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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
千葉、案内編
37/51

銚子の出会いにて……

 自分は何故か犬吠埼に、長い旅……という訳でも無かったのだがハッキリ言って大した感動も無くそのまま日本に帰国してしまったからだ。なんか企画した自分がアホらしくなってしまった。

 右左も分からずにフランスに行き、雨宮一道という存在にひたすら抱きついて日を通りすぎてしまった。なんとかなるだろうが確かになんとかなったが、それゆえに満足ではないのだ。もっと練ってから行くべき……はぁーー。

 もう数日は経つのだがその後悔がずっと続いている。時差ボケというのも治らないし、駄目尽くし。パチンコで稼いだ三十万は使い切れず未だにそのままである。……これ、元々フランスで使い切る予定だったのに。


「あぁーー!! 畜生ーー!!」


 うまくいかないことに腹が立つ。平日の昼間だから誰も居ないから思いっきり叫んでしまった。いっその事この犬吠埼から飛び降りてやる!早速靴を脱いで……っていやいや本当にそれは止めよう。


「…………」


 柵に肘杖を付いてまた海を見る。誰か来ねぇかな、一発殴ってくんね? 自分の気持ちがむしゃくちゃだった。……どうにもならないからなぎさ屋に寄って牛乳ソフトでも頂こう。



          ※  ※  ※  ※



 今の季節にはお似合いのソフトクリーム、プラスチックのスプーンなんていらない、自分はそのままガッツくのが好き。口全体が牛乳の甘みで満たされる。ガツガツとソフトクリームを食べてると隣から話しかけられる。


「今一人なん?」

「ん? 誰?」


 身長は私より大きめだろうか? 顔はちょっとソース顔の男性が話しかけてきた。


「ワシも今一人やねん、どっか行かへん?」

「関西弁……まぁ良いわ、何処行く」

「ホンマに? 九十九里ええか?」


 別に断れば良かったのだが何か好感が持てたし自分もむしゃくしゃしててGSR400で来てない、そうわざわざ銚子電鉄で来てたから、問題は無かった。


「九十九里かぁ……行こ」

「ワシの車に乗りや」


 自分はアイスクリームをそのまま持って店を出る。駐車場で指さされたのはベンツだった。しかも古いのじゃなくて新しいエンブレムが付いたやつ、無理して買ったのかなぁ。


「お嬢さん、どうぞ」


 助手席のドアを開けてくれた。「どうもご親切に」一言言ってフカフカとしたシートにお尻を乗せる。……車って今までシートが硬い教習車とかバイクしか乗ったことが無いからこんなにフカフカなシートは初めてだ。案外綺麗に使っているから自分はアイスクリームのコーンをこぼさずにサクサクと急いで食べる。もっと馬鹿馬鹿しく乗ってるかと思った。

 その人も運転席に乗ってエンジンを掛ける。


「ほな、行きましょか」

「出て左ね」


 見ず知らずの者の車に勝手に乗って九十九里浜へと行く。


「お嬢さんは何であないな場所に一人」

「ちょっと……立て込んでて……」

「そうなんか、スッキリしたんか?」

「いいや、全然」


 ナンパされたにも関わらず自分は事情を打ち明ける、意外と喋りやすいんだな。自分はいつも話をふる側だからね。


「あ、そういえば聞いてなかった。名前、自分は名柄川羽海」

「お、スマンの。ワシは鵤太郎いかるがたろうや」

「イカルガ……? 珍しい」

「あんたの名前もやないか」


「…………」


 会話が途切れてしまった。名前を聞く以上にもう聞くことがない。そもそも自分がどうして乗っているのかも分からなくなってきた。あれ、あれ、自分どうしたんだっけ?


