14 「ムリじゃなかった!」
「おぉ~! 意外に予約いっぱいで『お姫様ルーム』しか取れなかったのですが、フリフリピンクでとっても素敵じゃないですか!?」
ムリじゃなかった……!?
「へ、へぇ~……」
私、リゼット=ブルームフィールドは、初めて利用するラブホテルにキョドキョドしながらも、なんとか気丈さを装おうと虚勢を張る。いやダメね、頬がヒクついてるのが分かるわ。よく受付で止められなかったわね私達。
──お昼過ぎから近場の女子会対応のホテルを探し、なんとか予約をし、そうして夕刻になった頃。
私、トーカ、そしてジン(!?)は、遂に当該ホテルに入室を果たしてしまっていた。わ、私はずっとイヤって言ってたのに……でも岩盤浴とか、大型プロジェクターとか、お菓子だけでなくワインもあるなんて聞かされて……同年代との『女子会』って響きもちょっと素敵だし、それに、やっぱりそういう施設に対する若干の興味も……うにゃうにゃ……。
私は扉付近に棒立ちとなりながら、フリフリゴテゴテしたピンク色の内装をしげしげと眺めるジンに落ち着きなく声をかけた。
「ね、ねぇ……こういう施設って、そもそも未成年が利用して大丈夫なの? 摘発されたりしない?」
「心配性だな、マスターは。だがこの無双の戦鬼、抜かりはない」
「そ、そう?」
「──無論。姉上によれば、こうしたホテルは風営法により未成年は利用できない。だからこそ、ああして偽造した身分証を提示する必要があったわけだな」
ちょっと。
「現代においてこうした施設の建設は難しくなっており、現存する施設はそれを守ろうと必死だ。未成年の利用など、業界全体に迷惑しかかけぬ害悪そのものよ。ゆえに遺憾ながらこうして気を回し身分を偽造してやったこと、感謝してほしいものだな?」
「ラブホテル利用するためだけに更に重い罪を重ねないでよ……」
「とはいえ俺も、こうした施設がなくなられると多少は困る。未成年の嫁が複数いるからこそという、なんとも贅沢で幸せな悩みではあるが」
「廊下ですれ違った男の人にすごい目で見られてたのにはワケがあったのね……」
「むふー、異世界とはいえ正式に婚約は結んでいるのですからセーフということにしましょうよ! 日本でも女の子は十六歳で結婚できるのですから! まぁ……なにやら姉さんの予想に曰く、令和四年にはそれが十八歳に引き上げられるらしいですが。逆に成人年齢は十八に引き下げられるとも。いやー、今が令和二年でよかったですねぇ!! 未成年の女の子でも結婚が許される、ロマンと背徳が溢れる時代最高です!! ひゅーひゅー!」
つまり令和四年以前はあなた達みたいな異常者しか喜ばないゴミみたいな時代だったってこと? もう終わりねこの国。
「くっ……!」
そうした行為が目的の施設に入ってしまったという背徳感と違法性に対し心臓を嫌な意味でバクバク鳴らしながら、私は脳内で「でも……」と食い下がる。
ま、まぁ落ち着きなさいな、リゼット=ブルームフィールド。これはあくまで女子会。女子会がメインなんだから。そうした行為さえしなければ、ギリギリセーフなんじゃない? え? 男がいる時点でそもそも女子会ですらない? そうね……お母様ごめんなさい。私は異国の地にて、知らぬとはいえ法を犯しました……私は女子会すら、まともに開催できない……っ!!
「はぁ……! はぁ……!」
「呼吸が荒いぞマスター」
「お~、これはヤる気ですねリゼットさん。いい時間なんでご飯とお風呂の後にと思っていましたが……もう早速、第一ラウンド始めちゃいますか!?」
「罪悪感に苛まれてるのを都合よく解釈しないでくれる?」
こうなったら。二人がこれ以上罪を重ねないよう、ご主人様がエッチじゃない方向に持っていくしかない!
なに、極めてイージーなミッションよ。現在の時刻は、午後六時。サヤカには『そのまま一泊するから』と伝達済み。どうして保護者はついてきてくれなかったの……。
こほん。つまり……健康優良児たるトーカがオネムになる午後十時まで耐えれば、健全──!! 大量の食事で血糖値を上げさせ、岩盤浴やジャグジーバスでリラックスさせれば、そんなのお子ちゃまなんてすぐ寝ちゃうでしょう!
