鵤さんの真実……
飛ばして飛ばして、サービスエリアを一回も使わなかった。一度も休憩無しに富里料金所に着いてしまった。自分がここで降りると指示したら「富里? 成田ちゃうんか?」と聞いてきたが、このと富里料金所以上に行ってしまったら成田インターチェンジに着いて成田国際空港に着くだけだ。「成田料金所があるだろう」と思って奥まで行き過ぎると、残念ながら罠に引っかかってただ遠回りするだけ――と言っても今はカーナビがあるし、間違えはしないはず……。
四〇九号線から五一号線、そして「成田山入口」の十字路を左に行けば楽に成田山に行ける――と思うだろう? 実はこれも罠、その「成田山入口」前の「成田市役所下」で左に曲がるとスムーズに成田山前まで行ける。この「成田市役所下」で曲がると成田駅に直撃するから信号で左だ。そうすると成田市の綺麗な街並みが見えてかつ、一方通行だから気遣いもせずに安心して成田山にいける。
駐車場は――探してくれ、かなりあるから。
何回も来たこともあるし、一回は高校の奴らとも来たこともあるし――千葉県民にとっては説明不要の場所だ。元旦は必ずここに来る。
「稲荷大社とはまた違う雰囲気やのぅ」
「皆、成田山って言ってますけどここは新勝寺であり、公園ですからね」
「ほぇー奥の公園に行ったら何があるんや?」
「美術館……だったかな? この大本堂で用は終わっちゃうんで分かんないですね」
「そか、ちょっと歩いてみたいのぉ」
ということで、五円を投げ入れて公園の方を歩きに行く、自分はいつも五円入れてるなぁ。
この時間帯とこの時期じゃ参拝客も誰も居ない、もう夕方だしぼちぼちと帰っていく。その中でも自分達は公園の中を歩く――
「名柄川はん、教えたるわ。ワシが誰かって――」
「……いいんですか?」
「もうええ、いずれにはバレる事やしネットでも上がってる情報でワシには逃げ場も無いわ」
「逃げ場も無い? ――あなたは一体」
「ワシは、マツシタ株式会社の元社長。鵤太郎や」
「……えーと、ごめんなさい。気迫に満ちて話しましたけど、何せ海外に居ましたし、ちょっと――」
「せやな、でもマツシタは知っとるやろ?」
「マツシタはテレビとかの商品を作ってる会社ですよね?」
「そうや――」
「でも、元社長さんがここに来てるって別におかしくないじゃないですか、それから別に隠すことでもないじゃないですか」
「それは名柄川はんが知らんことがあるからや、ワシはもう会社を辞めてもう終わっとるんや」
「えっ……」
鵤さんは、別に悪いことをしたわけではないという。だが、会社にも表があるように裏があること。社内セクハラ、闇取引、業務上の横領、他も様々週刊誌によってでっち上げられて――毎日のように電話が掛かってきて家にも帰ってもマスコミが常に張っていて、夜も眠れなかったらしい。別に週刊誌を訴えれば良かったが、これらの情報の出処は「マツシタ元会社員」、鵤さん自ら対処をしようとその元会社員の家に走ったが既に自殺、家族らは「社長がいじめてそのストレスに耐えられなくて辞めた。あなたは自殺に追い込んだ恨むべき人物」と言った。――情報もネットやまとめ、SNSとかで広がりもう全国に広がっていてどうにもならなかった。最終手段は「責任を負って辞める」となったが、それでも関西では批判の嵐、でっち上げから始まったこの出来事は未だに終わっていない。
今は車の中で生活をして、エコノミー症候群にならないようにたまにネットカフェを使って地道に生活している、自分だったらそんなの辛くて生きていけない。――銚子で一人でいた自分に話しかけたのもそういう鵤さんの社長としての見抜く能力なのだろうか。自分はこんな四面楚歌な人に会ったことはない。
「ワシは――言ったとおり逃げ場が無いんや」
「――寂しいよ、鵤さん」
「寂しいか――どちらかというより、死にたい気分や」
「……」
もう何も言えない。自分は会社なんて勤めた事もないし、別に恨まれるようなこともしたことがないから――気の毒としか。千葉の観光をして少しは気分を良くなって欲しいな。
「――ええよ、別に。大丈夫やで気を使わんくても」
「そんな、寂しいですって。あの、自分は本当に気を使った事も何もしてないですよ、これからも会いましょうよ」
「……おおきにな」
「いいですか? 自分は常に人間は平等であるべし。そう思ってる人間なんで、よっぽど道を外れた人じゃない限りは平等ですよ。それから鵤さんは何も悪くないじゃないですか」
「……優しいな、名柄川はんは」
「自分にだって、話したくないことあるのに誤解される前に話してくれた事に感謝ですよ、よく言いたくない事を言ってくれました」
「ありがとな……ありがとな……」
鵤さんは泣いてしまった。この人自身が相当なストレスを抱えて今を生きてる――世の中にはいろんな人がいるな。その信頼出来る人一人にあった鵤さんも今日は楽しかっただろうし、自分も楽しかった。――もし本当に自分が気持ち悪くなって習志野市に帰っていたらこの人はどうなっていただろうか。
