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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
関西、脱出と復縁編
45/51

ゆらゆらと……

 竹原に着いて国道一八五号線沿いの道の駅で車を止めて降りる。観光誌によると直ぐ側まで来たようだ。ここに来るまでそんな街並みは見なかったのだが、本当に保存地区なのか? 写真によると石畳で小京都が味わえると書いてあるんだけど、今のところアスファルトと山と川しか見てないし、広島市街から離れると何も無い。ここは今の所千葉と共通、でも信号少ないから飛ばしていける。関東地方が如何に信号が多いかが分かる。千葉県なんて速度制限ばっかで走るにツライ。


「羽海ちゃん……ここ真っ直ぐ行くと保存地区に着くよ……」

「はいよ」


 道の駅で何か見て行きたかったけど、先に保存地区を見ることを優先としよう。別にお土産に期待はしていない。もみじまんじゅうが名物で多分どこでも買える商品だろうから、いいでしょ。ここで買って邪魔になっても仕方が無い。

 歩行信号を渡って細い道を通ると急に景色が変わる。確かに地面が石畳で埋められて、古い建物が目立っていた。この保存地区で生活してる人もいるというのだから驚き。この生活圏に住んでる人には申し訳ないけど――自分は見るだけで十分です……。情報によると、明治から経っている建物も未だに健在している。日本の木造建築の強さは異常すぎる、昔の人は凄いな。


「羽海ちゃん……ご飯どうする?」

「考えてなかったな、お好み焼きにでもするか?」

「うん……」


 ということで、今回は保存地区でご飯にすることにする。勿論、保存地区でお好み焼きを食べると言えば……「ほり川」さんの所で決まっている。

 お店の側まで寄ってみると観光誌を見ると"大"行列が出来て売り切れてしまう事が多いらしいけど、そんな様子も無くアッサリ四人目と五人目に並べられた。行列が出来るほどの店か、お好み焼きの執念深さ恐るべし……。十一時開店だけどその時間前から既に並んでるんだから美味しいんだろう。

 行列と言えば、千葉県でも日本でも一番とも呼ばれる「とみ田」が有名だけど、以前に鷹見と行ったら三時間か四時間並ばされたけどアレぐらいの行列が出来ると思ってた。一回あの行列に並んだら「抜けてしまおう」と思う事が何回あったか……でも一度耐えたら美味しいラーメンにありつける。今は整理券で並ばなくても後から来て食べられるようになったけど……甘い、甘すぎる。予約券だけだから来たら実際に並ぶ。その間の時間を他で潰せるようになったのはいいものの、松戸に暇を潰せる所は無いから遠方から来た人は注意しよう。


「何名様で」

「二人で」

「かしこまりました」


 やっぱり標準語でも訛が入るんだな。自分はこういう関西の訛が好きだ。

 ――少し目を話すと蘭は電子タバコを取り出して吸おうとしている。自分はその手を掴んで顔を横に振る。


「電子だけど――タバコ止めたら?」

「……やめよう……かな」


 こんなスパスパと吸う蘭を見てるのはちょっと嫌気がさす。


「いつからタバコ吸うようになったの?」

「二十歳になってから……初めは月に二箱吸ってたけど……生活切り詰めないといけなくって……」


 そんな生活を切り詰めないといけないほど吸わないとやっていけないのか――タバコの中毒性って恐ろしいな。でも今の自分の言葉で電子タバコも止めてくれたら嬉しいけどな。


「お客様どうぞ」

「はーい……入ろっか?」

「うん……」




 中は古き良き感じがする。自分はやっぱり鉄板屋さんというのはこういう風味がないと美味しくないよね。

 早速メニューを見てみるとお好みそばとお好みうどん野菜焼きって色々選択できるみたい。モダン焼き的な……? 自分はシーフードスペシャルとスペシャルのお好みそばを一つずつ頼んだ。お好み焼きのそば入りなんだろうな。


「……」


 別に蘭とは喋る事も無く時が過ぎる、高校の話をしていても蘭とは二年も一緒じゃなかった訳だから蘭もイメージがしにくいのだろう。たまに相槌が遅れる時がある。

 ……それにしても、タネが届くのが遅い。鉄板は既に温まっててスタンバイ済みなんだけどなぁ、自分はお好み焼きとか作るの上手い方でその手順を蘭に教えたかったけどタネが届くのが遅いから余計に会話がなくなる。店員さーん、早くー。


「お待たせしましたー」


 鉄で出来たちりとりみたいのを持ってきて鉄板にお好みそばを置いてくれる……既に作られていたのね。せっかく良い所を見せれると思ったのにこうも出来ていたら何も出来ない、ただ食べるだけである。