そうしたら私は残されたジンとイチャイチャ……こほん、お酒でも傾けながらね? 落ち着いた大人の時間をね? 過ごせるって寸法よ……うん、健全だわ。でもでも、万が一彼が我慢できなくなっちゃったら……ねぇ? その時は、ねぇ? ふ、ふふふ……。
「マスターが笑っておる。内装は少々華美で好みではないと思っていたが……気に入ったのだろうか」
「兄さん、可愛い内装が嫌いな女子高生なんていませんよ♪ 私もこうした場所はハジメテですのでテンション上がってます!」
「して、女子会と言われるがままについてきてしまったが。結局のところ、この会の目的は何と見て兄は動けばいい」
「キラキラなお風呂でリラックスして~♪ 甘いお菓子や美味しいご飯を楽しんで~♪」
「ふむふむ」
「──そうしてこの三人で、朝までドチャドチャにエッチし倒します」
「そうか。興奮してきたな」
ちょっと待って!!!!
さらっと言われた衝撃的な内容に、私は顔を青ざめさせて震える。
「女子会って言ってたじゃない……ほ、本気じゃないわよね……?」
「リゼットさんが言ったんじゃないですか。『他の子にしたこと全部して』って。少々不本意ではありますが、そうなるとまずは妹との3ピー(規制音)がトップバッターになりますよねって」
「そういう意味で言った台詞ではないのよ。あと不本意に思ってるならやめてくれない?」
「……むふー♡」
「ひぇ」
いつもなら好奇心に煌めく琥珀色の瞳が、一瞬だけ獰猛な色に変わったのを私はみ、見ました……!
トーカは私服のミニスカートを翻し、ステップを踏むようにしてクルリと部屋の中心で回る。とても楽しそうに。
「クスクス♪ きっと、もっと仲良くなれますよ私達。恥ずかしさを越えた先にも、見えるものはあると思います」
「普通の友達のままでいましょうよ私達」
「こんなとこまでホイホイついてきておいて、しらじらしーです。興味津々さんです」
「女子会って言ったもん!!」
「好きな男の子とラブホテルに入る時点でこうなるに決まってるじゃないですかぁ!!」
彼を間に挟み、キャンキャンと吠える。
普段から私はソロ派だって言ってるでしょう!? 恋人とのエッチでソロ派ってなに!? 普通はソロしかないのよおバカ!!
目を三角にして睨み合っていれば、ジンが眉を八の字に下げ、両手を上げた。
「分かった。俺の存在が邪魔をするならば、残念には思うがこのまま帰宅する。二人で女子会を楽しむといい」
「いいわね、そうして」
「え~~~。そうなると私はリゼットさんと百合百合エッチする羽目に……んもう、仕方ありませんねぇ」
「やっぱりここにいて」
そして私をこの性獣から守って……私はそういうケはないんだってば! 今のところ! 私はただ友達と楽しく女子会して、ちょっと恋人とイチャイチャしたいだけなのに!
今は多少強引にでも、トーカの意識を逸らすしかない。そう考えた私は、机の上に置いてあった食事メニュー表を勢いよく取った。
「ほら、あなたの好きなご飯! ピザでもパスタでも巨大パフェでも頼みなさいよ! ステーキもあるみたいよジン!」
「……じゅるり。とりあえずお腹がペコペコでは戦争もできませんので、ご飯は食べることにしましょう。せっかく来たんですから、ケンカよりも楽しみませんと!」
「……俺もいただくとしよう。酒もあれば」
よし、とりあえずこちらの流れに引き込めたわね! 次の段階に進んでしまったということでもあるけれど……えぇ、こうなったら血糖値スパイク起きるまで食べさせてあげるわこの妹に。
一つのソファに私を中心に座って、三人でメニューを覗き込む。へぇ、さすが女子会を謳うだけあって、SNS映えしそうなスイーツも豊富ね……私もつい多めに頼んじゃいそう……でもお腹が膨れちゃうと……いやしないのだけれどね? そういうことはね? でもちょっと……。
そうして多様なメニューやお腹事情に悩みながらも、端末でポチポチと注文をする。
しばらくソワソワと内装を観察し……数十分後には、テーブルの上にこれでもかとカロリーの高そうな食事が盛られていた。湯気も立ち、クオリティも申し分ない。
「"れとると"ではなさそうな出来映えだな……」
「あるところにはコース料理もあるらしいですが……ここのご飯も美味しそうです!」
「ほら、食べなさい食べなさい。ジンも飲みなさい飲みなさい」
「むふー、いただきまーす!」
「いただく」
トーカは満面の笑みで山盛りのパスタを頬張り、ジンはお肉を肴にワインを嗜む。私もちょこっとパフェをスプーンで掬い……あら、おいし。
お値段の割に美味しい食事につい顔が綻んでしまっていれば、トーカが空になった私のコップを見て「おっと」と声を上げる。
「リゼットさん、お飲み物は? お水ですか? ジュースですか?」
「じゃあジュースで」
「はーい♡」
するとトーカは右手でボトルを傾け、もう一方の手に持った試験管内の液体もコップに──なになになに!?
