21 「うっ」
「──ふ、こうしてマスターに紅茶を淹れていると、ようやく帰ってこられたという実感が湧いてくる。寂しかったか、俺の可愛いご主人様?」
「紅茶を淹れてくれるのは嬉しいし不敵な笑顔も似合ってるのだけれど、ずっと腰がカクカクしてるせいで全くときめかないわね……」
身体に馴染んだ仕事をこなせば、地獄帰りの身も人心地つく。腰は無意識だ、許せよ。
談話室の中心に鎮座する長机へカップを置きしな、俺は「いやはや」と肩を竦めた。
「なにぶん地獄というのは血と焼けた金属、そして腐臭の香りしかしなくてな。久しくそうした香りしか摂取できなかった手前、マスターとガーネットの甘い香りを嗅ぐとどうしてもカクついてしまうのだ」
「あなた座敷わらしみたいな子と遊んでたじゃない。見てたわよ」
「幼女は趣味ではない。そしてあれは大方が暇潰しであり、あわよくば刑期を短縮できぬかという打算あってのものにすぎん。俺は地獄の中にあり、常に愛する少女達のことを考えていたとも」
「地獄に行ったのに全然浄化されてない……」
「俺の罪は俺のモノであり、俺が一生を賭けて背負うべきものと自負している。ぽっと出の裁判官風情に、勝手に裁かれてなるものかよ」
「日本って法治国家じゃなかったんだ……」
「ところでガーネットも、俺が不在の間にすまなかったな。仕事を代わってくれていたのだろう。服装を見れば分かる」
「お、おう……あとお帰り、ダーリン」
「クク、ああ。ただいまだ」
リゼットと並んでソファに座るガーネットが、頬をかき照れ臭そうにしている。彼女は己が努力する姿を見せることを粋とはしていないからな。あとは単純に、己のために地獄へ潜っていた男に対し恋情を募らせているのだろう。少女達の不老不死化は俺の悲願であり、彼女達へ強いる俺の我儘だが……多少は、男気を見せられたのかもしれないな。
凛としたご主人様と、少し照れた魔法使いの少女。まさに『美少女』という言葉がよく似合う二人を視界に収め、俺はクツクツと肩を揺らした。
「惚れ直したか?」
「あー……まー、ね。あたしのためにあんがと、ダーリン……ちょっと心配はしてたし、無事で……よかった……」
「その言葉と笑顔だけで、地獄の業火に焼かれた甲斐があるというものだ」
「よく無事だったわよねあなた。センパイは五秒でギブアップしたって言ってたのに」
「人間に限らず、生物というのはあらゆる刺激に慣れるものだ。確かに最初の数週間は苦労したが、あとはほぼ寝ていた。退屈さが一番の苦痛だったな」
「だからやけに意識とか記憶がハッキリしてるのね……」
快眠である。加えて言えば、刑罰中のどうでもいい記憶は一日ごとに切り捨てていたため、言うほど記憶の劣化はない。『久方振り』と思う程度だ。
「だがやはり欲求の発散は禁じられていたため、こうして居眠り以外の欲に強く反応してしまうというわけだな。美食家であるこの俺ですら、今はなんでもいいから口に入れたい気分だ」
「そして性欲の表れがその卑猥な腰つきってわけね」
「もう早すぎてスローに見えてきたぜ?」
「ふーっ……ふーっ……!」
「こわ……」
いかん、我慢が利かなくなってきたぞ。
片や仕立ての良い黒ドレスに身を包んだ金髪お嬢様。片や普段と違い、奉仕の証たるメイド服に身に纏う魔法使いにしてトップアイドル。共通項は甘酸っぱい乙女心を内包しており、均整の取れた体つきをしており、そして俺を愛していることだ。ちょっぴり生意気な点もいじらしい。
そんな二人を見ていると、より股間に血が巡るのを感じる。早くこの欲望を解放したい、ただただその衝動に駆られてしまう!
