お兄様の記憶~ピクニックと虫取りを弟とする。普通の兄貴。
俺は弟に勇者になってほしいと思っている。
ハアルプの姉貴はそんな俺に向かって、気持ち悪いものでも見るみたいに、、、
「カオスだなお前は」
と何かをあきらめるみたいに言っていた。
別にカオスだろうがケイオスだろうがなんだっていい。俺は弟に勇者になってほしかった。勇者はいつも最後まで物語で立っているものだから。俺は弟という生命体にできるだけ最後まで生きていてほしかった。これはただそんなつまらないことを願った男の思い出。ただそれだけの思い出。
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「この葉っぱの名前はなんていうんだ?もし俺が第一発見者ならクソ花という名前を付ける。」
「その葉っぱの名前は獅子王のベンジャミン。小さいけれど美しい樹形が特徴で基本花を咲かさないベンジャミンという植物の中では珍しくそれは花をつける。でもその花は造花なんだ。本来の花としてあるべき機能である蜜をつけたりだとか花粉をつけたりだとかはしない。確か花言葉は、、、」
「さすがは俺の弟、こんなクソ花の知識まであるとは、、、お前はやっぱり勇者になれ!」
俺は俺の弟レオン・ライオネルの栗毛色の小さな頭をくしゃくしゃとなでる。
「だからクソ花じゃないってば、っていうか今の会話のどこに勇者要素があるんだよ、、、」
「おいレオン、、、」
さらさらとした髪の毛をなびかせながらハアルプの姉貴が珍しく口を開く、この女の口の中を俺は家族だというのに見たことがない。おそらく女なので喉チンコはついていないという事だけは知っている。
「お前は勇者にだけはなるな。賢者にでもなってろ、、」
そういって彼女はレオンの栗毛色の頭をこれまた外したことを見たことがない薄手の革のグローブをつけた右手でなでる。
俺たち三人はライオネル領の中にある、夕焼けの森林の日暮れの丘という場所でピクニックをしていた。この丘では名前の通りそこそこ綺麗な夕焼けが見えるらしい、、、しかし今は真夏の真昼間、
「クソアチイぞ馬鹿太陽、、、」
俺は右手に持った鎖をジャラジャラと鳴らしながら文句を言った。
「もう兄さんが急かすから、、、本当だったら、今くらいに家を出れば全然夕焼けには間に合うはずだったんだよ」
「まあ細かいことは気にすんなって。この森にはめちゃくちゃでけえ獅子丸と呼ばれるカブトムシが出る。ってとっつあんが言ってただろ、、、」
「それのためか、子供だな、、、カブトムシは基本夜行性なんだよ。兄さま」
呆れたようにレオンはため息をついた。
「俺がお前くらいの年の時はよお、カブトムシって用語を聞いただけで、夜しか眠れなくなり、裸の女を見れば股間が膨らんだもんだぜ。」
「それはいつもの兄さまじゃないか、蜜があればすぐに飛びつく兄さまはカブトムシみたいなものかもね、、、」
そんな会話をしている一同の耳にブウンッという大きな羽音のような何かが聞こえる。
何かがこちらに向かって近づいてくる。それも、ものすごい速度で、、、
「気づいたか?」
「うん」
「・・・・」
ハアルプの姉貴は何も答えることはない。
「魔力反応それもでかい、、、しかも魔力探知を隠す気なんてさらさらないようだ。こっちの魔力に反応して向かってきている。」
「こりゃ面白いねえ、なるほど、クソデカカブトムシの正体。それは、、、」
森から飛び出てきたのは黒色の物体それには角が一本あり鎧のような殻を纏っている。そしてその大きさはゆうに10mを超える。そんな黒色の塊が時速100km以上で俺に向かって突進してきている。それは紛れもなくカブトムシだった。おそらくこの森が持つ特殊な魔力素を取り込むことによって突然変異をしたカブトムシそれが獅子丸の正体。
「フォカッチャ!不動の加護 ベクトルストップ」
俺はその超高速で動く化け物に右手に持つ鎖を当てる。その鎖を当てた瞬間その化け物の動きがぴたりと止まる。その黒色の化け物には俺に向かって伸びる大きな赤い色の矢印があり。それと異次元から伸びてきたかのような金色の鎖が体の周りにくっ付いていた。
「赤かまあまあ強いみたいだな。」
俺の【不動の加護】は対象の物理的ベクトルに干渉する。概念操作型の加護。俺の鎖を当てることで対象の物理概念を一時停止することができる。と同時にその生物の動きの物理的出力とベクトルを表示できる。物理的出力に関しては黒が最高で白が最低、それ以外の色はなんとなくの印象で決まっている。ただこの加護の真価はそれではない。
「超高速フルチン本気パンチぶっ殺すという思いを込めて、千連発!フォカッチャ!」
俺は止まった黒色の塊に対して何度も何度も魔力を込めたパンチを当てる。すると矢印の色が変わっていく赤から黄色、黄色から緑、緑から白そしてその白い矢印の方向が逆転する。その矢印が白から緑。黄色をすっ飛ばして赤、最後には紫。
「ぶっ飛べ」
そのカブトムシはぐにゃりと空間ごと捻じ曲げられたみたいな衝撃波とともに、硬そうな殻をぶち破り向かってきた方向と逆方向に爆散する。
ベクトルの概念操作と力学的エネルギーの蓄積と発散。それが俺の加護【不動】
「ねえねえ兄さま。」
俺のかっこいい雄姿をみて弟は感動しているのだろうか。少し興奮気味だ。
「あれ」
弟は昼間だというのに少し黒ずんだ空を指さす。
「なんだ雨か」
しかしその空にはさっき殺したカブトムシと同じような魔力反応が何万とある事が、その黒の群れが近づくことで俺にもわかった。角の群れがこちらを向いているのが分かった。
「ああまじか、クソダリい」
◇
俺は弟のためにその何万を超えるクソデカカブトムシの群れを殺した。
「ねえねえ兄さま」
「次は何だ、、、メスのカブトムシか。今の俺はちょっと欲求不満だから触覚でしてもらおっかな」
その時弟が指をさしたのは茜色の空に輝く宝石みたいな夕焼けだった。
「綺麗だね」
「ふん、まあこんなのも悪くねえか。」
「そういえば、さっきのクソ花の花言葉って何だったんだ?」
「え?えっと偽物の家族愛だったかな確か、、、」
「そうか、」
「・・・・」
ハアルプはそれに対しても夕焼けに対しても何も答えない。
「カブトムシ退治をちょっとは手伝え。クソ姉貴」
ハアルプに対しドロップキックをかます俺、それをひらりとかわしたハアルプはゆったりと自身のグローブをつけた右の手の甲を見た。そして、、、
「〇〇〇〇〇。」
◇
時はレオンと別れたころに戻る。
「お前はあの時に言った言葉覚えているか?」
勇者ラルフの皮をかぶった鎖で巻かれたハアルプに俺は問う。
「知らん。覚えていたくもないな」
「嘘つき」
俺は魔力素に満ちているとはいえ、少し寒い氷山龍の上で白い息を吐きながら、馬鹿な姉貴をからかった。