「ちょっと待って。それなに」
「リゼットさん駄目ですよ。お薬を嫌がっちゃ」
薬って言ったこの妹!!
「も、もしかして媚薬……? それとも睡眠薬じゃ……」
「? 私はイザナミ由来の女神パワーで調節できますけど、リゼットさんはまだ普通の女の子ですので、避妊薬を飲みませんと生エッチできませんよ?」
食事中にそういう要素入れるのやめてよ。
「リゼットさん。私達はまだ高校二年生なのですから、世間様に顔向けできないようなことをするのは駄目ですよ? 私達がそういうことをしてしまえば、それはつまり兄さんの責任にもなってしまうのですから」
「え、どの口が言ってるの」
「この妹でも避妊はするのですから、リゼットさんもしないと駄目ですよ。ハジメテの時だってしましたよね?」
「…………ソウネ」
「えっ」
私の歯切れの悪さに、シュバッと兄の方を見るトーカ。
するとジンは「口止めされていたが……」と妹に白状する。
「俺は全ての責任を取るつもりで、ご主人様を抱いた」
「り、リゼットさんっ!!!!」
あー! あー!!
「わ、悪いとは思ってたわよ! でもウエディングドレスまで着て! ずっと険悪だったお父様との仲立ちまでしてくれて! そんな、だ、大好きなヒトと出会った記念日が重なれば……そ、そういうことにもなっちゃうわよ! 捧げたくなっちゃったの! 純愛!」
「──怒りました。絶対今夜、リゼットさんと3ピー(規制音)してヒィヒィ言わせます」
「なんでっ!? もごっ──!?」
あーん! お薬無理矢理飲まされたぁ!
ゴクンとそれを飲んでしまいながら、私はスイッチの入ってしまった妹を前に震える。ゴゴゴゴと迫力を増す彼女の気配を感じながら……!
「い、妹ですら気を遣ってますのに……許せません。常識人で健全なフリして、リゼットさんが一番エッチさんじゃないですか。そういうの……なんだかモーレツに頭に来ます! こうなったらこの私が! 『あなたは背徳感を求めるエッチな女の子ですよ』と身体に教え込んであげます!」
「は、背徳じゃない! 純愛ッ!!」
「──お風呂に入りましょう。背徳でないと言うのでしたら、リゼットさんはムラムラなんてしないはずですもんね。でしたら私が、本当の背徳を見せて差し上げますよ」
「っ、の、のぞむところよ……」
そうよ、私がそういう気分にならなければそれで済む話じゃないの。二人だけでおっ始めようとしたらジンは殺せばいいし。
キッと睨み合い、食事はある程度に留めておく。
そうして無言のまま立ち、二人でお風呂に入った。念のため隅々まで身体を綺麗にして。念のためにね!
入浴中に何かちょっかいでもかけてくるのかと思ったけれど、トーカは何もせず、私の髪をドライヤーで乾かしてくれている。
そうして綺麗になった私に頷いて、トーカは何やら持ち込んだ鞄を漁った。もう服着ていい?
しかし──トーカが取り出したものを見て、私は思わず心臓を鳴らしてしまった。
「では、これを着用してください」
「なっ──」
こ、これ……。
これっ、薫風学園の夏用セーラー服……!? それも私の……!?
「ど、どうして……」
「リゼットさん。女子高生がラブホテルに入っておいて制服に着替えないなんて……そんなのノット背徳です。もう詐欺ですよ、それは」
「──っ」
思わず生唾を飲み込む。
セーラー服。それは自分が子どもであることを主張する服であり……到底、こんな場所で着て許されるはずがない。それもコスプレでもなんでもない、普段使いしている本当の制服を着るだなんて……! 倫理的にも、この制服を考案したデザイナーさんにも申し訳が立たないじゃないの……! というかなんで私の持ってるの。それも恐ろしい!
