19 「秩序崩壊」
──ブルームフィールド邸、夜の談話室。
「兄さんがいないのにムラムラしてきちゃいましたので……ちょっとエッチなことしませんか、リゼットさん」
ダーーリーーーーン!!
早く帰ってきてくれーーーーーーー!!!!
「旦那が出張し、たったの三日……性欲を持て余す人妻どもにより、ブルームフィールド邸の秩序は崩壊しつつあった──!!」
つまりそういうことです。
あたしちゃんこと吉良坂ガーネットは、クソガキが積んだ積み木のように秩序が崩壊していく様を前に、ただただ戦慄することしかできなかった。
初日はまだよかったよ。ダーリンの剥製があったからな。
だが二日目の午後あたり……他の女の手垢と残り香まみれになったダッチ・ハズバンドじゃ満足できねぇ女が出始めたあたりから、様子がおかしくなってきた……!
まず刀花ちゃん。いつもなら元気いっぱいおっぱいもいっぱいな可愛い妹ちゃんだが、今はもう琥珀色の瞳から一切の光を失くし、女友達を性的な目で見る性欲モンスターになっちまってる。ダル絡みされてるリゼットちゃんはスマホいじって完全無視してるからまだ事なきを得てるけども。
「ただでさえ『妹』って鋳型にパッケージングされただけの魔物だってのに、この子が暴れ始めたらもう一般人はどうしようもねぇんだよなぁ」
「刀花ちゃんを悪く言うのは、いくらキラちゃんとて許しませんよ?」
「うるせぇ人外二号。いや姉だから一号か。だったら止めてこいよ咲きかけの百合の花をよぉ!」
「私は刀花ちゃんの自主性を尊重しておりますので……」
「ガキの自主性を保証していいのは保護者が責任を取れる場合だけなんだよなぁ……いいの? 妹ちゃんが性欲モンスターに成り果てても。というか姉が責任もって処理してやれよ! 今更だろ姉妹同士でキスも済ませてんなら!」
「…………じぃ」
「な、なんだよ……」
「……キラちゃんは、私が他の女の子とキスしていても、何も思わないのですか?」
えっ、ねだられてる? そ、そうきたかぁ~……。
人差し指をいじらしそうに噛み、モジモジいじいじするお姉ちゃんに、あたしはヒヤリと背中に嫌な汗を流した。貴公の人間性も限界と見える。
「サヤちゃんさぁ……あたしはあくまで美しいものを微笑ましく見守っていたいのであって、一匹のケダモノによる強制猥褻が横行する治外法権に滞在してぇわけじゃねぇのよ。二匹目になるなら猟友会に電話するぞテメー」
「今更ではありませんか?」
「あ?」
そう言って指差す先には……、
「エイメン……私は見失っていました、いつも近くにいてくれていた青い小鳥ちゃんを。エリィ、可愛いですよ。私のエリィ……♡」
「ティア……! 遂に分かってくれたのですね……!」
そこにはソファでくんずほぐれつする修道女とメイドの姿が……! 座ってるティアたそに、エリリンが正面から跨がって密着してる感じね。もう可愛いとかてぇてぇとかじゃなくて、ただただ淫らなんだよねコイツら。見失ってるのは青い鳥じゃなくて修道女としての在り方だろいい加減にしろ。
「あぁっ! このうすほそ! 先生のようなゴツゴツした筋肉もいいものでしたが、やはりこの力を入れると折れてしまいそうなほどの柔らかさと薄さが、まるで禁断の果実のようでたまりません! わ、私だけのリンゴちゃん……あっ♡ でも膨らみかけのおっぱいはレモンちゃんですねぇドゥフフ……♡」
「い、いけないティア……」
本当だよ。言ってることがドブカス小児性犯罪者のそれなんだよね。エリリンも引いてるし。カトリックの教えはどうなってんだ教えは! こんな奴等に崇められて神ってやつも死にたがってるわ。はなまる気持ち悪い。
「つーか、最早ティアたそだけのじゃねぇよなエリリンって。見ろよ、これ見よがしに身に付けてる『頑張ったで表』と異世界でダーリンに買って貰った『チョーカー』をよ。二重ロックかけられてんじゃんね」
これで普段は『貴様のことなんて嫌いだ!』とか言って、でもベッドの上でチョメチョメする時は『あなたのことなんて嫌い、です……♡』ってなぜか敬語になって男を受け入れてるんでしょ? かーっ、卑しい侍女だねぇ……! 今日からお前は聖剣じゃなくて性剣だよ。
「もう最悪、お祓いしてもらうか」
「おや、誰に電話を……?」
「薄野ちゃん。お前ら一回、綺麗な身体にしてもらえ。男がいないからって薄い浴衣で谷間を放り出しやがってよ」
「ぴゃっ」
指摘にサッと浴衣の襟を掴むサヤちゃん。男の目がないとお姉ちゃんですら途端に服装もだらしなくなっていく……! ティアたそはこれまでに見たこともねぇ芋ジャーだし、リゼットちゃんなんて朝からネグリジェのままぞ!?
