剣聖メイドさんの記憶~勇者とは世界を救うという命題以外のすべてを投げ捨てられる者の事だ
私は銀に輝く自身の剣の切っ先を見て少しにやける。私は剣と会話をすることができると思っている。
勿論実際に剣と声をかわすわけではないけれど、今剣が何を考えていて、その剣がどうしてほしいかどうしたらその剣を使いこなせるかその全てが私にはわかる。
人々は皆それを私が剣聖だからだと思っているようだが、私自身はそうではないと思っている。私は剣聖なんてものはただの称号に過ぎなくて私にとっては剣を愛し、剣をふるい、剣で殺す。それだけできればいい。まあつまるところ何が言いたいのかといえば私はそのくらい剣を愛しているということだ。
「また剣と話してんのかお前、、、これから北の大帝国マンスの軍勢二万人をたった一夜で自身の傀儡にしたと言われている。かの邪知暴虐の王魔王軍四天王残魂のオルタ討伐だってのに気楽なもんだぜ。この戦闘狂は。だよな勇者様」
そう話しかけてきたのは、回復魔法以外の補助魔法、強化魔法、状態異常魔法、攻撃魔法の五大魔術の内の四つを極めたとされる私たちのパーティーの魔法使いであり、のちに賢者といわれる魔導協会の神童ガリレイだった。
私たちは魔王軍直下四天王残魂のオルタに占領された北の大帝国マンスを奪還するという名目で王国の威信のアピールのために即席で作られた勇者パーティーという名前の捨て駒だ。
残魂のオルタは魂を入れ替えたり魂を支配したりすることのできると言われている魔王軍の中でも倫理観に欠けた、まさしく邪知暴虐という言葉がふさわしい怪物だ。
「、、、、、、、」
その語り掛けに対し何の返答もせずただただシルクのようなさらさらとした金髪を夜風に揺らす人物。後に勇者と呼ばれる勇者ラルフその人だ。
「先が思いやられるぜ、お前ら少しは人間とのコミュニケーションってものをとれよな。全く」
そういったガリレイはぼさぼさの頭を掻きむしりながら独り言ちる。
私たちは北の大帝国マンス奪還のために戦って戦って戦った。私たちは残魂のオルタに魂を操られている人間も含めた約3万の軍勢を1時間ほどで掃討した。
それまでだれも人類が魔族に勝つなど期待してはいなかったというのに、私たちの顔も声も強さも今まで積み重ねてきた研鑽も知らなかったというに、その一夜以降私たち三人の名を知らぬものは魔人族を含めて誰もいなくなった。
私たちが北の大帝国マンスの中枢である紅魔城に着くころには屍の山は北に見えるはずの標高7000mを超えるパオシェン山脈を覆い隠すほどに膨れ上がっていた。
そこにあるのは魔族の死体だけではない。残魂のオルタによって操られていた人間の死体もある。私たちは屍の山を振りかえる。その屍の山は私たちがただの英雄ではないことの証明だ。
「俺たちはヒーローじゃない。俺たちは正義の味方ではない。俺たちは優しくはない。一つ予言をしておいてやる俺達が行きつく先は地獄だ。よって俺たちはただの英雄じゃない勇者だ。勇者とはなんだ?」
「、、、、、、」
その問いかけにも何も答えはしない。この人は私以上に無口な人だ。でも勇者になるべくしてなったのだと私は思う。
この人は普通の勇者とは違う。本来勇者とは前線に立ち勇者にしか使えない高位な雷呪文を用いた攻撃魔術や剣術を主体として戦っていく。しかしこの人が今日やったことは私たちに対する回復魔法と私たちに対する肉体強化魔術そして、、、
「、、、、、、」
屍の山に近づいていく勇者は魔族も人も関係なくその死体に回復魔術を施す。その無残な死体の数々は綺麗な形に戻っていく。
「お前はなんもわかってねえよ勇者!勇者とはな、世界を救うという命題を除くその他すべてを犠牲として最後に立っているもののことだ。おまえは優しすぎる。死体を直して何になんだ?まだ腹が減ったから焼いて死体食っちまう奴のほうが勇者としてはましだ。おまえはこのままだと善意のカニバリズムに一生溺れることになる。」
「、、、、、、」
勇者は相も変わらず何も答えない。
私はガリレイという男の言っていることが分からないわけではなかった。優しさの方向性が違うだけなのだと思う。彼女らの会話のちぐはぐさがしっかり研がれていない剣みたいで私は少しどぎまぎした。
「ッち無視かよ」
そういった彼は残魂のオルタの待つ紅魔城に向かって歩いていく。




