天使との情事
半月小路の石畳が夕陽に焼かれ、長い影を落とす頃。
とある古びた館の二階、キロが住む「居心地の良い部屋」の重厚な扉が、遠慮のない音を立てて開け放たれた。
「───邪魔するわよ、キロ。まだ寝ぼけてるんじゃないでしょうね?」
涼やかな、それでいて張りのある声と共に現れたのは、帝都一の魔法剣士で「魔剣の天使」の異名を持つルーシーだ。
短く切り揃えられた薄紫色の髪が、西日に透けて淡く輝く。
彼女の装いは、いつ見ても周囲の目を釘付けにする。
白と黒の縦縞柄が鮮烈な、股上の深く切れ上がった連体着衣。
その曲線美を誇示するかのような出で立ちに、薄い黒絹の肩掛けがひらりと舞った。
「……ルーシーか。相変わらず、元気だね」
寝椅子で本を読んでいたキロが、眠たげな目を細めて顔を上げた。
「酒場で昼寝して、部屋では読書ってわけ?身体を動かさなきゃ鈍るわよ」
ルーシーは屈託なく笑うと、高い高踵靴の音を響かせて歩み寄る。
寝椅子から立ち上がったキロの前に立つと、高踵の分だけ彼を見下ろす形になった。
網目の粗い黒い網長靴下に包まれた長くしなやかな脚が、キロの膝を軽く小突く。
「今日は騎士団の連中に剣を教えてきたんだけど、どいつもこいつも堅苦しくて退屈しちゃった。……ねえ、口直しをさせてよ」
さっぱり性格の彼女に、前置きは不要だ。
ルーシーは豊かな胸を強調するように身を乗り出すと、キロの首筋に腕を回した。
「君の、口直しは、いつも激しいからね」
キロは苦笑しながらも、その細い腰を強く引き寄せた。
触れ合った瞬間、ルーシーの瞳に熱が灯る。
彼女の情愛は、剣技と同じく真っ直ぐで力強い。
寝台へ倒れ込む間も惜しむように、二人は絡み合った。
ルーシーはがさつに肩掛けを脱ぎ捨て、キロの貫頭衣を乱暴に捲り上げる。
「……んっ、やっぱりあんたの身体、最高だわ」
連体着衣の薄い布越しに、ルーシーの豊かな胸がキロの薄い胸板に押し潰される。
彼女は勝気な笑みを浮かべたまま、キロの唇を貪欲に奪った。
情事は、彼女の気質を映すように野生的で、直情だった。
高い高踵靴を履いたままの脚が、キロの背に回され、網長靴下のざらついた感触が肌を刺激する。
ルーシーは快楽に身を委ねながらも、主導権を渡すまいと腰を跳ねさせた。
「あ、はぁっ……キロ……! もっと、強くしなさいよ。男のくせに、そんなに優しくてどうするの?」
挑発的な言葉とは裏腹に、彼女の身体は熱く潤い、キロを強く締め上げる。
キロはルーシーの甘い香りと、匂い立つ情欲を楽しみながら、彼女の激しい調子に応え、その形の良い豊かな尻を両手で掴み、深く、深く突き入れた。
「ふ、あ……っ! あっ、すごい……!あっ、あーーーー……!!」
ルーシーの背が弓なりに反り、首筋に浮かぶ汗が夕闇に光る。
彼女はキロの正体を知らない。
彼がどれほどの力を隠し持っているのか、その底知れぬ深淵を知ろうとも思わない。
ただ、この瞬間に与えられる圧倒的な充足感と、身体の奥底まで突き抜けるような快楽。
そして包まれる様な温もりと安心感。
そこに、純粋に惚れ込んでいた。
やがて、部屋に満ちた激しい吐息が静まり、窓の外は完全に夜の帳が降りていた。
「ふぅ……。生き返ったわ、やっぱりあなたって最高ね」
ルーシーは乱れた髪を無造作にかき上げると、鏡も見ずに身なりを整え始める。
その仕草はどこまでもサバサバとしていて、先ほどまでの熱情を感じさせないほど潔い。
「もう行くのかい? 少し休んでいけばいいのに」
寝台に身を起こしたキロが声をかけると、ルーシーは出口の扉に手をかけ、振り返って不敵に笑った。
「長居すると、あんたのその怠惰な空気に毒されちゃうもの。私はこれから、休息亭で一杯引っかけるわ。……キロ、次は迷宮でね。あんたの錠外しが必要になったら、また呼んであげる!」
風のように去っていく彼女の足音を聴きながら、キロは再び枕に頭を沈めた。
嵐のような情事の余韻。部屋に残されたのは、彼女が纏っていた香水の残り香と、キロの唇に残る熱い感触だけだった。




