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五人の密談 帝都と古都の天秤


 「彷徨える勇者の休息亭」の最奥の寝椅子(ソファー)


 「そこそこの盗賊」のキロが、いつも居眠りを決め込むその場所は、帝都の至宝とも呼べる二人の美女が加わったことで、大トライブの命運を左右する重大会議へと変貌を遂げていた。


 「……刺客、ですか」


 ビディは、ヴェリティが語った古都の内部抗争と、昨夜の襲撃計画を静かに聞き届けた。


 その絶世の美貌には、慈愛とともに、大聖堂の枢要を担う者としての鋭い洞察が宿っている。


 「ヴェリティ様、それは単なるトライブ内の主導権争いでは済まされないかもしれませんわ。今、宮廷や宰相府、大聖堂には、『金色の月光団』マラート派とおぼしき一団と繋がりを持つ有力貴族たちが、頻繁に出入りしておりますの」


 「なんですって……?」


 ヴェリティが細い眉を寄せる。ビディの言葉は、トライブの権力闘争が、すでに帝国の政界にまで根を広げていることを示唆していた。


 ルーシーは、運ばれてきた麦酒の筒杯(ジョッキ)を傾けることもせず、腕を組んで鼻を鳴らした。


 「あたしの耳にも入ってるよ。古都のマラートとかいう男、最近は帝国騎士団や錬金術学院にも接触して来てるそうよ。あからさまに自分の影響力を広げようと、してるらしいじゃないか。ヴェリティ、あんたを狙ったのは、その不穏な動きをトライブの良識派に悟らせないための口封じなんじゃないのかい?」


 ヨハンは、ルーシーの言葉に重々しく頷いた。


 「……恐るべき慧眼だ、魔剣の天使殿。我々が把握していた以上に、マラートの毒は深く回っているようだな。奴は『金色の月光団』という枠組みさえ利用し、古都と帝都の間に独自の利権構造を築こうとしている」


 「もしヴェリティ様が消され、第九統率群が彼らに吸収されれば、月光の均衡(バランス)は完全に崩れます。それは巡り巡って、帝国全土の治政にも影を落とすでしょう」


 ウェンディが、切迫した表情で付け加えた。


 ビディは、自身の慈善司教としての立場を再確認するように、静かに聖印を切った。


 「大聖堂としても、不浄な野心のために帝国の安寧が脅かされるのは看過できません。ヴェリティ様、マラート派と繋がる貴族たちの動きについては、私が密かに精査し、必要な情報を共有いたしますわ」


 「助かるわ、ビディ。あなたのような方が味方にいてくれるなら、これほど心強いことはないわ」


 ヴェリティは、親愛の情を込めてビディの手を握った。


 ルーシーもまた、不敵な笑みを浮かべて剣の柄を叩く。


 「政治的なことはビディに任せるさ。あたしは、もしまたそのネズミどもがこの街でヴェリティの命を狙うなら、あたしの剣で全員叩き切ってやる。……統率長さん、あんたたちの派閥争いに、「魔剣の天使」を巻き込む覚悟はできてるんだろうね?」


 ヨハンは、ルーシーの放つ圧倒的な威圧感――「帝国最強の前衛」、「魔剣の天使」としての矜持――に、武人として深く頭を下げた。


 「……感謝する。我ら月光の不始末に、これほどの名士たちの手を煩わせるのは心苦しいが、今のヴェリティには盾が必要だ。我々第九統率群も、全力で彼女を支えることを誓おう」


 酒場の喧騒から隔絶されたこの一画では、今、古都の陰謀に対する帝都の防塁が完成しようとしていた。


 「ふふ、なんだか凄まじいことになってきたわね。軽い調査のつもりだったのに」


 ヴェリティは笑いながらも、その瞳には名家の才女としての、そして上級幹部としての揺るぎない覚悟が宿っていた。


 「さあ、そうと決まれば、今夜はもう少しこの素晴らしい時間を楽しませてもらいましょうか。ガルバン! 一番いい葡萄酒(ワイン)をもう一本持って来なさい!!」


 ヴェリティの明るい声が、緊張感に満ちた空気を僅かに和らげる。


 しかし、彼女たち五人は知っていた。この夜の会合が、やがて来る大きな嵐の前の、束の間の静寂に過ぎないことを。


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