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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
ヨーロッパ、フランス編
34/51

フランス観光…… その3

 ピピピ……ピピピ……ピピピ……


「はいはい」


 カチッとアラームを止める。もう既に自分は起きていた、電気も点けっぱなしで寝てた。


「さーてっ! どうしましょうか!」


 もう無理矢理にテンションを上げるしかなかった。……所で、自分は何かを忘れてる気がしてた。この違和感はフランスに来てからずっと感じてた。えーっと、何だったっけ……。

 スマートフォンの電源を入れたり切ったり、たまに触って偶然開いたのがメールボックス。サッサッとやってると「バイクレンタル」とか見た事が無いメールを見た。


「アッ!? 忘れてた!」


 そうだった、日本でフランスでのバイクレンタルをしてたんだった! 一日目が壮大だったからすっかり忘れていた。場所を調べたい所だが、電波が国内のみだからネットが開けない。部屋の周りを見る。wi-fiという文字が見えたが他の文字がフランス語でちょっと読み取れない。これは参った。

 スリッパをペタペタ、グルグルと部屋を回りながら誰か、誰かに助けを求められないかと考える。

――いる、いました、このホテル内に。


 電話の前に立って「Front」と書かれたボタンを押して応答を待つ。暫く待つとフランス語で


「Il est patronné?」(御用ですか?)

「アー、Excuse me Press Mr.Ohara」(すみません、大原さんお願いします)

「Mr.Ohara? Ok Wait」(大原さん? オッケー 待って)

「Press Press!」(お願い!マジで)


 受話器を持って暫く待つ……


――コンコン


 自分の体がビクッとなる。誰か来た――ィヤバい。自分は必要以上にフランス語も英語も喋れない。


――コンコン


 誰か来てるのは分かってる。けど駄目、出れない! どうしても出れないんだ。しかも受話器も持ってそのままドアの方向を見て待機してる自分はシュール以上に他でも無い。


――コンコ……コンコンコン、コンコンコン、コンコンコンコンコンコンコン


 更に自分の体がビクッとなる、受話器も耳から離して胸から下の所で手を止める。何故に三三七拍子?

 これは怖すぎる。


「誰なんですか! 止めて下さい!」

「ウカイサーン」

「ヒッ……」


 自分の名前を呼ばれる。あれ、もしかして……


「――オオハラさん?」

「ハイ、私ですよ。開けて下さい」


 自分は受話器を元に戻して、恐る恐る扉に近づく、何故恐る恐るかというとさっきの名前の呼び方と言い三三七拍子を聞いて腰が引いたのだ。そしてプルプルとしてる手で扉を開ける。


「ああ、オオハラさん」


 普通に立っていた。この姿を見ると自分は一体何にビビっていたのかもスッポ抜けるくらいに。


「誰なんですか! 止めて下さい! って」

「そんな、言い返さないで下さい……それからどうして三三七拍子?」

「中々出ないので馴染みのある音で、安心させようかと」

「逆に不安になりますよ」

「それについては謝罪します。それで御用は?」

「ああ、あのwi-fi使いたいんですけど……」


※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから色々とオオハラさんに聞いてwi-fiで通信が出来るようになった。ちょっと感動を覚えた。そしてバイクレンタルショップの位置を見つけ、今準備をして出た所だ。ホテルの鍵もオオハラさんに渡して帰る時間も伝えたので「その時間にフロントにいます」との事だ。これで安心だ。


 チョコチョコとフランスの街を歩く。やっぱり街に一体感がある。そんなに褒め称えてると日本はどうなんだ? って話になるかもしれないが自分は日本も好きだ。フランスは……これから好きになる。うん。

 そうこう町並みを見てる内に見えてきた。バイクショップだ。


「Excuse me」


 背中を向いてる店員に一言掛ける。


「はい?」

「あ、日本人ですか? あのぅ一日遅れてしまったんですけど、バイクを受け取りに」

「ああはい、お待ちしておりました。奥にどうぞ」


 奥に案内され、自分は椅子に座る。店員から書類とペンを渡される。「これに書いて下さい」店員は一言してどっかに行ってしまう。どれも日本語で書いてあってちょっと安心した。ここまでフランス語で書いてあると流石に分からなくてペンが走らなかったかもしれない。

