三人の茶会
帝都の爽やかな風が吹き抜ける露台に、もう一つの華やかな影が加わりました。
「あら、奇遇ね。ビディ、それにそっちの派手な美人は……古都の魔女様かしら?」
階段を上がってきたのは、薄紫色の短髪に不敵な笑みを浮かべた美貌の魔法剣士「魔剣の天使」ルーシーであった。
白と黒の縦縞の連体着衣に黒絹の肩掛けを翻し、高踵靴を鳴らして歩く姿には、諸侯貴族の令嬢としての気品と、熟練冒険者としての自信が同居している。
「紹介するわ、ルーシー。こちらは古都のトライブから調査にいらしたヴェリティ様よ。ヴェリティ様、彼女は帝都でも三本の指に入ると言われる剣士、ルーシーです」
ビディが穏やかに促すと、ルーシーはヴェリティの隣の席に腰を下ろした。
「よろしくヴェリティ。それにしても、人狼の件、大変だったわよ。古都の連中が逃がした獲物のせいで、こっちはえらい目に遭ったんだから」
ルーシーはサバサバとした口調で言い、運ばれてきた麦酒を一気に呷った。
ヴェリティはその勝気で竹を割ったような性格に好感を持ち、艶然と微笑む。
「ごめんなさいね。でも、貴女のような腕利きがいてくれて助かったわ。……ところで、下の寝椅子にいるあの男───盗賊のキロについても聞いていたの。彼も現場にいたのでしょう?」
「キロ? ああ、あいつなら隅っこでブルブル震えてたわよ。鍵開けとか逃げ足は一流だけど、戦いに関しては全くの役立たずなんだから」
ルーシーは笑い飛ばしながらも、その瞳には親愛の情が宿っていた。
彼女にとって、キロは気の置けない友人であり、お気に入りの飲み仲間だ。
身体の相性が抜群であることも、彼が時折見せる底知れない気配も、彼女だけの秘密として胸の奥に仕舞い込んでいる(彼を共有するビディは別として)。
貴族の令嬢として教え込まれた礼節が、野卑な自慢話を彼女に禁じていた。
「あら、そう。ビディ様は『ただの知人』、ルーシー様は『役立たず』……それにしては、二人とも彼を見る目が温かい気がするけれど?」
ヴェリティが探るように言うと、ビディは優雅に紅茶を啜り、一分の隙もない微笑を浮かべた。
「知人は知人ですわ。彼のような丸腰の男性が迷宮で命を落とさずに済んでいるのは、ルーシーのような強き友人が傍にいるからでしょう」
ビディの心には、さざ波一つ立っていなかった。
ルーシーがキロとどのような夜を過ごそうとも、ヴェリティが彼に興味を抱こうとも、どうでもよいことだった。
自分と彼との間にある「神々が紡いだ運命の絆」は、他の誰かが入り込めるほど浅いものではない。
その絶対的な確信が、彼女に無限の余裕を与えていた。
「ふふ、なるほど。帝都の女性は秘密主義なのね」
ヴェリティは二人の反応を楽しみながら、再び菓子を口に運んだ。
「でも、あんなに無防備に眠っている男の子を見ていると、少し悪戯したくなるのが魔女の性分なの。ねえ、このお茶が終わったら、彼を借りていってもいいかしら? 迷宮の案内役が必要なのよ」
ルーシーは「勝手にしなよ」と肩をすくめ、ビディは「お好きにどうぞ」と微笑む。
階下では、自分を巡る女たちの談義など露知らず、キロが幸せそうに寝息を立てていた。




