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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
千葉、案内編
38/51

九十九里を走る……

 道の駅に着いて、自分はドアを開けて自動販売機に寄る。自分も少し打ち明けたからか気分が良くなった。

鵤……さんだったかな。しかし、インパクトのある名字であるに関わらず、下の名前が太郎ってちょっとシュール。今時太郎さんが居るとは思わなかった。――そんな事を言うと太郎さんに失礼だな。全国の太郎さん、ごめんなさい。

 そんな事を思ってたら鵤さんが近づいてくる。


「珍しいの、マックスコーヒーやないか」

「あーマッ缶ですか。というか、関西にマッ缶あるんですか?」

「昔にはマックスコーヒー売ってた――気がしたけど、今見なくなってしもうたな。ここで見るとは思わんかったわ」

「千葉限定だと思ってた……売ってたんだ」


 自分達にとっては、マックスコーヒー……略名"マッ缶"は自動販売機でもコンビニでも見る全然珍しくない飲み物だ。激甘過ぎて子供から大人まで飲める糖尿病真っ逆さまの飲み物だ。

 ――言ってしまえばコーヒー牛乳かな?


「これ限定品なんかいな? ひやしあめみたいなもんか?」

「ひやしあめ?」

「そうそう、その首を傾げるほど分からん飲み物! 関東には売ってへんやろなぁ」


 鵤さんは自前のガラケーを自分の前にかざす。オレンジでチェック柄の缶ジュースが見えた。確かにここらへんでは見ない一品だ。

 ――まさか、今時になってガラケーとは久々に見た、このご時世でもガラケーは便利なのだろうな。


「なんて露骨なデザイン――ちょっと飲んでみたいなぁ、それ」

「こんど関西に来てみぃ、色んな自販機で見るで」


 そう言い終わった後に自販機からマッ缶を買う。「あっま!!」と唸る鵤さんの姿があった。



※ ※ ※ ※ ※ ※



 また車を走らせる鵤さんと助手席に座る自分。約束では習志野市まで送る予定だったのだが、伊勢エビとなめろうを食べる約束をしてしまったのでまた九十九里の近くを走ってる所だ。

 

 目指す所は鴨川市、ここだったら海鮮の美味しいご飯にありつけるだろうと思ったのだ。残念ながら成田市や野田市近辺にする人間はこんな下まで行かない事が多すぎる。

 だから千葉県民でも下に住む人は上に行くことは無いし上に住む人が下に行くことは中々無いと思う。これはあくまでも自分の話だが、実際に自分がこうだから多分そういうことだろう。一方で便利な市町村は何処だって言われたら――市川市、松戸市、柏市かな。この三つは東京に近いから便利で住む人が多いと思う。朝十時から出たって昼前には着く位だからだ。

 結局自分の車酔いは無くなった、楽しみが増えたからだろうか。酔わないほうが珍しいのだが、基本的に家族の運転と安全に走行してくれる車には酔わない、でもその逆の他者の運転と危険な運転をする人だと自分は一気に吐き気がくる。自分の運転じゃ酔わないんだけど、なんとも不思議な体質である。


「名柄川はん、調子は大丈夫かいな?」

「今は全然調子良いです。さっきはちょっと危なかったけど」

「良かったで……それより九十九里浜は長いの~。何メートルあるんや?」

「六十六メートルですよ、結構覚えやすいんでいつまでも頭に残ってます」

「ほえ~、千葉の人は皆どこからでも海で遊べるなぁ」

「え? ま、まぁ……そうですね」


 自分は久々に九十九里浜に来た、なんて言えない。千葉全体の事は知っているつもりだが滅多に来ない所も勿論、多々あって。他の人に指摘してもらわなかったらこんな所あったんだ。なんていう所もある。

