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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
関西、脱出と復縁編
43/51

磁極の二人……

 思い出せる所まで思い出したけど、やっぱり広島まで来た理由までがわからなかった。新幹線の話までは出てたけど……出たのに、その次の話が出ない。仁宮も仁宮でなんで途中参加で覚えてないのかがサッパリだ。アイツの事は心配するべきではないからアレだけど、これから何処をどう行けばいいのかをスマホで探す。広島から千葉なんて滅多に検索しないし、自分はこんな野暮用で検索なんてしたくもなかった。しかも今回の相棒は仁宮、下の名前はなんだっけ? そうだ、蘭だ。一番に殴りたい相手だが、上級生だった三守みかみが殴ったから自分は殴りたくないし、今はそういう状況じゃない。


「羽海ちゃん……どうするの……?」

「うるさいっ! 今探してる!」


 流石に過去の因縁があるだけ自分も扱いが雑になる。仁宮の嫌な顔が見えたが気にしてないからな。お前が何か法に触れるような事をしたら自分は広島県警を呼ぶからな。何したって自分は反発してやる。お前がS極だったら自分もS極だ、N極に変わる事なんて無い!

 今の状況にイライラしていたところでようやく見つかった――と思ったら電池が切れた! なんてバッドタイミング……マジでムカつく!


「おい仁宮。携帯は? 持ってるだろ?」

「私のは……ごめん……」


 あぁークッソ、お前もか。準備よくモバイルバッテリーも持ってないし充電器も持ってるわけがない、コンビニに売ってるのはお試し充電されてるのが多いけどそれだけじゃ持たないし、なんせ電圧が足りないのが多い、ドンキか家電量販店の質のいいモバイルバッテリーを――


「羽海ちゃん……使う……?」

「お前持ってるんだったら言えよ!」

「ご、ごめん……」


 自分は仁宮からバッテリーをぶんどる。ぶんどったのはいいが……お前のはアイフォーンか! 端子が合わないのが直ぐに分かった。自分はぶんどったバッテリーを返す。


「悪いな、自分のはアイフォーンじゃないんでな」

「ごめんね……」


 自分でもこれは本当に悪いことしたと思う――ごめん。




 仁宮が何回か手を繋ごうとしたが拒否! 全力で手を振って拒否する。仁宮は自分との好感度の持ち点で言うとマイナスで復縁不可の状態から自分の好感度をあげようとしたら無理な状態なんだからそりゃ手だって繋ぎたくない。はぁ――

 とりあえず、太陽がまだ登ってきて間もないから太陽に向かっている――という事は、東に向かってると思う。秋の空とはいえ傾いてても東には行くはず。ということは岡山県には行くはずなんだ。しばらくスマホも使えないからこの広島をブラブラする。そういや、原爆ドームってどこだっけ? 探してみる。今は相生通りというらしい……さっきは左に行ってたのを逆に歩いてるからこのまま東に進もう。

 路面電車を初めて見たけれど、限定の場所しか通れないバスみたいなもんなんだな。そして信号も特殊でバッテンのは――なんだ? えーっと、これ……教科書で習った? 教習所で習ったっけ? 千葉県には路面電車なんて無いからよく分からない。似たもので言うと銚子電鉄……アレは二車両だったか。


「羽海ちゃん……路面電車……乗ってみない……?」

「無駄なお金使ってられない。乗らないよ」

「ここまで来て乗らないのは……」

「ここまで"来て"じゃない、ここまで"来ちゃっ"たんだよ、だから乗らない」

「さっきから……羽海ちゃん……酷い……」

「酷いじゃないよ! もしお金使って中国地方はおろか、広島も出られなくなったらどうするんだよ」

「路面電車……安いと……思う……」

「絶対反対だ。自分は歩いて行く」

「でも……」

「でもじゃない! ――とは言うものの、原爆ドームは見るべきだと思うんだよな」

「……乗らないけど原爆ドームは見るんだね……」

「ウッ……た、タダだからだよ。フリーの物は見るだろ」


 変な所を確信突いて来るコイツは一体なんなんだ。絶対反対派の自分の意見は「お金が掛かるから」で仁宮が言うのは「記念に」ということだろう。両方に共通するのは「記念」という所だけで、「お金」が掛かる部分は仁宮は触れてない。それで結果はというと……