俺は自分の瞳が据わっていくのを感じながら、しかし下僕としての最後の矜持として、二人の前で跪いて言った。
「というわけだ──今すぐ抱かせてくれ」
「あなたがここまで性欲だけを前に出して言うなんて、なんだかんだ相当よね」
「ツンデレお嬢様と天邪鬼アイドルにまさか直球を投げてくるとは……追い詰められてんね、ダーリン」
しまった、気が逸り過ぎて情緒もへったくれもない誘い方をしてしまった。この二人は特に、それを重視するというのにっ。俺としたことが……!
『う、うーん……』
案の定、リゼットは少々同情的だが、性欲を前に出す異性が怖いのか及び腰だ。ガーネットもまた同様であり、冷や汗をかいて愛想笑いなどしている。
だが確かに、今の俺では二人を優しく抱くことなどできぬだろう。こうして自覚した以上、彼女達に無理強いはできまい。
俺は立ち上がり、深呼吸をしてから頭を下げた。
「いや、すまない……少々、冷静さを欠いた」
「う、うぅん。気持ちは分かるし……私達も、あなたがいない一週間でなんだかんだあったし。でも、やっぱりちょっと……こ、怖いっていうか……」
「ここで『責任取ってあたしが』って言えたらイイ女感出るんだろうけど、すまんっ! 溜まってる仕事の鬼消化が明日から待ってっから、足腰への負担はちょっと……」
性欲を滾らせる男を前にしたというのに、正直に内情を打ち明けてくれる。やはり俺という下僕は、王に恵まれているな。
改めて二人への尊敬を感じつつ……俺は改めて、腕を組んで唸った。
「うーむ……さて、この欲求をどうしたものかな。傷付けてしまうと自覚した手前、ここにおらぬ少女に頼むわけにも……」
「そ、それは、ねぇ? センパイ?」
「な、なァ? リゼットちゃん?」
「む?」
頭を悩ませていれば、しかし二人は分かり合ったような顔で視線を交錯させる。
俺が疑問を視線に宿して見ていれば、二人は赤い顔を見合わせ、モジモジチラチラとこちらを見て言う。
「い、いえ、こういう時の男の人って……」
「まぁ、ね? 自分でその……しょ、処理するんじゃねぇの? 的な?」
「ああ、なるほど」
合点がいった。
つまり──────自慰か。
「う~~~~~む」
「な、なんでそんなに悩むのよ……?」
「オカズに悩んでんじゃね?」
いや、恥ずかしながら……。
俺は諸手を上げ、先に内情を打ち明けてくれた二人に報いるためにも真実を告げた。
「この世に顕現してこの方、俺は自慰というものをしたことがなくてな。あまり……そう、やれと言われてもピンとこん」
「マ? 常にあんなドスケベボディを体現した黒髪ポニテ巨乳妹が近くにいながら!?」
「確かそのトーカが"お願い"で禁じてたのよねぇ……」
「そういやそんなこと言ってたか。セックスを覚えるまで、この世で最も菩薩に近い位置にいた男だったのかもしれねぇなダーリンは……」
「それはさすがにこの国のお坊さんに失礼すぎる……」
しかし自慰、自慰か……。
「まぁ、やぶさかではない。社会人として、自分の機嫌は自分で取れるようにしておいて損はないからな」
「これそういう話なのかしら」
「自分じゃなくて息子の機嫌を取ってるんだよなぁ……」
「ああ、素人質問で恐縮だが、二人はどのように自慰をしてるのだ?」
「その切り出し方で本当に素人なことあるんだ……」
「その素人ってつまり素人モノってこと?」
俺は真面目なのだが?