「どないした? 名柄川はん、トイレかいな?」

「い、いや、どうして自分に話しかけたのかなーって」

「ワシ、ボーッとしてる人見てるとその人に何かしたくなるねん、別にイヤラシイ事しないから安心してな」

「ふぅ……安心した。っていや、そうじゃなくて」


 イヤに自分はモタモタする。隣のおっさんは誰なんだ? 自分は一体どうすれば……。

 今、結構ヤバい状態なんじゃないですか? 羽海さん。極度の緊張状態になる。緊張の糸が伸びすぎて千切れんばかりに。そして気持ち悪い。


「名柄川はん!? ほ、ホンマに大丈夫かいな?」

「う、うう……ちょっとマズイかも……?」

「ちょ、ちょいと停まるわ。落ち着いてからまた行こか。な?」


 ゆっくりと車が停まる。そういや自分は他車運転恐怖症だった。他の人が運転する車とか乗ると全部危なく見えて駄目なんだ。自分はだいぶ参ってた。うーん、勢いで多分こんな事になったのだろうけどこれは自分の責任であろうな。


「あのー鵤さん? ちょっと申し訳ないですけどここまでで良いですか? 気分悪くなっちゃって」

「おぅん、仕方ないな。でもここで降りると何にも無いと思うで。家まで送ったるで」

「いやいや、ここまで遠いんで大丈夫です」


 自分は遠慮するが、このオッサンは「ええからええから」と車を走らせる。とりあえず、自分は車から降りたいんだけど、ウップ……更に気分が悪くなる。


「名柄川はん大丈夫かいなって。ええーと、道の駅は何処かいな」

「ううーん、ここからだと……右曲がって」

「ナビ設定してくれへんか? その後シート倒して横になってええから」

「ありがとうございます……」


 自分は真ん中に鎮座している道に詳しい神様カーナビに近くの道の駅の名前を入れる。そして遠慮せずにシートを横に倒す。


「そういえば、千葉県の名産ってなんや?」

「……落花生ですかねー」

「他は何があるん?」

「うっ……」


 今一度そう言われると凄い言い難い。何故かって言われると千葉県民でも落花生以外に答えられる物がないからだ。検索しても落花生以外に出てくるものが無い。あっても銚子のぬれ煎餅位だろうか。しかし千葉全体の名産品となると言いがたい。


「二十世紀梨とかですかね……」

「え? それ鳥取ちゃうんか?」

「元は松戸市ですよ、それを鳥取に送ったのが鳥取の名産になったらしいっすね。因みに千葉県が梨の生産一位ですよ」

「へー意外やなぁ! 他には?」


 とりあえず、千葉県民として千葉の名物を捻り出す。それほど落花生のイメージがデカい。なんたって千葉には何も無いからね。


「確か、伊勢エビの水揚げ量は千葉多かったはず。日本一だったかな?」

「嘘や! ワシは関西育ちやけど三重県が日本一やろ! 伊勢って付くほどなんやから!」

「いや、事実ですよ。そもそも伊勢の名前は品種名であってブランドの名前じゃないんですわ。だから千葉で取れても伊勢エビ、房州産伊勢エビだったかな?」

「ほんなら、後で海辺側で伊勢エビ食べれる所連れてってや、ワシ払うから」


 マジ!? 話して良かった。実に気分が良い!


「そんで、名物は何があるんや」


 自分は鵤さんの方向を向いていたがクルッと外側に向く。名物……? 男の人だからガッツリと食べたいわけだよな。関西の人って言ってたよな。たこ焼きとか串かつとかだろうけど。千葉といったら。千葉といったら。ラーメン――とかって全然名物じゃない! 小物感ある料理だけど仕方ない。アレにしよう


「なめろうって知ってます?」

「なめろう? ってなに?」

「うーんと、いわしの小骨とかを取って練った物。ちょっと説明しづらいものかなぁ」

「それも色んな所で食べれるんかいな?」

「多分料理屋で食べれるかと」

「ほいじゃ伊勢エビと一緒に食べるか」

「はいっ」


 嬉しい。僥倖。ますます気分が良い。


「間もなく、目的付近です」


 もう直ぐ道の駅に着く。自分はナビの声を聞いてシートを元の角度に戻す。

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