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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
関西、脱出と復縁編
47/51

本日の宿と他……

「流石に一日じゃ走り切れないか――」


 車にガソリンを入れながらスタンドの柱にぶら下がっている時計を確認してみる。既に広島を抜けて八時になろうとしていた。朝の七時位から既に十三時間もろくな休みも取れずに車で走り続けているから自分も流石に疲れが貯まってきている。――二度ふらついて吐き気がしたら困るのでここらで休む事にする。岡山県で一泊だ。それを思いついたと同時にガソリンの給油が終わった。因みにこのガソリンの給油も自腹ではなく、車内に置いてあったプリペイドカード内に五万も入ってたから暫くそれでで走れると言った所だ。――準備が良すぎる。

 自分は車内に戻ってシートベルトを付けたら早速スマホで宿の検索をしてみる。


「にゃらん、じゃらん――っと。当日予約取れるホテルは」

「別に……羽海ちゃんと一緒ならどこでも……」

「そっか」


 蘭は自分と寝れればそれで満足みたいだ。という事はダブルでも嫌がらずに喜んで一緒に寝ると――うーん、蘭がよくても自分はちょっと拒否させてもらおうかな……。


 無い。今回は寝ぼけている訳でも無い。というか曜日的にも泊まる分には空いている筈なんだけど時間が悪かっただろうか、何処も空いていなかった。いくつも電話を掛けてみるがお断りとかクレジットで先払いとか無職にはキツイ事を言われ何処も取れず。

 ――車内泊が確定した。


「ふんわりしたベッドで自分は寝たかった……自分は鵤さんと一緒の運命を関西で――」

「シート……凄い下がるよ……」


 まだガソリンスタンドだったが蘭は既にシートを最大まで下げて寝そべるのを見せた。それを見せられたら完全に車内泊が確定されますけど宜しいのかな? 蘭。






 岡山県に向けて走っていたけど自分はボーッとひたすら走っていて、何を考えていたのかと考えている。「何かを検索しようと思って検索欄に入力しようと思ってたのにその検索ワードを忘れた」ばりの考えだ。車内泊なんてしたことがないし、そもそも枕となる物がまた無いから寝づらくて仕方がないだろう。


「ワシは車内泊して腰いわさんようにたまに漫画喫茶を使うで――」


 鵤さんが前に言った言葉が突然出てきた。漫画喫茶か……。非常に悪くない答えが出てきた。端に車を止めて早速カーナビに検索を掛ける。最近のはコンビニやガソリンスタンドの他に様々なアミューズメント施設も範囲検索出来るから便利だ。

 さてと『漫画喫茶』と――様々な場所が出てきたな。なるべく個人経営は無しにしておいてチェーン店でやっている所を探す。快活クラブとかアイ・カフェとか――近くは快活クラブか。よし初めての漫画喫茶と行こうか。




          ※  ※  ※  ※




 平日言えども車が沢山止まってて利用者は多いようだな。サイドブレーキを引いて蘭を起こす。


「蘭、ホテルじゃないけど漫画喫茶で寝よう」

「……分かった……」


 思考停止寸前の蘭。首を揉んでるという事は血行が止まっていたようだ、車内泊はこういうリスクがあるから自分は嫌いなんだ。シートベルトを外して二時間振りの空気を吸う……と言っても窓が曇るから偶に窓を開けたりして空気の入替えをしてたわけだから別に二時間振りという訳ではないが。

 蘭の手を繋いで店の中に入るとダルそうな店員が出てきて一礼「いらっしゃいませ」と言ってきた。


「すみません、二人用のブースをお借りしたいんですが」

「会員証はお持ちでしょうか? ――お作りお願いします」


 会員証が必要とは、自分は免許証を提示して出された紙に住所と名前を書いていく。


「千葉県……」


 店員がその都道府県名に反応してきた。それはそうでしょうよ……千葉県民がここまで来て漫画喫茶に寝ようと言うんだから誰だって反応する。


「はい、お願いします」


 自分は書き終わって紙を店員に出す。


「そちらのお客様も会員証の提示をお願いします」


 蘭は財布を取り出してここの漫画喫茶の会員証を出した。という事は以前に同じチェーン店で利用した事があるのか蘭は。――深く理由は聞かないけど、まぁセミプロがいるんだったら自分も気が楽になる。