じぃと視線を注げば、二人はスカートの裾をぎゅっと握り、恥ずかしげに太股を擦り合わせている。先に口を開いたのはガーネットだ。
「そ、そら、まぁ……テキトーに、エッチなトコ触るんじゃねぇの……なんかをオカズにしながら」
「オカズ……?」
「動画とか、漫画とか……そ、そういうえちえちコンテンツがあんだろっ。薄野AV監督の新作とかがよっ」
「ガーネットもそうしているのか?」
「あ、あたしは……ダーリンとの初体験の時のこと思い返しながら……あーもうっ! はいサービス終了終了! で!? リゼットお奉行はどうなのよ! ガーネットお姉ちゃんに教えてみ!?」
少々無理矢理ぎみにリゼットへ話を投げるガーネット。
しかしリゼットは赤い顔で俯きつつ……フルフルと首を横に振った。
「そういうの……し、したことないから分かんない……」
「嘘をついちょる!! あたしが赤裸々に語ったのは、リゼットちゃんの事情を知りたいからでもあるんだぞ! あたしの恥に報いたまえよ!!」
「ほ、本当にっ、その……な、ないの……」
『……っ』
その言葉に俺とガーネットは目を見開き、胸を手で押さえる。そのあまりの乙女仕草に。
沈黙した俺達にどう思ったのかは分からないが、リゼットはわたわたと慌てて、言い訳のようなものを口に出す。
「だ、だってっ、なんかそういうの一人でするの怖いし……それに、あの、そういうのも含めて、その、は、初めての、大好きな人に……さ、捧げたいって、思ってた、から……」
「──負けたぜ、リゼットちゃん。お前がナンバーワンだ」
「──俺は、本当に大切な宝を貰い受けたのだと悟った」
「お、面白がってる? やっぱりおかしい……?」
『全然!!』
涙目で唇を尖らせる可愛いお姫様に、俺達は感涙して肯定を返した。この場では俺のみが知ることだが、やはり本物のお姫様ともなると貞操観念が違うのだろう。彼女こそが、本物の淑女なのかもしれない……。
「だがなるほど。まずはそのオカズとやらを用意せねばならんのか」
「いや別に絶対必要というわけでもねぇけどよ……そこまでパンパンにはち切れそうなら、その辺に転がってる鉛筆でも抜けるっしょ」
「では失礼して」
「おい待てェ失礼すんじゃねぇ。うちの純粋培養お嬢様にトラウマ植え付ける気か? そもそもそういうものは一人でするもんでしょうが! あたしらが見てたらそれはもう一種のプレイなんだわ!」
「こ、怖いぃ……」
おっといかん。またも気が逸ってしまい、この場にて鉛筆で致すところであった。
怯えるリゼットの目をガーネットが塞ぐ姿を横目に、俺は帯を締め直し、再び難しげに唸る。
「難しいのだな、自慰というのは……」
「よし分かったちょっと待て。今、専門家に電話してやっから」
「医者だろうか?」
「あ、もしもし? 綾女ちゃん?」
『どうかしましたか、先輩?』
思うに事実であれ不名誉なのではなかろうか……。
音声をスピーカーに切り替えたガーネットは、軽い調子で「あのさぁ」と問いを投げる。
「いきなりでごめんなんだけど……オナニーってどう思う?」
『──そうですね。それは誰にも邪魔をされず、自由で、そして救われてなければならないものではないでしょうか。独りで、静かで、だけど豊かで……』
「さすがは第一人者ね」
もっと別のことで尊敬を集めたかったのではなかろうか……。
『あ、こ、こほんっ。どうしていきなり、そんなことを?』
「んあ? いやダーリンが早めに刑期終えて帰ってきてんだけど、性欲を持て余してるみたいでさ。だったら独りでシコってれば? っつったら奴さんなんとビックリ、そんなのしたことないって──」
「ちょっと待ってください!!!!」
「きゃあーーー!!??」
突如として談話室の扉が開き、響き渡った綾女の叫びにリゼットが本気の悲鳴を上げた。神刀の力を用いてまで駆け付けるほどのことか……。
