている。
(集中するんだ。精神に干渉できなくても、せめて思考を読み取れれば…。)
(次は頭突きだ!)
(何!)
奴の頭の中の声が聞こえた俺は、頭突きを見越して拳で受け止めた。
そしてそのまま殴り飛ばした。
「痛いじゃないか。」
相手が体勢を立て直す前に、俺は奴の足元に水を流し込み、凍らせて足を固定した。
「動けない!やってくれたな!」
「お前の負けだよ。愚か者。」
俺は身動きが取れなくなった彼の顔面に強力な一撃を食らわせた。
彼はすぐに気絶して倒れた。
(脆い奴だな。)
「それより!ヒカルとマサが危ない!」
俺は急いで二人を探そうと思った。
だが、冷静に考えると余計なお世話だ。
(いや、二人なら多分大丈夫だ。俺は王子を探そう。)
俺は王子を見つけるため、再び走り出した。
そこでふと思った。
(もし、フォーリナーを完全に操ることができれば、効率よく探せるかもしれない。)
俺は近くにいるフォーリナーを精神支配で呼び寄せた。
「王子を見つけたら、知らせてくれるか?」
俺の言葉を理解してくれたかどうかは不明だが、フォーリナーたちはすぐに飛んでいった。
フォーリナーたちが戻るまで、俺は王子がいる場所を頭の中で絞ることにした。
(この国には出口が主に四ヶ所ある。大洋に面した港が一つ、内陸側に出る門が二つ、そして城にヘリポートが一つ。)
「待てよ。王子は早い段階で行方不明だったはずだ。なら、最も有力なのは…。」
俺たちは完全に忘れていた。
空から連れ去られた、という最悪の可能性を。
(フォーリナーの騒動があれば、俺たちでもヘリコプターの音には気付かないだろう。)
俺はヒカルとマサに電話を掛けた。
しかし、二人とも繋がらない。
(たった一人で、王子を救う方法なんてあるのか?)
追う手段は無い。
奴らが向かった先も分からない。
状況は最悪なままだ。
「いや!」
俺は急いで先程倒した男の元へ向かった。
「おい起きろ!王子をどこへ連れていく気だ?言わなきゃ痛い目に遭うぞ!」
俺は巨大な氷の槍を生み出し、その刃先を男の顔に向けた。
男は舐めた態度で言った。
「脅せば言うと思うか?お前は私を殺せない。」
「ああ。そうだな。苦しめることしかできない。」
俺は男の首を掴み、力強く握り潰した。
「分かった分かった、吐く、吐くから!」
俺は手を放した。
「ここから北西へ行くと私たちの国がある。後は分かるだろ。」
俺は男の言葉を信じ、バイクに乗って国を出た。
一足先に行かせてもらう。
王子奪還の戦いへ。
シュウさん視点の第二話です。
是非感想お願いします。