「スイカが使えるとは思わなかった……近代的なモデルだからやっぱり中身も近代的な」

「乗って……良かったでしょ……?」

「んん――」


 肯定なのか否定なのか分からない感じで答える。別に素直じゃないっていう訳じゃない、コイツが大っ嫌いだからこう答える。自分はとことん嫌ってる感じを出してるのに、そんな空気も読まないで仁宮は突っ込んでくるんだよな。腹立つなーテメェ。


「見えた……」

「見えた? ああ、本当だ。原爆ドームだな」


 アメリカ人にとっては勝利の遺産だが、日本側から見てみると負の遺産であり、被爆を受けた証でもあるが、それが日本の観光地として有名になったのがこの「原爆ドーム」だな。流石に年月が経ってるからか、それとも崩れやすいのか、工事をしてる所が多い、保存が大変なのだろう。B-29がこの広島と長崎を襲ったのは確かだが、一つ間違って知られちゃってるのは「B-29」という爆弾を落とした訳じゃない。「B-29」は爆撃機の名前、じゃあ爆弾の名前はなんだって話――広島は「リトルボーイ」って名付けられた核爆弾、長崎に落としたのは「ファットマン」という核爆弾。その「リトルボーイ」が広島に落ちた四五年の八月六日に、この建物も破壊された。この原爆ドームから南東一六〇メートル、高度六〇〇メートルの所で炸裂、原爆ドームは非常に分厚い壁で倒壊せずに耐えた結果、世界遺産になった訳だ。今も保存工事してるのだから奇跡のバランスで建っているのだろう。


 勿論、来たからには素通りするわけには行かない。原爆ドーム前駅で降りる。スイカ払いだから電子マネー払い扱い。原爆ドームに近づいて一周見てみる。実物で見るのはやっぱり違う。

 全体は、赤レンガで包まれていたのだろうか? 色々な事を想像しながら見るけど、某漫画を思い出してしまう。全国的に有名な漫画だから直ぐにタイトル名が出ると思うが、一度は読んでほしいと思う。一部の学校は規制をして読書するのは駄目と言うが、この原爆ドームが残っている通りに、悲惨さを漫画でもいいから伝えてほしいと思う。自分が読んだ中で衝撃が残る漫画の一つでもあるんだから。


 ――そういえば、身内の話になるが、以前に夢の中であった阿賀町富子は二次世界大戦から十年後に産まれてる訳だから、今度会うような事があったら聞いてみるか。当時の暮らしとかを聞けるかも? 勿論、よく分かってない事だらけだし、当時の千葉はどうだったのかも一度は聞いてみたい事だ。


「見終わったか? とっとと駅に行くぞ」

「うん……」


 ちょっと名残惜しそうだが、これから千葉に帰らないと行けないんだからもたもたしてられない。

 

 暫く、駅構内を回って見てそして――

 帰れない。


 こう悟った、結局仁宮が持っていたモバイルバッテリーも年季物だからか、モバイルバッテリーも電池が切れていてどうしようも無い。そして駅なのだが、自分はそんなに電鉄に知識が無いからどうやって帰れば……。自分は馬鹿なのか? と思うけど、視界も未だにボヤケてることもあって頭もズキズキしてる中でただ単に見えなかったのだろう。――新幹線の文字を。二日酔いというのは恐ろしいものだな。ここまで頭の回転を遅くするとは。


「広島駅で乗るもんじゃないのか? よくわからない……」


 現代人はスマホを奪われると何にも出来なくなる、電話もGPSも頼りにしている人達はもうお手上げだ。起動はさせてみるものの結局「シャットダウンします」って表示されて画面が真っ暗になる。これはただのお荷物だ、クソッ。


「羽海ちゃん……」

「うるさいな、他の道探す」

「あっち……」

「うるさいって」


 忠告なんで聞かない、グルグルと回ってみるが結局良くわかってなかったのだろう、新幹線の文字を多分何度も無視してひたすら「電気電気」とか呟きながら人混みを避ける。


「電気電気電気……電化電化電化……カー? カー……車?」


 酔っていた体で何かを閃いて、車とかいい出してレンタカーを天啓。天啓は神のお告げともいうが自分は仁宮のお告げよりも神のお告げを聞くことにする。車を借りよう。今だったら、片道乗り捨て型のレンタカーとかあるし、ソケットでおまけに充電器とかも付けてくれることも多いし、中で寝れるしカーナビ使えるし……。良い事尽くし、さっさと契約をして千葉まで走ればいいんだ。