耳にスマホを当てたまま、綾女ははぁはぁと息を乱している。よほど慌てて来たのか清廉なウェイトレス着のままだ。
その必死の形相に、ガーネットは頬をヒクつかせて言う。
「やべ、人選ミスった」
「だ、だめだよ刃君っ! そんなに溜めた色々なモノを空撃ちなんてしちゃ! これまでに過ごした苦悩の日々がっ、人肌恋しい長い時間がっ、そしてなにより……誕生を望んでいる生命がっ、もったいない──!!!!」
「めちゃくちゃ汚い頂上決戦きたわね……」
「綾女ちゃんは彼氏が勝手にシコるの許さないタイプなのねん……たまにいるよな。いやいるのか? 創作でしか観測したことなかったけども。あ、いや、刀花ちゃんがそうなのか妹だけど。妹の方がやべぇわ」
「二人もなんで止めないんですかっ!」
「痛いのヤだし……」
「明日普通に仕事だし……」
「だったら私が面倒を見ます! 私、痛いのでも酷いのでも大丈夫ですのでっ!」
「『大丈夫』なんじゃなくて『大好物』ってだけだろドスケベ委員長がよ。これで成績優秀なクラス委員長の皮被ってるってんだから、これを見抜けないキッズが輩出される日本の将来を憂うわ」
「はぁ、はぁ……♡ じ、刃君♡ すぐ、もう今すぐお布団いこっか♡」
「まぁ待て綾女。本当に加減ができんのだ。ここは穏便に自慰で済ませたい。最悪、綾女のことを壊してしまうかもしれん」
「フーッ……フーッ……!♡♡♡」
「なんでより興奮するのよこの子」
「変態だからかな……」
「──私は、大切な恋人が苦しんでる時に、力になってあげたいだけです。私は刃君に命も! 喫茶店も! 家族も救ってもらったんです! だったら私が! 大変な時には力にならなきゃ!!」
「ご立派なこと力説してるけれどこれ何の話?」
「エーロ!!」
いかん、場が混沌と化してきた。
綾女は熱くなりすぎている。ここは一旦仕切り直すためにも、逃走を図るか。無双の戦鬼的に逃げるは恥だが、竿が勃っているのでな……。
じり、と後退しようとすれば、しかし綾女のアーモンド色の瞳が二人を射貫く。
「リゼットちゃんも、先輩も、こういう時こそ親身になってあげるべきだと思いませんか」
「な、なってるわよ……」
「手を差し伸べるべきじゃありませんかっ」
「竿に? いやまぁ手でいいなら別に全然してやるけどさ……台本読みながらでもいい?」
「──4ピー(規制音)、しませんか?」
『はいっ!?』
リゼットとガーネットの悲鳴が綺麗な二重奏を奏でる。
だがそんな二人を前にしても、綾女はまるで慈母のような慈しみを顔に浮かべ、胸に手を当てた。
「一人で受け止めきれないなら、それを分散させましょう? 一人より二人。二人で駄目なら三人。一本の矢は簡単に折れても、三本の矢ならきっと折れません!」
「こんな状況で引用されて、毛利元就も地獄の釜の底で泣いてるだろ……」
「痛くないならいいんだよねっ、リゼットちゃん!」
「へっ!? いえ、まぁ、それは、そう、なのだけれど……」
「やべぇこのお嬢様、妹と複数プレイ済ませてるから絆されそう。正気に戻れ!」
「先輩だって! 一週間近くずっと皆のことお世話して、ご褒美ほしいですよね!?」
「べ、別に、んなこと……」
「明日からお仕事が続いて、刃君との時間だってきっと取れないですよっ。私は先輩にも笑顔でいてほしいんですっ。私と、そしてリゼットちゃんと一緒なら、きっと叶います! そう、今しか!」
「う、うなぁ~……」
こ、これは……?
当初は難色を示していたリゼットとガーネットだったが、綾女の普段とは違う強気な態度と猛攻に押され……。
「いや、まぁ……わ、私だって、自分の眷属が困ってたら、解決とかしてあげるのが、いいご主人様だと思うし……?」
「出所したらあたしからご褒美やるって約束してたしなぁ……内容はちょっと違うけど。でも結局は全部、あたしのためにしてくれたことだしなぁ……」
もしやそういった流れに、なりつつあるのか……!? これでか……!?