 見た目はもっこりしててモダン焼きとは全く違った感じだ。全体を焼いたというより、包んだと言った感じだな。蘭とお好みそばを切り分けて食べる。


「それじゃ、頂きまーす……はぐっ……美味しい」

「うん……美味しい」


 これが広島のお好み焼きか。また関東で食べるのととはボリュームが違った。――悪く言っちゃえばそばメイン? でもズズッと食べる訳じゃないからモグモグっと食べる。

 隣を見てみると別に切り分けもせずに食べていた。

 もしかして、一人一枚なのが関西の掟? 関東じゃ一枚を切り分けて食べるんだけどね。こっちでいうとラーメンみたいなものかな? でも気にもせずに「そっち頂戴」と蘭の方にあるお好みそばを切って食べる。


「あ、マヨネーズ使う? 自分は駄目だから」

「うん……羽海ちゃん……マヨネーズ駄目だった……?」

「そうだなー臭い嗅ぐだけで鳥肌が立つ」


 自分がマヨネーズが駄目になったのはもう数十年も前、幼稚園か小学生くらいかにマヨネーズ丼を食べされられた結果、強烈な拒絶反応を起こすようになった。自分の体重が増えない理由はマヨネーズとか油分がある食べ物を食べないからかもしれない。

 蘭はマヨネーズの蓋を開けてグチュっとお皿に乗せたお好みそばにぶちまけた。そんなに掛けるのか蘭……自分は思わず鳥肌が総立ちしてしまった。今でもマヨネーズは嫌いだっ。




 お好みそばを食べ終わり外に出る。下が石畳で明るく見える。ほり川さんのお店から左に出る。


「ここは……本当に綺麗……だね」


 保存地区を見渡して言ってきた。実際言うと京都より京都してるかもしれない、京都はアスファルトが多くて京都っぽくないと思ってしまった。その理由が床が石畳じゃなかったからだ、自分の中のイメージでは石畳=古都というのが強い。だから修学旅行で行ったら全然楽しめなかった気が。

 さて、次にたどり着いたのが『竹原市歴史民俗資料館』だ。自分達は竹原市という所は本当に来たことも何も無いので、ここで歴史を辿ってみることにしよう。カントリー社の観光誌でも詳しくは書いてない。

 ここは他と違って西洋な建物だ。

 元々は図書館だったらしいけど空き家になった後は資料館として活動、そして今でもこの竹原市の歴史を使えているということだ。中もそのままで二階とかの料金は百円と良心的価格。自分はこういう歴史を辿るのは好きだから二人分払う事にした。


「いいよ……羽海ちゃん……私が払うから……」

「いや、大丈夫。自分が払う」


 強引過ぎたが、自分は百円二枚出した。それから何回でも出入りしても可能らしい。何処かの博物館とは違って一日パス券とは見習ってほしい。

 二階に上る前に自分は入口から少し行った場所にあったボトルを見てみる。


「NIKKA……ニッカボトル?」


 竹鶴政孝という人が最初に作ったニッカウヰスキーのボトルが飾ってあった。少し飲んである状態で終わっているが……この蒸留酒を少し飲んだ所の物を飾られるとは夢にも思わなかっただろうな。この一号の味はちょっと飲んでみたい。

 ニッカウヰスキーの歴史を学んだ所で二階に上がる。二階はハニワとか縄文時代の物とか――果たしてこれは竹原市の歴史を今学んでいるのか、時代の歴史を学んでいるのか分からなくなってしまった。うーむ、良心的値段というのも分かったかもしれない。失礼な言葉を言いそうになったからそろそろ出るとしよう。

 多少不満な顔でまた歩く。蘭は観光誌を確認して裾を引っ張ってくる。


「こっち……」


 次にグイッと手を引っ張られて少しよろめく。出て左の方向へと行く。余程見たいのだろう、こんなに積極的に出たのは久々だ。

 ほり川と資料館でちょっとほり川寄りの横道に行くと上へ登る階段が目の前に出てきた。一回気にはなったけどこっちに行くとは。登ると『西方寺』に出るらしいな。小さく目印看板が出てた。

 そのまま階段を上がって蘭は知ってるかのように右の細い道へと通る。ほー、寺の横に寺みたいのがあるのか。これは閣というのかな、紅色に塗られた綺麗な建物だな。蘭はこれを登ろうというのか……。


「靴、脱いでね……」


 蘭はそう忠告するけど一人靴も脱がずに上がってしまったぞ、でもちゃんと横に「靴を脱いで下さい」と書かれてるから自分も靴を脱ぐ。蘭の靴下は黒……か。って自分は何に注目してるんだ、因みに自分の靴下は藍色だ。

 通路を渡って舞台に上がる。

 おお、ここの眺めは凄いな、さっき通ってきた向こうの山も見える。竹原市の保存地区全体も見えるし、ここは来て良かった。蘭はちょっと充電したアイフォーンでパシャパシャと写真を撮っていた。自分のは――あー、なんだ。後で蘭から写真を貰おう。充電してたのは蘭のアイフォーンだけだったから自分のスマホは充電してなかった。というか出来なかった。




 蘭は行きたい所がたくさんあるからかどんどん手を引っ張って自分の足が回る。二日酔いで自分は頭が痛い中移動してるんだぞ。少しは考慮もしてほしい所だが……まぁ時間があまり無いのも確かだし急ぐのは分かるけどね。