 自分は早速、レンタカーショップに行って店員と話す。


「すみません、レンタカー借りたいんですけど」

「はい、市内を走りますか?」

「いや、千葉まで!」

「千葉!? お、お客様。高くなりますけど……私らのおすすめとしては新幹線の利用を……」

「いや、レンタカーで行きたいんです!」

「このお値段になりますけど……」


 サッと見せてもらった値段が六一〇〇〇円――た、高い。諦めよう、ガソリンとか考えたら限界を超えてしまう。新幹線は何処なんだよー。


「あの、どうなさいましょう?」

「えーっと、新幹線って何処に」

「あちらの駅で――」


 ダラーっとしたまま店員の話を聞いたけど「はい」しか言わないで大体覚えた。猿でもわかる「東京への帰り方」を教えてもらった。一六〇〇〇で行けますよと聞けた瞬間何かが切れた。相変わらず、自分の中の線は切れやすい。プッツンとな。

 ――広島を旅しよう、と。悪いけど、お荷物「仁宮」を千葉に帰しての一人旅とでも行こうかね。


「あの、市内でいいんで。レンタカー貸してもらえません?」

「分かりました、この契約書にサインを」


 自分は契約書に自分の名前と住所を書いて――車を借りる。


「羽海ちゃん……いいの?」

「もう焦るの止めた。お前は帰るんだったら帰っていいぞ」

「私も行く……」

「チッ、来るなら来い」


 結局付いて来ると思ったけど、別に予想の範囲内だから気にしてない、舌打ちしたけど。それで、外に用意されていたのは契約通り軽自動車、別に排気量の高い車を借りても広島を出る訳じゃないからこれで十分。


 久々に車に乗るけど、運転は大丈夫かな? サイドブレーキを引こうとするが、サイドブレーキが見当たらない、サイドに無い。なんだ? とりあえず、周りを見てみる。――ブレーキペダルの横にペダルが見える。これか?


「カッチン」

「おお」


 ちょっと感動してしまった、家には古いのしか無いからこんな発達した技術があるとは思わなかった。サイドブレーキが足で操作出来るようになるとは、いい時代になったなぁ。多分自分が追いついてないだけだと思うけど。

 何ヶ月かの車の運転、最後に乗ったのは鷹見がお酒を飲んで帰れないと行ってタクシー代わりに迎えにいったのが真新しい。その周りで酔ってた鷹見の上司や同じ係の人達が「フゥ~!」とか喜んでたのを覚えてる、勘違いされやすいけど別に鷹見と付き合ってる訳でもなく友達としての存在だからそこっだけは間違えないでほしい。確かに高校でも一番仲良くしてた男子と言えば鷹見だけど。

 んん、そういう身内話はそこまでにしておいて――コンビニで広島の観光雑誌でも買わなくてはならない。


「シートベルトしろよ、行くぞ」

「うん……」


 コイツじゃなかったらこの旅はもっと楽しかっただろうにな。まぁ今の内だ、明日になればまた会わなくなるのだから。




  ※  ※  ※  ※




 コンビニで停まって自分は以前にフランスでお世話になったカントリー社の観光誌を買うことにした、お値段もお手頃で何より読みやすい。因みに雨宮さんは外国担当だから、こっちには携わってない。一方で仁宮は何をしてるかというとコーヒーを見て比べていた。自分は朝ブラック派だからな? 間違った買ったのを買ったらどうしてやろうか。

 自分は一足先に観光誌を買って車に戻る。パラパラと雑に読んだら行き先が決まる。竹原市――「安芸の小京都」ねぇ、竹原市重要伝統的建造物群保存地区とか凄い長いけどそのままの風景が残ってるのかぁ。そして聖地巡礼マップ付き、このカントリー社の社員は何処まで知り尽くしているのだろうか……ちょっと気持ち悪い。別に否定する訳じゃないけど、詳しく書きすぎるのも観光誌としてどうなのかなと思ってしまう。


 仁宮が帰ってきて、私にホイっと渡してきたのはナイスブラックコーヒー、仁宮は緑茶……そうだね、緑茶似合いそうだね。苦々しくていきなり棘が出てきそうな人相だもんね。自分は早くマッ缶を飲みに行きたい。全国販売とは知らなかった自分がいるんだよ! 前回で知ったんだよ!


「羽海ちゃん……これで良かった……?」

「ああ、そうだな。ブラックで正解」

「良かった……」


 お前の笑顔も見たくない、別にお前とここに来たくて来た訳じゃないから。さて、竹原市までドライブと行きますかぁ――ちょっとどうでも良くなってるけど。

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