とてつもない提案をするトーカに、ワナワナと震える私。だけどトーカは真剣な色を瞳に宿し、重々しく語った。
「ウエディングドレスも素敵だと思います。ですが、少女の象徴たるセーラー服だって、負けないぐらい素敵だと思いませんか? そんな自分を、大好きな男の子に愛でてもらいたいと思いませんか」
「で、でも……」
「──私も一緒に着ますから。兄さんはロリコンさんなので、この姿で前に出れば、もう、ほんとに、すっごいことになると思いますよ。見たくないですか? 兄さんに、強く求めてもらいたくありませんかっ!?」
「──っ」
ジンに、つ、強く求められちゃう……?
あの夜には最後までずっと優しかった、大好きな彼に、ち、力強く……?
「……」
「……」
私は……。
わ、私は……、そんなの……!
「……ほ、他に着るものないし」
「バスローブが──あっ」
トーカの手から制服を奪い、いつもの手順でそれを着込む。
少し厚いデニールの黒タイツ。青のカラーと純白の織り成す、どこか清涼感を感じさせる上着。膝上をくすぐる、少し短い丈の青いプリーツスカート。
「……」
壁面に嵌め込まれた鏡に映るのは、高校生としての私。この姿で私はいつも登校し、勉学に励んでいる。そんな、学生としての私の姿。
「……」
なのにどうして。
こんなに……心臓が高鳴っているの。
「──ッ」
セーラー服って……。
こんなに、ドスケベな服装だったの……!? 私、ロリコンの気持ち少しわかった!
「……むふー♪ さぁさぁ」
「あ……」
いつの間にか同じセーラー服を着たトーカに背中を押され、バスルームを出る。ふわりと甘いシャンプーの香りを漂わせながら。
「ん、終わったのか? 二人と、も……」
「っ」
そうして、ソファに座ったままの彼の前に二人で立てば。
(うわうわうわっ)
わ、分かるわ……。
彼が、一瞬で興奮のピークに達してしまったのが……!
あわあわと口を動かしていれば、横合いからトーカが私の腕を抱き、ジンにウインクをパチっと投げる。
「どうです、兄さん? かわいーですか?」
「……ああ、もちろんだ」
「こーふん、しますか?」
「っ、ああ──!」
「では……えーい♡」
「きゃっ」
するとトーカは私の腕を抱きながら、ベッドへと倒れ込む。
「むふー、にーいさん♡」
「あ、あっ……ジン……」
上着やスカートの裾が捲れ、際どい部分が露出する。私はキチンと下着を着用していたけれど……トーカは、何も着けていなかった……。
恥じらいから涙を瞳に溜める私と、挑発的にスカートの裾を捲るトーカ。
ベッドに寝そべり、男を上目遣いで見る乙女二人を前に、かの悪鬼が我慢なんてできるわけもなくて……。
ギシ……と。彼がベッドに乗る音が生々しく響く。
そうしてドキドキする私達の頭の間に唇を寄せ、超低音で耳許に囁くの。
「──優しくは、できぬぞ。よいな?」
「「ッッッ」」
メッッッッッッッロ……!!
そうして鼓膜から脳を焼かれた私達は──、
あ、あーーー! 困るわあなたっ! そんな情熱的に求められたら困るわあなた! 妹が横で見てるのに! 恥ずかしい声も顔も、あなたにしか見せたくないのにっ! あなたにしか見せないって決めてたのにぃっ!
なのに──どうして、こんなにっ! あ、あぁーーーーー!!♡ ああーーーー!!♡♡♡
──翌朝。
「いかがでしたかリゼットさんっ!」
「……あなたって、あんな顔もするのね」
「むふー、リゼットさんも……♡」
「や、やめてよもう……」
私はこの日から、背徳にちょっとだけ寛容になったわ。えぇ、ちょっとだけね。
あと私のことを見るトーカの目が、ちょっと良くない感じになってるわ……わ、私達お友達よね、ね……?
「……」
まぁトーカも、よく見たら可愛い女の子よね……えぇ。こんなに可愛かったかしら……え? えぇ。え? 唇もあんなに柔らかかったし、えぇ……え? えぇ……。