熱に浮かされたように、リゼットとガーネットが席を立つ。
そうして三人並びながら、俺の目前で笑みを浮かべるのだ。
「ジ、ジン……?」
「刃君……♡」
「だ、ダーリン……?」
思わずゴクリと喉を鳴らす。
こちらとしてはもちろん、願うべくもない。これほどまでに可憐で、そして健気な少女達を同時にお相手できるとあれば。むしろここで首を横に振れば、男が廃るというものだろう。たとえ舌を噛み切ってでも、理性を保つと己に誓う。
「っ……よい、のか?」
「よ、よくはないけれど……」
「あ、あたしのせいで、そんなんなってんだし……?」
「私はずっと、刃君の味方だよっ!」
──俺は本当に善き恋人達をもった。
「泣いてるし……もう」
「いや~、こんな美少女軍団を相手にできんだから。そりゃ泣くっしょ。息子も泣いてそう」
「ね、ね、二人とも……」
「うん?」
咽び泣いていれば、綾女が二人にコソコソと耳打ちする。それを聞いた二人はなにやら怪訝そうだが。
「え、えぇ~……?」
「んあぁ~、まぁこうなったら自棄か……」
「それじゃあ……えへ♡ 刃君?」
「む?」
呼ばれ、視線を上げる。
すると三人は頬を朱で彩り……あろうことか己のスカートの裾を指で摘まみ──!
「う、うぅ、なによこれぇ……!」
リゼットはその美しい顔を困惑に染めながら、
「こんなんで興奮すんのぉ~? このヘンタイ♡」
ガーネットはこちらを生意気な視線で見つつも、隠しきれぬ恥じらいを頬に乗せ、
「はい、刃君……見て……♡」
綾女はうっとりと淫蕩な色を瞳に宿し、見せつけるようにねっとりと……、
「──ッッッ」
そんな三者三様の顔を見せながら、
スカートをたくしあげ──パンツを、見せてくれているッッッ!!
「な──」
「ほ、本当に喜ぶの、男の人って……?」
「ま、まぁ喜ぶんじゃね……」
「もちろんっ。ほら……あ・そ・こ♪」
『わ、わァ……ぁ……』
リゼットの貞淑なロングスカート。その更に奥、厚手の黒タイツに覆われた、美しいレースの黒。
ガーネットの改造ミニスカメイド服。その太股に巻かれた謎のベルトも艶やかに……その奥で愛らしく主張する、滑らかな絹のピンク。
そして綾女の白と青の調和が涼やかなウェイトレス着。どこか家庭的な雰囲気を醸すエプロンをも巻き込んで、淫らに露出する……その輪郭にピッタリと吸い付いた、白いリボンの可憐な清らかな青。
「──」
きっと、とんでもなく恥ずかしいだろうに。だがそれを忍んでなお、俺などのために──!
この絶景を俺は、生涯きっと忘れないであろう……!!
「くっ、皆……!」
「は、恥ずかしいから、早く行きましょうよ……」
「見せパンじゃねぇから普通に恥ずい……は、はよ……」
「ふふっ、じゃあお部屋に行こっか刃君……♡」
「ああ……!」
そうして俺はその献身に報いるため、強く一歩踏み出し……む、いかん、つい足元がおぼつかず、衣服とアソコが強く擦れ──────、
「うっ」
『えっ』
──拝啓、親愛なる我が姉上と妹よ。
俺は知った。この身にどれだけ高潔な矜持を抱こうと、どれだけ困難な覇道を歩もうと、意図せぬ発射というものは、これほどまでに人を惨めな気持ちにさせるのだと……。
「…………………………」
「…………………………」
皆の生温かくも優しい視線に、俺はもっと立派な男になろうと、そう誓った夏の日であった──……。




