再調査の依頼
帝都の西、赤金横丁に店を構える「彷徨える勇者の休息亭」の午後は、いつも通りの喧騒に包まれていた。
二階の露台では、古都の名家出身であり有力トライブ「金色の月光団」の上級幹部でもある上位魔女、ヴェリティが優雅に紅茶を楽しんでいた。
光沢のある緑色の連体着衣に、透けるような黄緑色の絹の肩掛けを纏った彼女の姿は、帝都の冒険者たちの間でも『爆炎の上位魔女』として注目の的だ。
「……さて、そろそろかしら」
ヴェリティは菓子の最後の一口を堪能すると、一階を見下ろした。
彼女の狙いは、店の奥の寝椅子でいつものように微睡んでいる男、キロだった。
前回の迷宮調査で見せた、ただの盗賊とは思えぬ、そこそこの腕前と、掴みどころのない雰囲気に、彼女は強い興味を抱いていたのだ。
ヴェリティは高踵靴を鳴らしながら階段を下り、キロの元へと歩み寄った。
股間から腰まで深く切れ込んだ衣装が、歩くたびに彼女の美しく豊かな肉体を強調する。
「ねえ、キロ。昨日の続き、もう一度迷宮の深層まで付き合ってくれないかしら? あなたの罠解除の技、もっと近くで見たくなったの」
ヴェリティが艶然と微笑み、豊満な胸元を強調するように身を乗り出したその時だった。
「……あ、悪い。ちょっと腹が……い、痛い!」
キロは返事もそこそこに寝椅子から跳ね起きると、脱兎のごとく店の裏口へと走り去った。
「あら?」
ヴェリティが呆気に取られている間に、キロの気配は完全に消えた。
女給のミラとメルが顔を見合わせて苦笑いする。
「ヴェリティ様、残念でしたね。キロさん、ああ見えて逃げ足だけは超一流ですから」
主人のガルバンが付け台越しに声をかけた。
「ありゃあ、確信犯だ。魔女様に目を付けられて、ビビったんだろうよ」
「ふふ、私に追いかけられるのが怖いのかしら?」
ヴェリティは蓮っ葉に笑い飛ばしたが、調査の手を休めるつもりはなかった。
彼女は店内に視線を走らせると、即座に交渉の姿勢へと切り替わった。
「キロがいないなら仕方ないわ。誰か、腕に覚えのある冒険者はいないかしら?」
その呼びかけに、中堅冒険者の野伏ドワイトと、魔法使いのクロエが名乗りを上げた。
さらに、中堅冒険者パーティー「銀の針」から戦士のドランも加わる。
「よし、決まりね。あなたたち、古都の上位魔女が直々に指導してあげるわ。光栄に思いなさい」
ヴェリティは上級幹部らしい毅然とした態度で彼らをまとめ上げると、高踵靴を鳴らして店を出た。
その様子を用心棒のエゴンやライルが黙って見送り、娼婦のアンナとエスメラルダが「あの格好で迷宮なんて、目のやり場に困るわね」と囁き合う。
一方その頃、赤金横丁の裏路地では、逃げ出したキロが壁に寄りかかって溜息をついていた。
「……危ねえ。あの美人に捕まったら、今度こそ骨までしゃぶられそうだ……」
キロが安堵の表情を浮かべていたその時、休息亭から出てきたヴェリティ一行が通りを横切っていくのが見えた。
彼女の緑色の網長靴下に包まれた美しい脚と、肩掛けの下で揺れる肉感的な身体は、遠目からでも眩いほどだった。
「さて、あいつらが戻るまでは、ゆっくり出来るな……」
キロは再び『彷徨える勇者の休息亭』の裏口から、いつもの場所である最奥の寝椅子へと戻っていった。
ヴェリティによる再度の迷宮調査が、新たな騒動の予感と共に幕を開けた瞬間だった。




