麗人たちの語らい
赤金横丁の喧騒を階下に聞きながら、『彷徨える勇者の休息亭』の二階の露台には、緩やかな午後の陽光が差し込んでいた。
白磁の紅茶碗から立ち上る紅茶の香りと、対照的な二人の美女。
至高の聖女と称えられるビディは、純白の盛装に身を包み、背筋を伸ばして優雅に茶を口にする。
その向かいでは、美貌の魔法剣士「魔剣の天使」ルーシーが、縦縞の連体着衣に黒絹の肩掛けを羽織った大胆な姿で、奔放に脚を組んでいた。
「……それで、昨日の彼はどうだったのかしら? ルーシー」
ビディが、静かな、しかし含みのある声で切り出した。
ルーシーは薄紫色の短髪を指先で弄り、不敵な笑みを浮かべる。
「相変わらずよ。いつも眠たげな顔をしているくせに、二人きりになると、驚くほど手際がいいわ。……なんて言うのかしら。私の剣筋を読み切るみたいに、一番触れてほしい場所を、一番良い感じで責めてくれるの」
「ふふ、よく分かるわ。彼は、相手が何を求めているかを察する天賦の才があるものね」
ビディは慈しむような眼差しで頷いた。
「あんたの時はどうなんだい、ビディ」
ルーシーが声を顰める様に聞いた。
「そうね、私との時は、もっと……そう、祈りを捧げる時のような、静謐でいて深い熱情を感じさせてくれるわ。私の心の奥底にまで根を張った、理性という名の鎧が溶けてしまうまで、彼は根気強く、そして優しく、魂の深淵まで触れてくるの」
「へぇ、至高の聖女様をそこまで蕩けさせるなんて。やるじゃない、あの優男」
ルーシーは感心したように溜息をつき、身を乗り出した。
「私の方はね、もっと野性的よ。彼、私のような女を、どう扱えば可愛らしく啼くのか知り尽くしているの。……昨日もそう。私の強がりを指先一つで解いて、最後には抗えないほどの歓喜で塗り潰してくれたわ。あの時の彼の、少しだけ意地悪で、それでいて情愛に満ちた瞳……。あれは反則よね」
「ええ、あの薄茶色の瞳には、どんな高位の呪文よりも抗いがたい魔力が宿っているわ」
ビディは少しだけ頬を染め、追憶に浸るように目を細めた。
「彼が私に与えてくれるあの至福のひとときは、他の何にも代えがたいもの。……ルーシー、あなたから聞く彼のお話は、とても興味深いわ。彼が私の知らない色香を、あなたに見せていると思うと、彼という人の奥深さがより愛おしくなるもの」
二人の間に、嫉妬の火花は一切ない。
そこにあるのは、同じキロという稀有な男を共有し、彼が持つ多面的な魅力を慈しむ、奇妙な連帯感だった。
「本当ね。あんたの話を聞いてると、今夜にでもまた彼の部屋へ行きたくなっちゃうわ」
ルーシーが豪快に笑うと、ビディもまた、淑やかな微笑を返した。
「次は、彼がどんな風にあなたを喜ばせたか、またゆっくり聞かせてちょうだいね」
帝都の至宝と呼ばれる絶世の美女二人が、一人の平凡な盗賊を巡って語らう午後。
露台を吹き抜ける風は、どこまでも穏やかで、甘い残り香を孕んでいた。