 案内をされて二人用ブースのフラットルームとやらに着いた。蘭曰く、寝るんだったらフラットルームらしい。――これはこれは、中に入ったら柔らかいマットに包まれた部屋なんだな。自分は伝票をテーブルに置いて早速靴を脱いで上がる。ハンガーがあったからそこに上着を掛けて横になる。


「羽海ちゃん……ドリンクバーとかもフリーだし……漫画とネットも使い放題だから……十分に休息取って……」

「蘭、ありがとう。じゃあ自分行ってくる」


 靴を脱いだばかりだけど、また外に出る。――部屋の番号をしっかり見てドリンクを取りに行く。

 ドリンクバーのその後ろにアメニティと書いて様々な物が置いてある。……毛布と枕が無いけど、代わりになるのがクッションとブランケットか。これを持って蘭の所に行く。


「蘭、これ。ブランケットと枕代わりに」

「ありがとう……」


 これを置いたらまたドリンクバーに向かった。

 ……ドリンクバーよりも、ソフトクリーム機の方が気になる。なんて素晴らしい物がここにあるんだ。しかもフレークとかあのレインボーのアレとか、チョコソース……これは楽しめそうだ。自分はカップを持ってそのソフトクリーム機に手を掛ける。


「……急に出てくんなや⁉ わわ……」


 昔に……カップを回すんじゃなくて手首を捻らせるんですよ! という誰かの教えから自分は手首を捻らせて上手くとぐろを巻いた。――我ながらいい出来だ。自分はこれを持って蘭の所へと向かった。


「ら、んー♪ 上手く出来たよー♪」

「……羽海ちゃん……嬉しそう……」


 自分は思わずドヤ顔。





 暫く休んでから丈の足りないブランケットを体に掛けて横になる。ここが今岡山県とは思えない。果たして自分は千葉県にこの車を傷つけずに帰れるのかと不安になっていく。しかも余計……いや、この蘭を連れて。

 ――蘭はこっちに転がってきて体を寄せる。


「羽海ちゃん……不安そうな顔してる……」

「――悪いな、自分がこんなんばっかりで」


 蘭は蘭で別に何も悪くない。思い出した記憶で悪いのは自分だ。新幹線に乗って広島に着いて挙句の果てに車を押し付けられて高速道路は近畿まで使用禁止……おまけのマレードで嫌になってくる。お得意の自己険悪だ。


「……駄目だよ……」


 蘭は自分の気持ちに察し付いたか、覆い被さって顔の距離がぐんと近づく。


「もうそんな顔しちゃ駄目……誰も……悪くないの……」

「でも……」

「なんで羽海ちゃん……『あたし』って言わないの……? 羽海ちゃん……変わった……」

「それは……」

「羽海ちゃん……自身に嘘ついちゃ駄目……言ってみて……」

「あ、あたし……」

「まだ……嘘付いてる……正直になって……」

「あたし……さ……本当嘘ばっかり――!」


 閉ざした自分の心が蘭に無理やり開けられて涙腺が崩壊した。この気持ちは高校一年の時に蘭に閉ざされて今また蘭に開けられた。


「本当は――本当は怖かった……! 蘭ちゃんに傷つけられた後、あたしはあたしを偽ったの。弱いあたしが嫌いで口調も変えて性格まるごと泥みたいなので貼り付けて剥がれないように必死に貼り付けて偽ってたの――」

