8月9日午後1時 工魔科学帝国マンス中枢紅魔城 禁書庫 人形の実験場~時計が処刑の時刻をさす。
二人のアレクシアが禁書庫の実験場に降り立ったその瞬間、最初に口を開いたのはそれまで黙っていたレイドさんだった。
「ああ、そういう感じっすか、、、」
そういったレイドさんは背中につけたジェットのようなパーツから噴火のような噴射をして禁書庫から飛び立ち飛び出した。その背中は数秒もしないうちに見えなくなっていた。
この場を何も言わずに飛び出したレイドさんを止めるものはいなかった。否、それに気を回せるほど温和で温暖な雰囲気ではなかった。
二人のアレクシアについてネロさんの顔色を見る限り、あまり動揺やそれ以外の動的感情を感じ取ることは出来なかった。
しかしそれもそのはずだ二人のアレクシアを見てこの多動的かつ他動的な状況を理解するのは、あまり聡くはない僕でも数秒の沈黙があれば可能だった。なぜならその景色こそが答えだったから、、、
「なるほど、、、そういう事ですか」
僕はゆったりとそれでいてぐったりと疲れたかのようにあるいは取り憑かれたかのように口を開く。
「ああ君のソーゾドーリダヨ」
棒読みで片方のアレクシア否、フォニイさんが口を開く。
「元々僕たちとネロさんの戦いと諍いは前座で本命はフォニイさんがアレクシアをコピーするための時間稼ぎだったとそういう事なんですね?」
「そういう事感動的で盲動的な再開を邪魔して悪いね、、、」
悪気もなさそうに片手で謝罪のハンドジェスチャーを作りながらニコニコしながらフォニイさんは語った。語り騙り。
僕はアレクシアにゆったりと目を向ける。
「久しぶり、アレクシア僕のマイメイド。」
「坊ちゃま、失礼ですがそれでは直訳すると僕の僕のメイドとなってしまっております。頭痛が痛い坊ちゃまになっております」
頭痛が痛い坊ちゃまってなんだとは思ったが、特に気に障るようなことでも気になるようなところでもなく、僕の語法が誤法だったのが悪いのでそこは突っ込まないで置いた。
この一連の会話に轟さんやネロさんが入ってくることはない、彼らなりに気を使っているようだ。気を付けているようだ。意外と存外に二人とも優しいよなと僕は思った。
「アレクシア僕が支配の魔術を使えば、この場にいる剣聖が三人になるのだけれど。どうする?」
「それは必要ありませんね、必須ではないと言った方が正しいかな、、、疲れているでしょう休んでいていいですよ。」
アレクシアの声に余裕があったので、その提案を僕は受け入れることにした。
「おっけい。さすが働きメイド」
「余りあるお言葉感謝します。お疲れさまでした。坊ちゃま、、、」
そういったアレクシアは僕の髪の毛をくしゃくしゃとなでる。犬じゃないのだからそこまで強くなでるなよと突っ込みそうになったが少し気持ちが良かったので僕は何も言わないで置いた。
アレクシアとフォニイさんはネロさんに向かってゆったりと歩んでゆく。アレクシアのその背中は剣聖だった紛れもない剣聖だった。そこに待ち構えるのは世界を滅ぼす魔王ではなく孤独の世界の寂しい王子様なのだけれど、そんな些細で子細な事などどうでもいいとでも言いたくなるくらいに戦いに向かうアレクシアは美しかった。力強かった。
近づいてくるアレクシアにネロさんが話は終わったのかい?なんて軽口を叩く。
「そうですね、まだまだ話したいことはありますが。これでこの章は終わりです」
「そうかそれは寂しいな、少し侘しいな。そんなことを考え鑑みてしまう僕は少し女々しいのかもね。そうかそうなのか、ここが僕の罪か、否詰みか、、、」
それに対してアレクシアは頷くようなことはしなかった。
「それじゃあ始めますかネロ君?」
「ああ、、、」
伝説の剣聖と工魔科学帝国第一王子、否孤独の王子様ネログリフィスの戦いが始まった。
◇◇◇
奇しくもその意味があるのかどうかわからない諍いに終止符が打たれたのは、ネロさんと僕が僕の処刑時刻に指定した。午後一時。別にその時間ちょうどに時計の塔の鐘が鳴ったりはしないのだけれど、結界術の魔力を保持できなくなった、ネロさんの胸にアレクシアの視線を剣に変える斬撃が突き刺さり、ネロさんはゆったりと倒れた。
「フォニイはそっち側に行くんだね、これは置き土産だ、、、」
それだけを言い残して、、、
別にネロさんが特段特筆すべきミスをしたわけでも無いがそのようにして、単純に淡白にその戦闘は終わった。あまりに終わり方があっけなかったので僕はそれがネロさん自身がその時刻に死のうとしたようにも見えてしまった。まるで自殺みたいに。それになんとなく僕にはネロさんがこの時刻まで時間稼ぎをしているようにも見えた。
僕と彼が決めた処刑時刻に死ぬことがまるで決定されていて設定されていたみたいに当たり前みたいにネロさんはその時死んだ。
「知っていたのかな?」
僕は口をついてそんな言葉が出た。
「それはどこまでの事を指していますか?」
「いや、全部かな、、、」
「どうですかね、、、」
親友の血で頬を赤く濡らしたアレクシアは少し首をかしげながら息を吸った。
「そうかもしれませんね、、、」
特段、戦いに勝利したアレクシアに喜びの色は見えなかった。あるのは血の赤色だけだ。
それについて案外存外意外に強者同士の戦いなどこんなものなのかもしれないなと僕は結論付けた。