 だから言うと、千葉の事に関しては房総側に住む人か、館山市に住む人が詳しいのかも。


「千葉は自然が多いし、ピクニックにはええんとちゃう?」

「そ、そうですねー」


 この会話を聞く限りどっちが千葉県民なのだが分からなくなってしまうな。


「あ、そろそろ有料道路なんで一気に行きますか?」

「おう、千葉広いからな。突っ走るで」


 鵤さんは右ウィンカーを点灯させて有料道路に入る。

 暫く走ると料金所が見えてくる。料金は四百円、これで一気に九十九里浜を抜けられる。一気に長生郡まで行ける千葉県の数少ない道路の一つだ。――と思っていたが


「アカン、ETC使えへんのかい。めんどくさ」


 少しずつ減速をする鵤さん。もしかして――現金取り出すの面倒な人? 自分は現金持ってたほうが楽な方なんだけど。料金所で完全に停まってサイドブレーキを引く。


「四百円な。千円やけど割ってくれへん?」


 そう言って料金所のおじさんはちょっともたつく。自分はこれいつもの光景だから気を長くしているが……


「はよ、早くワシは通りたいねん」


 鵤さんは急かしてくる。関西の人はこんなに忙しいのかねぇ。何かと文句を言う人は多いと思うけどここまでとは……。まだ出会って数十分だけど関西人らしさは満載だね。それよりなんで千葉の銚子に来てるのかもさっぱりだけど。そんでお釣り受け取って「おおきにー」なんて言ってさっきの鵤さんの苛立ちがさっぱり無くなってた。

 短気なのかマイペースなのか分からないな、この人は。


「お待たせしましたわ、いやーまさかETC使えんとは思わんくてな」

「別に自分は待ってないんで、何かまた話をして時間潰しましょうよ。この有料道路長いんで」

「分かったで、何の話がええ?」


 あ、自分が話を振るのね。大して個人の話聞き出したい訳じゃないけどこの人の出身が関西と分かっても何処の出身かを知りたいのでそれを聞く事にしよう。


「えーと、自分はバリッバリの千葉出身で育ちも千葉ですけど鵤さんは何処の出身なんですか?」

「おう、ワシはな――東京なんやで?」

「えっ? はーっ!?」

「ははっ、嘘や! 生まれは京都、育ちは大阪や。オトンとオカンはワシが産まれて直ぐに大阪移動してな。たこ焼きとか美味いもん食うて育って来たんや」

「――流石に関東一帯住んでて関西弁は出ませんよね、ちょっと焦りました」

「まぁ別に東京初って訳でも無いんやけどな」

「と、言いますと?」


 鵤さんはちょっと悩んだ顔をする。これは地雷に近い物を踏んだのかな?


「仕事や、ちょこちょこ新幹線とかで来たで」

「じゃあ今日は何をしに関東に?」

「何というか――休暇貰うてな」

「休暇? 夏の時期ですもんね。関東辺りに遊びに来るのも分かります」

「ん、まぁ――そやね。千葉は来たことないんや、この際にでもって」


 さっきから喉に何か詰まるような喋り方、怪しい。ナンパされたにも関わらずさっきまで怪しいと思わずにここまで時間が経つのもアレだけど、ちょっと疑いが掛かる。良い人そうではあるが何らかの理由があって来てるのだろう。まぁ休暇の理由は聞かないでおこう。自分なんて毎日休暇みたいなもんだから。


 九十九里浜の有料道路で長生郡へ、この有料道路は相変わらず終わりから始まりまでノッペリとした道路だから別に見るものも無い。特別見るものといったらそれは結局九十九里浜、そう九十九里浜有料道路だから。それから九十九つくも里浜じゃないからね?



 ※ ※ ※ ※ ※ ※



 鵤さんはペチャクチャと色々喋る、一回だけ質問して突っかかってたけど他は滑舌も良くずーーっと喋りっぱなし、水も何も取ってないけどアンタは大丈夫か。


「それでなー、道頓堀のたこ焼きが美味しくてなー」

「は、はぁ……」


 だんだん、鵤さんの地元話だらけになった。関西人の喋り上手、付き合い上手がよく分かる。――関西は一度だけ京都と奈良、修学旅行に行ったことはあるけど、他のところには行ったことが無いなぁ。修学旅行自体も余り良くない思い出が沢山――自分の高校時代で楽しかったのってなんだ?


「間もなく、目的地周辺です、お疲れ様でした」

「おお、着いたか」


 鵤さんの話をずっと聞いてて飽きたからこのカーナビ様の一言を聞いて安心した。美味しい伊勢海老が待ってるんだ。――鴨川か、東京から行くとしたらここの場所まで遠いし、滅多に行けるような所でも無い。鴨川シーワールド? 残念、自分はアクアワールド大洗派なんだわー。――と言いつつ水族館と言えばとなると自分はこの二択になる、自分、習志野市民としては大洗の方が圧倒的に近いんだ。


 約数年振りの鴨川市。今日はこのオッサンと楽しく遊びましょうか――意味深じゃない方で。

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