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8月9日午前11時56分 工魔科学帝国マンス中枢紅魔城城下 噴水広場の演説台~「僕の愛する国民たち、僕の哀する人民たち、僕のAIする親民たちよ、ごきげんよう。」

 工魔科学帝国第一王子ネロ・グリフィスは今、紅魔城城下にある噴水広場の特設された演説台の上に立っていた。彼にとってそれは約束された行為であり、目の前にいるのは結束された民衆であり、彼はこの演説を通してある信息を伝えようとしていた。


 そこに集まった1万の帝国の民衆たちは彼に対して視線を向ける、民衆にとっては彼が始点であり支点であり彼の視点は絶対であった。しかしこれは接待ではない彼は心の奥底から民衆に慕われていた。


 「やあやあ、僕の愛する国民たち、僕の哀する人民たち、僕のAIする親民たちよ、ごきげんよう。こんな真昼間から集まってくれてありがとう、、、」

 この場にいるだれがどの角度から見ようと、どのような核心を持とうと、どのような革新を起こそうと覆らない。彼の真っすぐな表情は、はたから見れば本気であり狂気であり凶器にもなりうる正しく真っすぐではあるがもろく儚いものだった。

 演説を見る群衆たちは微動だにせず彼の話を聞いている。通常下の人間に慕われている者は崇められ、持ち上げられ、わざとらしいくらいに愛されているはずだ。しかしネログリフィスの演説をするこの場を一目見てそのような印象を受ける人間は非常に稀有だろう。

 なぜなら一万人の群衆でわずか二人を除く全員がネロの話をただ体も動かさず黙って聞いているからだ。黙って話を聞くという行為は正しい。しかし老若男女、子供を問わず彼の話に対して何のリアクションも示さないというのは話を聞くという行為が正常に行われ過ぎて普通の異常以上に異常だ。

 「いきなりですまない、一つ世間話をさせてくれないだろうか?」

 それを聞いた群衆は彼のことをじっと見るだけだ。

 「一昨日、僕は工魔科学帝国マンスの三番街にある第三区画技術革新記念公園に午前7時30分ごろ朝の散歩でもしようかと思って来ていたんだ。そこで、三番街の名物である石焼ブレッドを売っている、パン屋アジアンの息子マルチネスが逆上がりを練習しているのを見つけた。子供だからね、逆上がりの練習くらいはするだろう。彼はね何度も何度も失敗しては転んだ。子供だからね失敗することもあるだろう。僕は15時間くらい彼の事を見ていた。子供だからね15時間くらい逆上がりに熱中してしまうこともあるだろう。彼はそれでもまだまだ続けた。やがて失敗したその数が3000を超えた、もうそのころには深夜5時くらいになっていた。彼の足は折れ、彼は血反吐をたらしながらずっと逆上がりをし続けていたんだ。子供だからね、それだけやれば足も折れるさ。やがて5000を超えるころ彼の腕が壊れた。その時には朝日が上がっていた。彼はその時初めて泣いたんだ。子供なのにね、ずっと彼は自身の挑戦を続けたんだ。彼は逆上がりを成功するまで続けるという設定を守った。8月8日の朝8時に逆上がりをして腕と足を壊すという設定を、大義を果たしたんだ。これは素晴らしい、素晴らしいことだ。誠に真に実に彼は正しかった。」

 ネロ・グリフィスはゆったりと台本でも読むかのようにすらすらと彼の見た事実を話し続ける。それに対しても群衆は何も言わない。

 「君たちは彼についてどう思う。」

 その刹那、焼いているポップコーンがはじけるみたいに、振りに振り続けた炭酸の栓を開けきるみたいに、その場に余白が全くない拍手の波が押し寄せる。歓喜の声が押し寄せる、関係ない人が全くいないとでも言いたげなくらいに全員がマルチネスを褒めたたえる。


 この街は正しいどこまでいったって至って正しいのだ。この群衆はネロ・グリフィスの信者ではない。マルチネスの信者でもない。正しさの信者。ただただ正しさだけを信じている。これこそがネログリフィスにとっての想像し創造してきた理想郷であった。

 「今日は僕にとっていや僕たちにとっての彼岸であり悲願でもあることを君たちに伝えに来た、、、」

 ネロは大きく息を吸った

 「今日ここに、国家転覆罪及び密入国罪を理由にライオネル領次期領主レオン・ライオネルの処刑を宣言する。証拠となる証言はある。上がってもらっても構わないかい?リオネス」

 そうネログリフィスが言うと演説台の前に一人の衛兵が近づいてくる。ネログリフィスは彼に発声器のようなものを渡す。


 「私は昨日の午前11時ごろレオン・ライオネル様の従者元剣聖ランスロット・アレクシアに攻撃を受け気絶しました。その証拠として、、、」

 その声は人間の声なのに機械よりも機械らしい淡々としたものだった。彼はアレクシアに猫だましを食らったときにかすった頬の傷を兜をとって見せる。


 「君たちはこれについてどう思う?」

 ネロはまるで答えの分かっているテストの解答を書くみたいに言った。

 この場にいる。一万人の市民の内9997人がその瞬間右手を天に上げた。マルティネスはその場に土下座のような態勢でうずくまっている。おそらく彼にとっての賛成という意思表示なのだろう、、、

 「それでは今日の午後1時レオン・ライオネルの処刑を執行する。」

 ネロは死刑宣告でもするみたいに死刑宣告をした。


 それから数秒後、ネロの視界の端、噴水広場の右側から濁流のような血しぶきが上がった。それと同時に竜巻の形をした魔力残滓がネロの視界の端に振りまかれる。


◇◇◇

 

 噴水広場の端、綺麗に隊列された国民たちとは少し離れたところに聴衆の中で唯一帝国の国民ではない二人がいた。一人は元魔王軍直下四天王残魂のオルタ。もう一人はレオンの兄でありレオンの兄でしかない兄の中の兄ガルダ。オルタがガルダに向かって問いかける。 

 「だとよ?お兄ちゃん、お前はどう思う?」

 「ぶっ殺す、、、」

 ガルダは大きく息を吸う。

 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、ぶっ殺す。」

 「この世界は一に弟、二に弟、三に弟、四に俺、五にそれ以外。俺の弟以外の正しさなんざいらねえんだよ。俺の弟以外の世界なんざいらねえんだよ。それ以外の数式なんざいらねえんだよ。俺はこの世にあるそれ以外の数式全て嫌いだが。多数決はこの世で俺が最も嫌いな数式だ。」

 彼は目の前にいた手ごろな群衆に向けて鎖を放つ、その群衆はまるでスライムが解けるみたいに大量の血液を飛ばしながら、ただの肉塊となっていく。

 「耳障りだクソどもが」

 「あーあ、私は手伝わないよ」

 オルタはあきれたように笑いながら言った。

 

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