8月9日 12時42分 工魔科学帝国マンス中枢紅魔城 正と裏を繋ぐ城内大廊下~勇者の最後の回復魔法
倒れこんだレオン・ライオネルのメイドでしかない今冥途にいるメイド元剣聖ランスロット・アレクシアは血を吐き出しながら目の前にいるレオン・ライオネルの兄でしかない生物ガルダ・ライオネルに声を発する。
「殺しなよお兄さん。あなたが勝った。あなたのほうが強かった。あなたがレオン様の、、、レオン君の元に行くべきだ」
「今、殺しなよ。と言ったのか?お前は。」
ガルダはアレクシアを見ながらゆったりと語る。
「言ったよ。当たり前だろ殺し合いに勝って殺さなかったらそれは、、、」
言いながら血を吐き出すアレクシア。
「俺から一つだけ質問させてくれ血反吐交じりでも構わない。反吐が出るような返答でも構わない。」
「あッ?」
「お前はなぜ俺の体が貫かれる寸前で次元斬を解いた?」
「レオン様に関して話すときお前の楔のような鎖が啼いているような気がしたから、言わなかったか?私は武具の声を聴くことができるんだ。私は武器と話せるんだよ。これは魔法でも違法でもない。私の心だよ。」
「そうかそれは聞いてないな。まあどうでもいいが、、、」
「話は終わりだよお兄ちゃん」
「そうだな。ならやっぱりお前が行くべきだ。俺はもう失血すらしないほど傷がついている。戦場においてそれは失格だ。」
そういった瞬間腹のあたりに無数の風穴を開けたガルダはゆったりとその場に倒れる。
「少しはペース配分を鑑み考えたほうがいいぞ、お兄ちゃん、、、共倒れとか一番しょうもないじゃないかよ、お兄ちゃん」
「おまえにお兄さまと呼ばれる筋合いはねえ、筋違いだ。筋金入りの間違いだ」
「別にお兄さまとは呼んではいないがな、、、」
それに対する返答も回答もない。解答もない。
◇◇◇
その数十秒後コツンコツンという革靴をすり当てるような音が大廊下に響く。アレクシアが見上げると、ガラス片と血と瓦礫片でしっちゃかめっちゃかになった戦場を一人の女性が歩いている。
それはランスロットアレクシアが愛した人物だった。哀した人物だった。初めて愛を知った人物だった。それは勇者だった。勇者ラルフ見違えるほどに勇者ラルフだった。話さなくたって分かる分かってしまうほどに勇者な女性だった。
「久しぶりだね、、、アレクシア。否、たいして久しぶりではないか?昨日少しだけお話ししたもんね、昨日は世話をかけて悪かったね。少しだけイレギュラーが起きたようだ。私がやってやれる事はこのくらいなのかもしれないね。君が生きていてくれたこと。君という存在が新たな勇者を導いているという虚々実々。実際のところ嬉しい限りだよ。」
「なんで?らる、、、」
アレクシアの意識はゆったりと飛んでいく。一番しゃべりたかった人が目の前にいるというのに一番好きだった人が目の前にいるというのに、一番だった。アレクシアにとってレオン・ライオネルという少年と出会うまで一番の勇者だと思っていた人物が目の前まで近づいてきているのに意識はどんどん遠くなる。この不条理にこの不合理にこの感情の符号になんと名前を付けたらいいのかアレクシアは知らなかった。
そういったラルフはゆったりとアレクシアに近づく。アレクシアの目の前まで来た彼女はアレクシアの顔の近くに自身の顔を寄せる。さらさらとした髪の毛をぼろぼろのアレクシアの体に掛けるように近づけアレクシアの頬にそっと自身の唇を添える。
「愛しているよ。君の事を、、、」
「ごめんね、、、」
勇者ラルフのその声がアレクシアに届くことはない。しかしそれでもよかった。否、それが良かった。それが一番いいに決まっている。勇者ラルフは死人なのだから。彼女にこの言葉が伝わらなくてよかった。とただそれだけを思って、右の手に回復魔力つまり陽の魔力を込める。
一瞬にしてアレクシアの体は治っていく。殺しても死なないのではなく、殺さなきゃ死なない勇者。フェアに見えるアンフェア。しかしそんなラルフだからこそこの世界とのつながりがだんだん弱くなっていくのが分かった。
「あんな無茶をすれば当然か」
先ほどのラティオとの壮絶にして極絶な戦いと諍いを思い出してラルフは独り言ちる。
損な勇者ラルフの否そんな勇者ラルフの最後の回復魔法が紅魔城を緑色に一瞬照らした。
蛍の光のようだ勇者ラルフ自身もそう思った。このタイミングで勇者ラルフの体はゆったりと眠るような感覚に襲われた。




