アイスに対してご主人様への愛を込めるメイドさん
僕と僕のマイメイドである、元剣聖ランスロット・アレクシアはめっちゃ美味しい氷菓を食べるために、僕たちの住む館から北に1200km離れた、-30度を下回る極寒の地、パオシェン山脈の、氷山龍ラオパオシェンの死体跡地に、永久凍結石と呼ばれる氷菓に使う氷を取りに来ていた。
もともとはくだらないテーマだったこの旅は、勇者と戦ったりだとか、生き別れの兄弟と再開したりだとか、そんなありきたりな深夜アニメのような展開に発展していき、なんだかんだあってアレクシアは無限の聖剣に胸を貫かれて眠りについていた。そう僕たちはなんだかんだあったのだ、、、
「死んでなかったんだね、、、」
僕はそんな最低な言葉を、今目を開けた自分の愛するメイド、元剣聖ランスロットアレクシアに向けて言った。でも生きていたんだね、というより死んでいなかったんだね、と言ってしまいたくなるほどに僕は彼女に死んでほしくなかったんだ。弟が死ぬくらいなら世界も自分も殺せる兄がいたように、僕は彼女が死ななければただそれだけでよかった。
「いきなり第一声がそれですか!ひどいです、坊ちゃま。私これでも命がけで勇者の体を乗っ取った怪物だのなんだのという面倒くさい輩と戦ったというのに!」
「ごめんごめん、、、君の寝顔があまりに可愛かったからさ、生きているように見えなかったんだ」
「誰の寝顔が死に化粧ですか!私のご主人様は本当にひどいご主人様だ」
彼女は怒ったような顔で僕に対して怒っていた。こんな小泉進次郎みたいなことを地の文で言いたくなるくらいに僕にとっての彼女はこの世のすべてだった。
「傷はもう大丈夫?」
「今の会話でまた開きかけてしまいました。」
「それは大変だ後で見てあげる」
「そんなこと言って胸を見る気ですね。坊ちゃま!そんな事をするのはあと5年早いです!」
「それは、絶妙に手の届きそうな目標だね」
そんなことを言い合いながら僕たちは笑った。まるで笑う事しか知らない子供みたいに二人とも笑った。実際今の僕は子供なのだけれど、人生二週目さすがに笑い以外の感情も知っている。悲しいだとか怖いだとか、人を愛する気持ちだとか、、、
そんなくだらない感情は大体知ってしまっているのだ。
ここは-30度を大きく下回る氷山龍の山頂。しかし不思議と彼女のことを待っている間は寒くはなかった。それどころか少しポカポカするくらいだ。おそらく氷山龍ラオパオシェンの死体が発する強大な魔力素が体内の恒常機能を高めているのだろう。
僕は夕凪から黄昏へと変わる綺麗なグラデーションで飾り付けられた空をバックに咲き誇る漂流の氷龍草を見る。
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「ここは綺麗だな、本物の勇者がいればもっときれいに見えたのかな?」
「何言ってるんですか?勇者ならいるじゃないですか?」
そういって彼女は僕のことを指さす。
「馬鹿なことを言うなよ、僕はただ壊すだけだ。勇者を壊す勇者それが僕。さっきは勇者になるだなんて言ったのだけれど、正直に言えばそれは最も勇者から遠い存在だろ」
「お言葉ですが坊ちゃま。その考え方は、少し稚拙かなと」
彼女は考える素振りをみせる。それが演技なのか本当なのかはわからなかった。多分どっちもだろう。
「坊ちゃまは勇者をただ壊したいだけではないのでしょう。坊ちゃまが壊したいのは本当に勇者だけなのですか?本当はわかっているはずです。坊ちゃまが本当に壊したいのは、、、」
「僕たちの物語が小説だったとしよう」
「はい?」
「君の言う通り、僕が本当に壊したいのは勇者だけではない。でもそんな言葉言ったらそれこそこの作品のテーマ性が崩壊する。だから僕が壊したいのは勇者だ。僕たちは大きな物語の中の小さなプロットにすぎない。その部品ごとの役割それを全うする。それが僕にとって勇者を壊す勇者という事だった。」
僕は諦念的にあきらめるという言葉を長ったらしく語った。それは中学の頃あまり好きではなかった社会科の教師の眠たくなってしまうような蘊蓄に似ている。
「なんかよくわからんです!まあいいや!坊ちゃまこれ見てください!」
彼女は小さな木製のボトルのような容器をメイド服の胸元から取り出す。君が始めた話だろというツッコミはなんだか野暮な気がしてできなかった。
「なにそれ?」
「シロップです。私が死んでもこのシロップだけは守り続けると心に誓い、かき氷大好き調査兵団に心臓をささげたのです」
「君はいつも心臓をささげているんだね」
「心臓なんていくつささげても減るものじゃないですから」
「そんな罰当たりな調査兵団は嫌だ」
要約すると、僕のメイドはこんな湿っぽい話はしたくはないらしい。もしくはシリアスな雰囲気になっても食欲の事だけは忘れない。強く生きている生物のようだ。そんな彼女が嫌いではなかった。
そういった彼女は、剣聖の加護スキル【かき氷をふわふわに作る刃】と【視線を刃に変える剣】を用いて、そこら辺にあるを永久凍結石シャリシャリと切り刻んでいく。
「こんなことに剣聖の加護を使うなよ罰当たりな。剣の神様に怒られるぞ」
「なんと!私はこれ以外の使い道を私は知りません。というかこんな事とは何ですか!こんな事とは!全国のかき氷屋さんに謝りなさい坊ちゃま。罰当たりです。かき氷屋さんは神様なんかよりも偉いんですよ!」
「そうだったのかよ、、、マジですんません。かき氷屋さん」
「かき氷屋さんを剣の神様とかいう、よくわからんニートと一緒にしないでください!金輪際かき氷屋さんの悪口を言ったら坊ちゃまの持病であるアイスクリーム頭痛を加速させます」
「アイスクリーム頭痛が持病なんていう奴はおそらくとても健康だろうから。ジャンジャン加速させてくれ。それで生活保護をもらおう。」
そんな会話をしていると彼女の両の手にはふわふわの氷が浮かんでいる。その氷に彼女は歯を使って器用にゆったりとシロップをかける。
そしてそのシロップがゆがんだハート型に変わったところで、、、
「坊ちゃまへの愛を込めた私のアイスお召し上がりください!」
「器とかないのか?」
「私の両の手があるではないですか」
「それを一般的には器とは言わない」
「そうですね、、、界隈ではご褒美といわれています」
「そんな最低な界隈に入った覚えはないぞ」
彼女が掬ったかき氷を見る確かにとてもおいしそうだ。
「安心してください!しっかり指の先までぺろぺろしてくれた方が私の高感度ポイントが上がります」
「字が間違ってないかそれ、、、」
僕は少し恥ずかしがりながらアレクシアの両の手に顔をうずめぺろりとかき氷をなめる。
すると、、、
「うっっまい」
「でっっしょ」
僕が顔を上げると僕の好きな人の好きな笑顔がそこにはあった。




