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半月小路の秘め事


 帝都の喧騒が届かない場所がある。


 銀色の月明かりが石畳を照らす、迷路のように入り組んだ半月小路の奥。


 その一角に建つ古い館の二階、キロの自室「居心地の良い部屋」は、煙草と琥珀色の火酒の香りが微かに漂っていた。


 「……ふぅ。今夜は月が明るいね」


 キロは、手入れの行き届いた焦茶色の半長靴(ハーフブーツ)を脱ぎ捨て、黒の長袖の貫頭衣(Tシャツ)と黒い穿袴(ズボン)のまま、大きな寝椅子(ソファー)に身を横たえ、硝子盃(グラス)を傾けた。


 窓の外には、夜の(とばり)に沈む帝都の屋根が続いている。


 寝椅子でくつろぐ彼は、どこか世俗を離れた老学者のようであった。


 トントン、と控えめに扉を叩く音が響いたのは、彼がちょうど二度目の欠伸を噛み殺した時だった。


 「鍵は開いているよ」


 扉が静かに開き、夜の微風と共に、一輪の白百合のような輝きが室内に溢れた。


 そこに立っていたのは、大聖堂の慈善司教にして帝都一の高位魔導師、至高の聖女と称えられた絶世の美女。


 帝都中の羨望を一身に集める麗人、ビディだった。


 「お疲れのようね、キロ。また独りで、深いところまで潜っていたのかしら」


 ビディの声は、冷たい絹が肌を滑るように心地よい。


 彼女の装いは、およそ聖職者らしからぬ、清楚且つ妖艶なものであった。


 胸元が大胆に開き、身体の線が際立つ、ぴったりとした純白の丈の短いワンピース。


 薄い生地の下で、たわわな双丘が呼吸に合わせて密やかに波打っている。


 太腿から下へと伸びる白の網タイツが、彼女の長く美しい脚を艶やかに包み込み、足元の白いピンヒールが静かに床を叩いた。


 「まあね。でもそこまで深いところじゃないよ。」


 キロが寝椅子の上で静かに体を動かし、彼女を招くように横を空けた。


 ビディは迷うことなく歩み寄り、キロの隣に腰を下ろす。


 彼女は、キロに顔を近づけ穏やかに微笑した。


 理知的で聡明怜悧な淑女。


 気品溢れる毅然とした聖女。


 しかし、彼は知っていた。この完璧な麗人が、自分の前でだけは、その気高い理性を脱ぎ捨て、剥き出しの欲情と怠惰の海に揺蕩(たゆと)う牝に変わることを。


 「今夜はどうしたんだい ビディ」


 ビディは穏やかな微笑を崩さずに、彼の耳元に顔を寄せて囁いた。


 「あら、理由が無ければ、来てはいけなかったのかしら」


 細い指先が、キロの黒い貫頭衣(Tシャツ)の襟元を辿り、色白な彼の首筋に触れた。


 指先は、熱く絡みつくように、キロの肌を辿る。


 キロは、その指を拒まず、静かに言った。


 「……せっかくだ。どうだい、一杯飲まな……」


 「……黙って」


 ビディが、キロの唇を自身の唇で塞いだ。


 彼女の瞳の奥に、情欲という名の熾火がゆらりと揺れる。


 彼女は、今この瞬間、高位聖職者としての尊厳も、気高い聖女としての慈しみも、聡明な淑女としての慎みも、全てを投げ打ち、最愛の男と愛を交わす高揚と背徳に、耐え難い陶酔を感じていた。


 ビディは優雅に、キロへと身を沈めた。彼女を迎え入れるように腕を伸ばしたキロは、ビディの(うなじ)を引き寄せ、深く、溺れるような口づけを交わした。


 濃厚な口づけが暫く続いた後、乱れた服を静かに脱いだキロは、寝椅子から寝台へと移った。


 そして、優雅に衣服を脱ぎ捨てるビディを眺めていた。


 彼女は服を脱ぎながら、その恍惚の眼差しを一度もキロから逸らそうとはしなかった。


 他の誰にも見せない彼の真剣な薄茶色の眼差しを、一瞬たりとも逃したくないと言わぬばかりに。


 美しく豊かな胸、(くび)れた細い胴部と大きく丸い尻、そして長く美しい脚。


 神々の造形と謳われるビディの裸体が月明かりに浮かんだ。


 「今夜は月が綺麗でしょ。貴方が欲しくなってしまいましたの。抱いて下さいな。」


 「……」


 寝台に横たわった彼女を覆うように、身体を寄せたキロは、ビディに口づけをしながら、豊かな胸をゆっくりと揉みしだいた。


 キロの舌先が、ビディの豊かな胸の突起をなぞり、細い指が、彼女の濡れた秘所を優しく這い進む。


 ビディの喉から、淑女らしからぬ熱い吐息が漏れた。


 月光は、絡み合う二人の影を壁に映し、キロの「居心地の良い部屋」は、帝都で最も甘美で濃密な愉悦に満たされていくのであった。

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