「グズっ――ほな、夕飯も食べよか」
「ハイッ! 成田はうなぎが美味しいんですよ」
「食べよか――」
明日を生きる活力を鵤さんに。――自分に都合が良いだけの様な気も……。
※ ※ ※ ※
「背開きや……! 本当に背開きや!」
鰻屋に寄ってご飯が出されたけど、鵤さんは背開きに喜んでいた。――別に自分は腹開きでも背開きでも食べれれば良いんだけど、切り方だけにこんなに喜ぶ人がいるとは思わなかった。
「おー、蒸し焼きにしたうなぎも美味いなぁ!」
「――蒸し焼きが普通なんじゃないんですか?」
「関西じゃ直に焼いてその感触を味わうんや。でもこのふっくらとした感じ! 悪ぅないのぉ」
鵤さん案外グルメ――。前にも思ったけど、なんで関東と関西で周波数の違いとかスープの濃さとか、今話しをしている背開きと腹開きの違いとか……。面倒だなぁ、と思うだけなんだけど。因みに、うなぎの切り方の違いは未だに判明していないとのこと。全部仮説らしい。
でも、スーパーで見るのと違うなぁこのうなぎは。頭は切られてるけどこの先からお尻までシッカリとお重箱に入ってる。
「でも、蒸し焼きはちょっと勿体無い気もするんやけどな」
「――?」
勿体無い? 直焼きの方が美味しいのかな? でも自分はそんなことも気にせずに食べる。――しかし、値段は書いてないけど、五千円はするだろこの重箱だと……。
「あの、少しあげましょうか……?」
「んん~? 名柄川はん、遠慮してはるな? かまへんで、ワシが嬉しくてやってるんやから」
「あ、じゃあ食べます」
「そうなると遠慮が無いなぁ、名柄川はんはぁ!」
さっきまで落ち込んでた人とは思えないほど元気なんだけど一発殴ってやろうかね。一人で落ちて一人で上がってくるんだから恐ろしい。
「ワシは落ち込んでる場合じゃないんや、これから先もやっていかなきゃならんのやから」
「いやいやいや、心の中まで読まないで下さい。マジで焦りますから」
「ハハハハハッ!」
元気だなぁ。
――食べ終わって外に出て鵤さんはタバコに火を点けて一服。「一本吸うか?」って言われたけど自分は吸う事は無いから断った。これはメンソール? メンソールって言っても一杯あるんだけどね。――そして吸い終わってポイ捨て。元社長とはいえポイ捨ては駄目だろう……。
「ほな、送ろうか?」
「あ、はい――じゃあ一方通行の通りに行ってちょっと遠回りですけど――」
何度も車に乗車してすっかり慣れていた。鵤さんも運転お疲れ様です。千葉一周は疲れるかな。――意外な鵤さんの過去も知れて普通の旅じゃなくなったけど、自分の志の下でちゃんと人間として察した。それだけでも心の支えになっただろう。この帰る途中に自分は
「電話番号いいですか? いつでも掛けてきて下さい」
「ええで」
いつも通り電話番号を貰う。――そういえば、まだ雨宮さんからは連絡は来てないな。まぁ、無理に押し付けたようなものだし、自分も気にはしていなかった。自分は教えてもらった電話番号に通知を掛けて鵤さんの携帯が鳴る。
「お、掛かった。ええで切っても」
「はい、それじゃ」
自分は切った。男性の電話番号が多くなったなこのスマホ。
――習志野市までは結構まっすぐな道が多いから直ぐに着いた。自分は駅で降ろすように行った。流石に自宅までは気が引くし、鵤さんもマスコミ対策に「そうしよか」と了承してくれた。
「また、遊ぼうな。夜やけど、名柄川はんべっぴんさんなんやから変なヤツには気をつけてな」
「鵤さんも気をつけて」
「ほな、また今度」
降りて自分は手を振る。――あの人はまた何処か寝床を探して走るのだろう。今日はここらへんで寝るのだろうな。中々無いけど、駐車場ぐらいだったらどこでもあるんで何とか今日を凌いで下さい。
自分はフラフラと帰ると一通メールが
「from:鵤 ありがとう」
これだけだった、今の時代にスマホへと電子メールとは珍しいな。電子メールは高校時代にはお世話になったきりだ。鵤さんが今もガラケーなのはやっぱり社長な理由なのかな? というか、やっぱりガラケーって電池持ちもいいし、電話とメールだけだったら一番便利な道具なんだよね、そう考えるとやっぱりスマホって害悪かもしれない。――っと、家に到着。GSRちゃーん、おかえりだよー?
扉を開けて階段を登ろうとしたら親父が出てきた。
「――羽海か、夜遅いぞ」
「ああ悪い」
「悪いと思ってるんだったらもっと反省しろ。言葉に出てない」
「そうですか、それじゃ」
言うだけ言って自分は上にへと帰る。夕飯もいらなくなったしベッドにそのまま倒れる。――会社か。経営って大変なんだろうな。不祥事が一度でも起きると信頼が無くなるし、追い込まれると結局辞めることしかなくなるのだろうな。今一度考えると、鵤さんは大変な目にあっている。――どうしようも出来ないけど、なんとかもう一度会社を建てて欲しいな。
――さて、今日一日お疲れ様です。おやすみなさい。




