雷魔法が使えるのは勇者だけというお約束を知っているメイドさん
僕と僕のマイメイドである元剣聖ランスロット・アレクシアはたかだかめっちゃ美味しい氷菓を食べるために僕たちの住む館から北に1200km離れた工魔科学帝国中枢紅魔城禁書庫にいる、工魔科学帝国第一王子ネログリフィス三世に氷菓に使う永久凍結石をもらうために会いに来ていた。
「ネロ君!私のご主人様に負けたのだから、さっさと国宝である永久凍結石を出しなさい。今からシャリシャリフワフワのかき氷にします。」
「まったくもってふざけた人だな君は、、」
ネログリフィスさんは蒼玉のような澄んだ瞳を薄いガラス細工のようにして優しい笑みを僕たちに向ける。
「永久凍結石を君たちに渡す前にランスロットアレクシア。否、元勇者パーティーの剣聖として確認したいことがある。」
「なんですか?ネロ君」
そういったネロさんは先ほど禁書庫に入る暗号解読のために使った勇者ラルフの活躍をたたえた絵本を右手に持っている。
「勇者ラルフは生きているのか?」
アレクシアの瞳が一瞬バースデーケーキのろうそくが消えかけるみたいに揺らいだのが僕にも分かった。
「どういう意味ですか?ネロ君」
「ラオパオシェンの死体跡地が何と呼ばれているのか、レオン殿は知っているかい?」
「一応うわべだけの知識ならばあります。体長1kmを超えるラオパオシェンの体には大量のミネラルと魔力素が含まれており、氷山龍骨生物群集と呼ばれる独自の生態系がそこには形成されている。一番寒い時期では-50を下回ることもある永久凍土であったパオシェン山脈の地に多種多様な生命を育んでいる。という事くらいならば」
「さすがは名家であるライオネル家の次期党首候補、素晴らしい100点満点の解答だ。しかしパオシェン山脈周辺は夏季であってもマイナス30近い極寒の地であることに変わりはない。その地に立ち入る人間など永久凍結石を求める冒険者か?はたまた君たちのようにめっちゃ美味しい氷菓を死ぬ気で食べたがっている、いやしんぼうくらいのものさ」
僕たちには耳が痛い話だ。
「そこである冒険者が見たらしい。雷魔法発動時特有の魔術残滓である、特有の天にきらめく龍の紋章を、、、」
「それと勇者と何の関係があるんですか?」
「雷魔法は勇者以外は使えないんだよ、」
「いや、雷魔法なら僕だって。」
そういった僕は「ぱちぱち」という小さな音が鳴る電撃を人差し指から発雷する。
「ああすまない。言葉足らずだったね。正確には使えはするけれど、魔術残滓が残るほどの強大なものは勇者以外には扱えない。まあ戦いには使えない程度に考えてもらって構わない」
「なるほど、、、」
「勇者ラルフは死んでいます。絶対に、、、だって勇者ラルフを殺したのは私なのだから」
目に少しだけ雫をためた目の前にいる僕の好きな一人の女性は声を少し震わせて言った。
「まだそんなことを君は言っているのか、、、」
「私は彼、、、、、いや、これはもういいか。私はあの人の才能を殺し、あの人の命を殺し、あの人の愛を殺しました」
いつもの陽気な彼女とはかけ離れた凍ったような表情でアレクシアは言った。
「こんなところまで押しかけて申し訳ないのですがネロ君。やっぱり永久凍結石は要りません。それとごめんなさい、レオン坊ちゃま。ラオパオシェンの死体跡地には私一人で行きます。永久凍結石をとって帰ってくるので待っていてください」
そんなことを言う彼女はまるで自殺でもする前みたいな魂の抜けた表情をしていた。
「いいのかい?」
「はい、雷魔法の使い手は私が必ず、、、」
その先を言おうとしたアレクシアの口を僕は左手で抑える。
「だめだ、そんな危険なところにお前ひとりでは行かさない。だって君は僕のダイヤモンドなのだから」
「ついてこないでください。これは子供の遊びではありません。足手まといです。坊ちゃまがいたってなにも変わらない」
そんなことを言われても全く気にすることはなく、彼女の目にたまった雫を僕は優しく左手の人差し指で払う。
「足手まといで結構だ。僕はお前の涙を止めてやる。泣かないでなんて、言わないし泣きたければ勝手に泣いていればいい。僕が勝手に涙を止めてやるし、お前を人殺しなんかにはさせない。僕とおまえで作るんだ」
それを聞いた彼女は呆けた表情をしていた。
「何をですか?」
「ランスロット英雄譚の101ページ目を!」
「そんなこと今はどうだって、、」
「行かさないよ、君一人では絶対に。僕は君のご主人様だ。それにただのメイドのご主人様じゃない。今日から僕は剣聖メイドのご主人様になる。」
「なんですかそれ、、、」
彼女の口元が少し震える
「ちょっとおもろいです。ふふふ」
彼女はまるでダイヤモンドみたいに笑顔をきらめかせる。いつもみたいに
「笑うなよ!」
元剣聖メイドランスロット・アレクシアはある日の勇者と自分のご主人様を全く似てないと思いつつも、少しだけ重ね合わせてしまった。