 足が縺れる自分とちょっと元気な蘭と辿り着いたのはさっきの資料館の横の細道を通った所にある『抱え地蔵』に来た。


『静かに持ち上げてお願い事をして下さい。きっとあなたに幸運が来ます』


 卍のマークの下に赤ちゃんの格好をした地蔵様が抱えてと言わんばかりに座っていた。他の地蔵と違うのが一目瞭然だった。

 蘭はその抱え地蔵様を持ち上げようとするが――腕力がないから持ち上げられないらしい。蘭の腕力はそんなに無いのか……なんでも地蔵様とはいえ抱える事が出来る位の重さだとは思うんだけどな。


「一緒に持ち上げようか?」

「うん……」


 二人で持ち上げる事なんて絶対に無いだろうけど自分は横から手を入れて持ち上げる。――いや、結構重いな。これはちょっと腕に力を入れて上げないとキツイな。


「二人の赤ちゃん……」

「ん? 何か言ったか?」


 なんで蘭は頬を赤くさせてるんだ。やっぱりつくづくおかしいヤツだなお前も。十分に重さを堪能した所で元の位置に地蔵様を戻す。自分の願い事は――千葉に帰してください。という願い事だ、今はこれだけです、いや本当に帰らして。


「蘭は何お願いした?」

「教えない……でも羽海ちゃんなら……直ぐ分かる」

「そうか」


 まぁ、既に地蔵様に会う前に願いは叶ってると思うな――。深く追求しないことにしよう、願い事は人に話す事じゃない。叶ってから人に話す事なんだ。自分は蘭の口から出るまで聞かない事にした。




 すっかり手を繋いで移動する自分達、もう蘭はこの手を繋いで頬を赤くして楽しそうだ。一方で自分は二日酔いの影響で吐きそうだった。ここの保存地区の石畳に吐いたら炎上間違いなしだろう。そこはグッと堪える。体がアツい……。


「蘭、ちょっと……座っていいか」

「うん……」


 ベンチで落ち着く自分、幾ら持久力自慢の自分でも歳と酔には負ける、これは体力の無さから来て持久力では無いな。蘭も心配してか背中を撫で撫でしてくれた。


「羽海ちゃん……」

「大丈夫だ、大丈夫」


 蘭は心配してか「水貰ってくるから」と何処かに行ってしまった。お日様が頂点まで登ってきたここで吐き気とか色々来るとは思わなかった。それよりも保存地区での蘭の行動が早すぎて目まぐるしかったのもあるかも。視界が真っ黒になりそうだ。

 ――ヒヤッとした感触が首元に伝わってきた。


「羽海ちゃん……ミネラル」

「ああ、ありがとう」


 ペットボトルを受け取って飲む。

 ――うん、少しは落ち着いたかも。まだ回復には早いけど山は超えたな。


「私……これぐらしか出来ない……」

「そ、そんな心配しなくていいよ。ちょっと休めば――」


 そんな言った側から目がくらむのは重症だな。自分としたことが。


「羽海ちゃん……」

「ごめんな……」


 普段自分で処理する事が多い事のハズが、蘭に助けられてるな。ちょっと前まで啀み合ってた仲とは思えないくらいだろう。服のフードを被って日差しを避けながら下を向いてとにかくジーッとする。蘭も何回も背中を撫でてくれているがこれも案外効果があった、朝から血圧が上がるような事をするから悪いんだ。


「羽海ちゃん……他に出来る事はない……?」

「横になりたい――膝貸してくれないか……」


 持っていたバックを退けて膝下を空ける。自分は申し訳なさそうにそこに倒れる。


「羽海ちゃん……頼ってくれる」


 数年前に出来なかったことを蘭は成し遂げたからか嬉しそうだった。自分自身は本当に情けないが。

 おでこに冷たいペットボトルを当てながら目を閉じてちょっと寝てみる。――蘭じゃなかったら出来なかった事だ、ここの場面で麻衣だったら


「いつか治っから! 大丈夫だって、行こう」


 なんて行ってドンドン進むだろう。こんな重症でも人知らずに行こうとする麻衣と違ってちゃんと蘭は看病してくれている。麻衣はもっと人に優しくするべきだと思う。でも麻衣と飯に行って食い潰れ(腹一杯まで店を回りまくる企画)をした時は本当に死にそうだった。あの時でも麻衣は食い潰れ状態でも「大丈夫」の一言で次から次へと人の状態も知らずに行ってたな。食い潰れて裏路地で嘔吐したのは麻衣に言っていない。

 そんな変な事を思っていたら気分が良くなってくる。自分はゆっくりと起き上がってまた座る状態に。


「だ、大丈夫……?」


 蘭に心配されるけど自分はグッドマークを出して状態を示した。ホッと一安心する蘭。これは蘭のおかげだ、ありがとう。

 自分はベンチから立ち上がり、ゆっくりと歩いて道の駅に駐めてある車の下へと帰る。

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