30 「ネクスト・エチエチ・プランディング」
「綾女と~」
「刀花のぉ~」
『ネクスト・エチエチ・プランディング~♪』
なるほど、俺は今日ここで死ぬのか。
己の死期を悟った俺は、ここに至るまでの経緯を思い出す。いや、思い出すまでもない。休日の午後をどのように過ごそうかと考えていたところ、綾女から『刀花ちゃんと一緒に遊びにおいでよ♪』と連絡を受けたゆえ、綾女の私室へ赴いたまで。なぜ刀花を名指しで……? と疑問に思ったものだが、小さな違和感として切り捨ててしまった。それが俺の死因だ。
「ふぅ~……」
俺は努めて深呼吸をする。綾女の部屋は香りに気を遣っているのか、柑橘系の爽やかな香りがした。話題も爽やかなものであってほしかった。
微かに震える手で、お出しされたコーヒーを飲む。対面で愛らしく息の合ったポーズを決める二人は動かない。俺の言葉を待っているのだ。つまり『逃がさん』と言っているのだな。俺はここで死ぬのだ。
尻に嫌な汗をかき、用意されたクッションも湿り気を帯びる。俺は観念して、マグカップを小さな丸テーブルに戻し、言葉を発した。ここからは間違えられないぞ……。
「ん、んん……いきなり、どうした」
「刀花ちゃんとメッセージでお話してる時に思ったんだけどね?」
「デートって『次はどこに行きましょう?』、『何をして遊びましょう?』と考える時間も楽しいですよね~って」
ふむふむ、分かる話だ。
愛する者と楽しい予定を組むというのは、その時点で楽しい。『あれをしたい』、『これをしたい』と聞くのは、その者の個性を知る大きな機会でもある。そんな楽しさを分かち合う経験は、きっとその者達にとって思い出という宝物になるはず。
ゆえに対面に並んで座る二人は、向日葵のようにニッコリと笑うのだ。
『じゃあ──『次にどんなエッチするかを一緒に考えるのも、きっと楽しくてエッチなものになるよね~♪』って』
ふむふむ、戦鬼分からない。
俺が瞳から光を失くしている間にも、年長者として綾女が音頭を取る。そのクリッとしたアーモンド色の大きな瞳に、爛々とした光を宿しながら。
「まずね? 情報のすり合わせが大事だと思うんだ」
「と言いますと綾女さん」
「うん。私、前はちょっと暴走して刃君に怖い思いさせちゃったことがあったからさ」
『ちょっと』……?
「だから事前に各人の好みとか、逆にダメなこととかも聞いて、きちんと皆が楽しめる時間にしたいなって」
「さすが委員長さんです、綾女さん! 立派なお志かと!」
委員長を務めてきた実績をこのようなところで発揮してよいのか……? そして『皆』とは既にこの場にいる三人を指している……?
「だからね刃君!」
「お、おお」
「──刃君の性癖を、開示してほしいな?」
本気だな……。
カーテンも閉めているため部屋も薄暗く、どこか迫力を増す綾女の問いかけ。この冷気はクーラーのみのせいではあるまい。
「これまで刃君、色んな女の子とエッチしてきたよね?」
「お、おお」
「その中で……とっても気持ちよかったの、もしくはとっても興奮したの、詳しく教えてほしいな~……♡」
「むふー、妹も知りたいで~す……♡」
「お、おお……」
既に二人の吐息が熱いのは、俺の口から他の少女を抱いた話を聞き出すことで、その脳を焼かんとしているからだろう……"ぷれい"は既に始まっている──!
「あ、プライバシーの観点から、『誰と』は言わなくても大丈夫だよ♪」
「それもまた趣があると、妹は思います」
ここは……正直に答えるべきか? いや、穏当な内容でお茶を濁すというのも……しかし下手な嘘をつけば、刀花に嗅ぎ取られる恐れもある。くっ、妹がここにいるのはそのためかっ。
「──っ」
走馬灯のように駆け巡る、皆との甘い思い出。俺にとって最も興奮し、最も気持ちよかった経験とは……? いや、ここはやはり穏当に……!
「……とある少女と、初めて結ばれた時は大変興奮した記憶が、ある。内容は至極、真っ当なまぐわいだった」
「……ふーむ。刀花ちゃんどう思う?」
「嘘の香りはしません」
これはリゼットとのことであり、無論のこと嘘は言っていない。あの夜、俺のみが知ることとはいえ、真の王族をこの手で抱いたのだ。悪鬼にとってそれは、得難い高揚と共に記憶されている。そうだとも、これで穏当な──、
「──ですが、本当の香りもあまりしませんね」
綾女の瞳が鋭くなる──!
「刃君、私ね? 恋人っていう関係は『互いに甘やかし合う関係』にしたいなって思ってるの」
「そ、そうか。よいことだな」
「私、刃君に遠慮されたくないなぁ。いいんだよ、刃君? 私、どれだけ酷いことされても……刃君のこと、嫌いになんてならないから……♡」
「もちろん、私もですよ兄さん♡」
男を甘やかす言葉であるというのに、どうしてこれほどまで圧を感じるのか俺には分からない。
「だから……私が先陣に立って、それを証明するよっ。私がすっごく興奮したのはねぇ──」
穏当なものであってくれ。
「ジャンルで言ったらまずは『純愛』と──」
よし!