「…………」

「本当のあたしは弱いの、蘭ちゃん……」


 そのまま蘭ちゃんはぎゅっと抱きしめてくれた。あたしも抱き返す。


「羽海ちゃんは……強い……強い心が付いてる……大丈夫……」

「蘭ちゃんは……優しい……」


 約七年振り。――そう七年、全ての泥を蘭ちゃんに剥がして貰ってここに帰ってきた。……あの時を思い出す。蘭があたしに話しかけて始まったんだよね。あたしはそれも思い出せた、今までは嫌な思い出だったかもしれないけど、好きな思い出に返ってくる。あの《事件》の内容も抱き締めた時に忘れちゃった。


「蘭ちゃん……ありがとう――」


 蘭ちゃんに感謝する、それが分かったら蘭ちゃんは抱きしめるのを止めてスッと眠ってしまった。

 ……さようなら、名柄川羽海。……ただいま、名柄川羽海。今までのあたしはまたおやすみ……また会える日が無いように。




          ※  ※  ※  ※




「……んー」


 あたしは目覚めた。ここは岡山県の漫画喫茶、すっかり気分は千葉県みたいだけど、まだ中国地方だ。


「……蘭は寝てるか――どれ、あたしはモーニングセットでも頼むかな」


 早速受話器を手にとって注文をして終わる。どうやらこの時間帯は〇円でいいらしい。フゥー! 太っ腹じゃん店長! 二人用と言っても狭いブースで少しテンションが上がる。


「…………」


 いつの間にが起き上がっていた蘭が冷たい目で見ていた。


「あ、蘭。悪い……」

「……羽海ちゃん……半分戻って……半分何かくっついてる……」

「え?」


 そういえば、この口調と言葉使いが元に戻ってるし……気分が変だ。何だこれは。


「羽海ちゃんの以前の性格と……羽海ちゃんの高校の時の性格が……混ざってる……」

「ありゃりゃ――あたしは戦士みたいにフュージョンしちまったのかよ」

「でも……気持ちに嘘は付いてないみたい……新しい羽海ちゃん……」


 さよならしたハズなのにその羽海が別れきれずにこの羽海の体に戻ってきちゃった訳か。まさにあたしらしいな。でもこのらしさが今大事なのだからこれでいいんだろう。

 ドアをノックされる。そう、モーニングセットが来た!


「おまたせしましたー、失礼します~」


 机にモーニングセットが二つ置かれる。あたしの朝食はパンとごはんどっちでもいい派だ。でもこのパンの耳だけは余計、いらんな。このパンの耳が好きな奴がいるけどあたしはどうもこれが好きになれない。





 さて、外に出たものの――雨だ、あたし達が乗ってきた車も朝からの雨でびしゃびしゃだ。まぁ車での移動だから別に問題は無いんだけど、やっぱり雨ってなるとショックだ。旅での雨は一番の弊害であり、テンションを一気に下げる要因になるし最悪だらけだ。


「羽海ちゃん……今日も宜しくね……」

「はいよ……」


 あたしはドアのロックを解除して乗り込む。


「えーと、シートベルトを付けてパワーボタンを押して――出発と」


 リターンにレバーを入れてバッグ、レンジドライブ、出発だ。

 ……出発したものの、まだ岡山県。これから兵庫に入って京都に向かおうとしている。京都は高校の修学旅行以来だ。あの時は滅茶苦茶な旅行になって楽しめてない。楽しい楽しい修学旅行を台無しにしたのは上泉、アイツだ。アイツが金閣寺の池で泳がなかったらもっと楽しめたのに。――住居不法侵入罪になりかけ、最終的に逃げて終わったのだが。


「羽海ちゃん……これからどうするの……」

「そうだなー、シャワーを浴びたものの、一度しっかりとしたお風呂に入りたいな。何処かの温泉地に入るか」

「うん……」


 ということで決まった。次に何処かに止まったら、カーナビで調べてその場所を目指す事にしよう。――今は面倒に思ってないからな? 蘭?

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