そうして結構な回数のコール音が響き、電話が繋がった。
「あ、もしもし? 薄野ちゃん?」
『ふうっ……♡ ふうっ……♡ ご、ごめんなさい先輩、ちょっと立て込んでまして……』
おぉっと男の目があってもなくても性にだらしない女来たな……あたしとしたことが。健康優良児の生活サイクルからしてもう結構いい時間だもんな。そろそろ"寝る準備"だってするわな。一人で。
「ごめん、やっぱいいわ。邪魔してすまん」
『そ、そう、ですか? あと先輩また『薄野』呼びになってますよ?』
いまだに慣れん。
「ほな、どうぞごゆっくり……ちなみに何してた?」
『えっ。な、夏休みの、宿題……?』
「正直に答えてくれたらあたしとダーリンがエッチしてる動画あげゆ♡ ゴムもお薬もない、本気エッチの恥ずかしい記録だゾ……♡」
『──ウェイトレス服着て刃君とエッチした時の動画をオカズにオナニーしてました』
切った。とんでもねぇスパンで新作撮ってんじゃねぇよAV業界でこそ花開くべき人材がよ。ちなみにだがあたしのそんな動画はねェ。
スマホをサヤちゃんの谷間に押し込みながら、あたしは舌打ちして虚空を向く。
「終わり散らかしてんな、このパーティー」
もうまともなのがリゼットちゃんとあたししかいねぇよ。というかリゼットちゃんもよく我慢できてんな。もしかして別人と入れ替わってる?
「もう、トーカ……」
剥製を巡って一番刀振り回してたのになァ……とあの惨劇の夜を遠い目で思い返していれば、遂に我慢の限界が来たのかリゼットちゃんがスマホを置く。お願いだから癇癪とか起こさないでね。ダーリンを地獄に送り出した分、あたしが家事手伝いとか代わりにしてんだから。
「……モジモジ」
「ん?」
しかしリゼットちゃんは机をひっくり返すでもなく、お茶を刀花ちゃんにぶちまけるでもなく……なぜか頬を染めて、チラチラと何度か刀花ちゃんを見て──、
「ち、ちょっとエッチなことって、なに……?」
ブルームフィールド邸の秩序は既に崩壊している──!!
「っ! むふ~♪ リゼットさん、今夜は一緒に寝ませんか? そこで色々と教えて差し上げますよ♪」
「……じゃあ、私の部屋で。あ、その前にお風呂……」
「お背中流しますね~♡」
「そ、そう?」
う、嘘だろ……ご機嫌な刀花ちゃんに手を引かれて、リゼットちゃんが行っちまった……う、うちのリゼットお奉行が。これじゃお奉行が汚職にまみれちまうよ!
二人の背中を見送りながら、あたしは頬をひくつかせて言う。
「……ぶっちゃけだいぶ麻痺してるけど、同性だろうと自宅の風呂で一緒に入浴とかその時点で相当だよな。うちのお嬢様はあのラブホ女子会以降だいぶ汚れちまった!」
「先程からずっと、性的マイノリティに対する差別ですか?」
やめてくんない芸能人に向かってちょっと追求しにくい話題出してくんの。あたしは可愛い女の子で萌えたいのであって、女の話題で燃やされてぇわけじゃねぇんだよなぁ!!
「さて……では、私達は二番目にお湯をいただくことにしましょうか?」
「なんでこの流れで一緒に入れると思った? しまいにゃ前みたいに、魔術でオメーにデカ○ラ生やして泣かすぞ」
「っ! わ、私、キラちゃんとなら……♡」
「もう気軽にあの魔術使えなくなったわ」
このままじゃあたし、あたしの彼氏のお姉ちゃんの赤ちゃんを妊娠させられちゃう!(支離滅裂な思考・発言)。いくらヒロイン同士のカップリングを作ろうが、某百人のカ○ジョ大先輩でもヒロイン同士は最悪キス止まりだったでしょうが! あたしらの生活を観測してる奴がいたとして、どこの層に向けた展開なんだよそれは!
「もしくは……キラちゃんが男の子なら、よかったですのに」
「百合漫画定番の切ない台詞がこうも恐ろしく聞こえる日が来るとはな」
え、ねだられてる? あたしに付いてないち○ち○であたしの遺伝子を? そこになければないですね。
「ダーーリーーーーン!! 早く帰ってきてくれーーーーーーー!!!!」
「キラちゃん……お慕いしておりますよ、キラちゃん……♡」
でないとあたしかお前のお姉ちゃんのどっちかがどっちかの赤ちゃんを妊娠してしまうぞーーーーーーーーー!!!!!




