再調査と逃亡
帝都近郊の迷宮へと続く、薄暗い回廊。
ヴェリティは、緑色の網長靴下に包まれた長い脚で、迷宮の湿った石床を確かな足取りで進んでいました。
後ろから見れば、形の良い大きな臀部が大胆に露出したその衣装は、迷宮の寒気など微塵も感じさせない熱量を帯びています。
「さあ、しっかりついてきなさい。あなたたちの今日の働き次第で、トライブから特別な報酬が出るかもしれないわよ?」
ヴェリティが優雅に、かつ快活に声をかけると、背後に続く三人の冒険者たちは緊張と興奮の入り混じった表情で頷きました。
「ヴェリティ様、前方に気配です! 多分、罹り犬かと!」
野伏のドワイトが声を潜めて報告します。
彼は中堅らしい鋭い観察眼で、暗闇に光る複数の眼球を捉えていました。
「あら、ちょうどいいわ。クロエ、あなたの魔力を見せてちょうだい」
ヴェリティに促され、中堅魔法使いのクロエが進み出ます。
「――『氷の礫』!」
放たれた魔法は正確に罹り犬の足を止めました。
そこへ、中堅冒険者パーティー「銀の針」から一人参加した戦士ドランが、雄叫びを上げて斬り込みます。
「うおおおおおお!」
ヴェリティが指先を軽く振ると、ドランの剣に微かな熱が宿りました。
彼女の火炎魔法による微細な魔力付与です。
「ふふ、なかなか筋の良い戦士さんね。良い感じよ」
ヴェリティは指導管理官としての顔を覗かせ、的確な指示と魔法の援護で、即席のパーティーを見事に統率していきました。
その頃、赤金横丁の「彷徨える勇者の休息亭」では、主人のガルバンが大きな溜息をついていました。
「まったく、キロの奴……。あんな美人に誘われて逃げ出すなんて、贅沢な野郎だぜ」
店の隅では、人気の娼婦エスメラルダが、艶やかな髪を指で弄びながら笑っています。
「あら、ガルバンさん。キロにとっては、ヴェリティ様の、あの溢れるほど艶のある豊満な身体は、刺激が強すぎたんじゃないかしら?」
「あるいは、あの鋭い観察眼が怖かったのかもね」
同じく娼婦のアンナも加わります。
そこへ、店外で用事を済ませてきた用心棒のエゴンが戻ってきました。
「おい、さっき裏路地でキロを見かけたぞ。アイツ、古本屋の軒先で居眠りしてやがった」
女給のミラとメルが顔を見合わせて吹き出します。
「やっぱり! 迷宮へ行くより、居眠りの方が大事なのね、あの人は」
夕刻、ヴェリティたちは無事に迷宮から帰還しました。
ドワイトとクロエは、上位魔女との探索で多くの経験を得たことに満足げで、ドランにいたってはヴェリティの美しさと実力に完全に見惚れている様子です。
ヴェリティは彼らに報酬を渡して解散させると、真っ直ぐに休息亭の扉を開けました。
「ただいま、ガルバン。……それで? 私の案内役さんは、いつになったら戻ってくるのかしら?」
ヴェリティは妖艶な微笑みを浮かべたまま、空席となっている奥の寝椅子を指差しました。
その目は、逃げたキロを許してはいませんでした。
むしろ、自分をあしらった「そこそこの盗賊」に対する興味は、さらに燃え上がっているようです。
「ヴェリティ様、キロならさっき店に戻って……あ、また裏から逃げやがった!」
ガルバンの声が響く中、ヴェリティは高踵靴を鳴らして露台へと向かいました。
「ふふ、いいわ。追いかけっこは得意なの。次にお茶に誘う時は、逃げられないように魔法で縛り付けてあげましょうか」
彼女はそう呟くと、露台でいつものように、届いたばかりの菓子に突き匙を伸ばすのでした。




