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もう姉妹には戻れない  作者: キノハタ
第8章 わたしとあなた

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第99話 姉と泣く

 あなたと抱き合う夢を見た。


 お互いに服も着ないで、何もない部屋でただ二人で。


 あなたは泣いていたような気がする。私はどうしていただろう、上手く覚えていないけれど。


 でも、ふと気づくと、あなたは腕の中で、出会ったばかりの―――幼いあなたの姿をしていた。


 私の身体も、気付いたら、小さな身体になっていて。


 そうして、また二人で抱き合って、そのままお互い身体に顔をうずめてた。


 泣き声が聞こえてる、子どもの頃のあなたの声と、そこに交じるような17歳のあなたの声。


 そして、それに交じるように響いていたのは。


 ……私の声なのだろうか。


 それにしては、いやに幼い気がするけれど。


 そもそも、小さいの頃の私は、ほんとど泣いた記憶がないから。


 どんな風に泣いていたかも、忘れてしまったけれど。

 

 真っ暗で何もない部屋の中、そんな泣き声だけが響いてる。


 どうして、泣いているのかすら、あやふやなまま。


 きっと、そんな意味すら、忘れたまま。


 私達は、ただ、泣いていた。















 ※



 …………。


 眼が開いた。


 しばらく、ぼやけた頭と、痛む喉の感覚だけが、私の意識を揺らしてく。


 誰かの手を握っていた気がする。でも、今私の手は、ベッドの外で当てもなく垂れさがっているだけだ。


 けほっと喉から漏れた声が、少し枯れている。眼元には何かがかすむような跡。血が回ると同時に、段々と痛みを訴え始める頭。


 …………まあ、そりゃそうだけど。全部、なかったことになんて、なってないよね。


 そもそも私、神様なんて、信じてないんだから。そんな奴の、都合のいい祈りを叶えてくれるほど、神様も暇じゃないんだろう。


 身体を起こしながら、ふらふらと覚束ない思考のまま、足を動かす。


 ちゃんと目が覚めて、色々頭が回るようになったら、逆に動けない気がしたから。


 曖昧な意識のまま、麻痺した感覚のまま、ふらふらとリビングを目指す。


 ぱちぱち、こんこんと音がする。


 そんな音を聞いて、ふっと思考に魔が差した。


 もしかして、はるが、想い出して―――。


 ただ、同時にそんな妄想がどこまでも都合がいいか、どれだけ今のはるを傷つけるかも想い出す。


 そう自覚しているはずなのに、胸の内では何かが暴れるように、私の身体を叩き続けてた。


 バカ、期待するな。そんなことより、やることがあるでしょ。


 昨日のこと、謝らないと。


 それから―――。


 ふぅって、息を吐いてから、意を決してドアノブを回した。


 そうして、開いた先で、朝陽に包まれたリビングの中。


 



 「あ、おはよう、黒江」





 はるは、エプロンを着て、笑ってた。


 「えっとね…………ホットケーキ作ったの。なんとなく、こう……作れる気がして」


 そんな姿を、この10年間、ずっと見ていた。でも、違う、わかってる。


 「まあ、ちょっと一枚目はアレだったけど。二枚目は……イケてるはず」


 そう言って、はるは両手にお皿を持って、私のほうにとことこと歩いてくる。


 「あ、卵と牛乳は勝手に使いました! あと、えと、ホットケーキミックスも! …………いや、作ってるの見たらわかるね、それくらい、…………うう」


 片方は、少し焦げてて、もう片方はまだいい感じ、でもちょっと焼きが甘いから、もしかしたら中は生焼けかも。


 「だから、えっと、そのね……」


 わかるよ、そんな失敗を、何度も、何度も見てきたんだから。


 「食べてくれると……うれしいな?」


 そうして困ったように笑う表情も。


 何度も、何度も。


 ああ、だめだね…………。


 一度、泣いてしまったからかな。


 涙の栓が壊れてしまったみたい。


 「くろえ……?」


 ああ。


 温かいはずの、その場所で、優しいはずのその気遣いで。


 私の心は、こんなにも簡単に、ぐずぐずになってしまう。


 「………………」


 そうやって、何も言えずに、ただ雫を零す私を、あなたは最初少し驚いたように見ていたけれど。


 やがて、そっとホットケーキを机に置くと。


 何も言わずに、その手を私の身体に回してきた。


 ぎゅっと、そうして、私をそこに繋ぎ止めているかのように。


 温かくて、優しくて。


 なのに、どうしてか、泣きそうになってしまう。


 そんな、感触と一緒のまま。


 本当は、謝らないといけないのに、昨日は、はるに沢山負担をかけてしまったのに。


 そんな謝罪の一つも、出来ない私を。


 あなたは、ただじっと抱きしめていた。


 言葉の一つもないままに。


 何一つ、理由も聞かずに。

 
















 そうして、何も聞かないまま、少し落ち着いてから、私はそっと食卓に座らされた。


 そんな私の隣に、はるは静かに腰を下ろすと、優しく笑って。


 「ねえ、黒江」


 「これを、食べ終わったらね」


 「ちょっと、二人でその、お出かけというか…………デートしない?」


 「ほら、折角のお休みだしさ」


 「ね?」


 そう言って、笑う表情が、いつかのあなたと重なって。


 私はまた何も言えないで。


 結局、ちゃんと返事が出来たのは、ホットケーキを食べ終えてしばらくしたころだった。


 その間、甘くて少し生焼けなホットケーキを。


 あなたの隣で、ぽそぽそと食べていた。


 「うう、にがい…………」


 そうして、はるは、真っ黒になったホットケーキを、どうにか頑張って頬張っていた。

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