「あと『野外プレイ』と……やっぱり『輪姦』かな♡」
終わった……。
「むふー……! 綾女さん、大人です! いつの間にそのようなご経験をっ」
「え、えぇ~? そうかなぁ? 普通だよ、普通♪」
「ちなみに妹はもちろん『近親相姦』、あと最近気付きました『寝取られ』です。純愛はもちろん大好きですが……綾女さんやリゼットさんと寝所を共にすることで、気付いてしまったのです。最も長く兄さんと一緒に過ごしてきた、そんな女の子の矜持としてっ。他の女の子とエッチして気持ちよくなってる兄さんを見ていますと『お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんなのにぃ!』という想いが込み上げてくるのを! そしてこれもまた、一つの背徳であると──!」
「刀花ちゃん……分かる……!」
分からない……!
睦まじそうに手の平を合わせる二人だが、こちらに流し目を送る二人の瞳は妖しい光を宿している……!
「刃君? もう一度聞きます」
「兄さんは、どのプレイが一番気持ちよかったですか?」
「はぁ……! はぁ……!」
「怖くないよ、刃君。君の相棒は、君の全てを受け入れるんだから……♡」
「妹という生き物は、愛するお兄ちゃんの性癖を全て許します。なぜならお兄ちゃんを世界一愛しているからです♪」
お、俺は……俺は……。
「……っ」
──それはまるで、神に告解する罪人のようであった。
「……とある、聖職者を、抱いた時」
「うん」
「はい」
「反抗され……それを組み敷き、欲望のままにその身体を蹂躙した……」
愛する者は大切に扱いたい。酒上家家訓にもそうある。『女の子には優しく。妹にはもっと優しく』と。
だが、あの時、俺は──、
「悪鬼として──下卑た性欲と支配欲が、大きく満たされるのを、感じた。あれこそが、本来の悪鬼としての振る舞いなのだと。俺という男は本来、ああした使い方をされるべき、兵器なのだと……」
なんとおぞましいことだ。俺は俺の性能を気に入っているが、やはり俺は悪鬼なのだ。
「刃君……」
「兄さん……」
軽蔑されただろうか。普段から兄として、相棒として、愛だのなんだの語っておいて……一皮剥けばただの性獣よ。
そんな、女性として嫌悪するべき男の欲望を聞いた、二人の反応は──、
『──それが聞きたかったよ。ふふっ、ふふふふふっ……♡』
わ、笑っている……!
それはもう嬉しそうに。ねっとりとした粘性さえ感じる笑みを浮かべ、熱い頬を冷ますかのように手を当てている……!
「へぇ~、やっぱり刃君ってそうなんだぁ……♡ うんうん、分かるよ。私ね? いつも刃君には我慢させちゃってるなぁって感じてはいたんだ。私、身体ちっちゃいし。刃君、優しいもんね? ふふ、そっかそっかぁ……♡」
「私も兄さんの優しさには、実は少々思うところがありました。妹を大事にしたいという気持ちは分かりますし、そう教えたのも私ではあるのですが……むふ、むふふ……♡ やっぱり、ほんとはそう思ってたんですね……?♡」
ズリズリと、二人は机を回り込み、左右からこちらの両耳に甘い毒を流し込む。
『私達のこと……ほんとは乱暴にしちゃいたいんだね♡』
蕩けた顔、甘い香り、押し付けられる豊かな乳房、淫らな言の葉。それら全てが、戦鬼の脳を焼く……! 息が、乱れる……!
「ふーっ……! ふーっ……!」
「あー、やっば……刃君やば……♡ やばいよ今の刃君……♡ だいすき……♡」
「ふぅ、ふぅ……♡ 兄さんったら、妹のこと動物さんみたいに襲いたかったんですね……♡」
「ね、ね、刃君ほかは? もう全部出しちゃお? 出して? 私、刃君のこと全部受け止めたいっ♡ あ、私あとは撮影とかもしたいなって♪」
「お兄ちゃん♡ 可愛い妹に全部吐き出しちゃいましょう♡ あ、私は定点カメラでお願いします。あとナマは外せませんっ。愛し合う兄妹を隔てるものなんて必要ありませんよ!」
「あ、刀花ちゃんはそうなんだ?」
「えっ? 綾女さんは違うんですか? てっきり……」
「ん~……どっちも好き、かなぁ? ゴム有りでも無しでも」
「有りの良さは、ちょっと分からないです……?」
「そっかなぁ。だって……えへ♡ 絶対妊娠なんてしないのに、一生懸命私に向かって腰をヘコヘコさせてる刃君って、可愛いし♡」
「ッ!? 私は、綾女さんをそんけーします!」
「ふふ、やったね。でも実際するとなると、どうしよっか。全部したいよね。美学は引き算だけど、エッチは足し算だよ!」
「──では、私がチカラを使って時を止めます。そうすればもうTPOなんて気にせず、私達の自由です」
「っ! 刀花ちゃん……とってもいいチカラの使い方だと思う! 時間停止モノだ! 実在したんだ!」
「いつにします? いつにします?」
「ん~、来週とか? デートだって、待つ時間も楽しみだよね~♪」
「分かります~♪」
そうして我々は薄暗い部屋の中、楽しく淫らな計画を立て続けるのであった……。