 すらすら書いてる内にエンジンの始動音が聞こえた。恐らく最終チェックをしてるのかもしれない。自分も書類を書き終わった。店員がスタスタと歩いてきて


「書き終わりましたか? 他に気になることとかありました?」

「えーと、ヘルメットとかもレンタル出来ますか?」

「出来ますよ、用意しますので今回乗るバイクの確認でもして下さい」

「分かりました」


 店員は奥へとまた行ってしまった。自分は乗るバイクの確認をする。外に出るといたいた、これがINAZUMAの250cc……タンクにはちゃんとSのマーク、リアカウルにはINAZUMAのステッカー。久々に出会ったな、INAZUMAよ。


「お待たせしました。ヘルメットです」

「ありがとうございます」


 ヘルメットを手渡される。うーん、安物、仕方ないか。自分はギュッと頭に被せる、サイズもピッタリ、悪くなかった。


「あと、これ」


 バイクの鍵も手渡されて自分はその鍵を鍵穴に刺す、ハンドルロックを外して次にONに回す。

 これでセルスタートすれば……。


 ヴルルルルル……


「ウカイさん、大丈夫ですか?」

「ええ! 全然オッケーです!」

「それでは安全運転で、よい旅を!」


 左右を確認して出発する。行くぞ! INAZUMA!


※ ※ ※ ※ ※ ※


――午前十時

 カントリー社の雑誌を見た所、どうやら凱旋門というのは登れるらしい。ということでバイクを適当に置いて登ることにした。前日はエッフェル塔を登って次は凱旋門を登る。自分は上に登る事が多いな。


――うおーい! 螺旋階段狭いな! 人一人分の狭さで追い越しが出来ない。


 長い螺旋階段を登り切ると、またパリという街を一望出来た。さっきバイクで通ってきたシャンゼリゼ通りをここから見ると、こんな長い所を短い時間でよく通ったものだ。そしてグルっと後ろを見るとエッフェル塔だ。……って言ってもかなり遠くて肉眼だとボヤける。

 さて、降りるか。エッフェル塔よりは高くは無いからどうも物足りない。やっぱり芸術というのは理解出来ないのかもしれない。それと暑い。


※ ※ ※ ※ ※ ※


 カフェで一服、カフェだけでも大量にあるしそれぞれの店に個性があるから選ぶのに苦労する。ただでさえフランスは暑いというのに、カフェを選ぶのにモタモタすると暑さで体力がジリジリと減らされる。


「Merci café américain et un sandwich」(コーヒーとサンドイッチお願いします)

「Oui」


 自分はまだ朝食を取ってなかった。もう十時になるのに。優雅に過ごすというか、夕雅だな、これじゃ。


「Pour attendre」(お待たせしました)

「merci」(ありがとう)


 来たら急いで食べる! 明日帰国なのだから! 今日はバイクに乗って楽しめ! とにかく楽しめ!

 ……まぁ、カチャカチャと音立てたらマナー違反だから丁重に食べる。優雅が大切。


 だいぶ長い食事だったか優雅に過ごせた。自分は分かってるぞ、レシートが既に置かれてるからここのテーブルにお金をぴったり置いて席を立てば後はちゃんと後始末をしてくれる。そしてここでも優雅に


「merci」


 これを言うだけで印象がガラッと変わる。さて、バイクの元に戻ろう。


「Bonjour Madame」

「は?」


 突然知らない男性に話しかけられた。なんだお前は?これは自分はさっきのカフェでマズい事したか?


「ぼ、ぼんじゅーるむっしゅー」


 取り敢えず、挨拶をする。この動作をすることによって印象がガラッと変わる……はずなのだ。


「Vous feriez mignon. Numéro de téléphone? Heck est en train de faire en ligne?」

「……」


 完全に分からない。今までに聞いた事無い言葉を突然耳にする。


「Je japonais」

「japonais! ? Vous bon, ne va pas à mon café préféré? Heck est en train de faire en ligne?」


 諦めてくれない……!


「Heck est en train de faire en ligne?」

「Heck est en train de faire en ligne?」(てか、ラインやってる?)


 こいつひたすらこの言葉しか呟いてないけどなんて言ってるのかが分からない自分にとって何なのかが……。


「えー……I, if you do not go」(自分、行かないと)


 手を振ってバイクの元に行く。さようならー


「Attendez!」(待ってよ)


 はー、どうして自分はこういう事になるんだか。前回にもこうやって面倒な事が起きた気がする。自分はスマホで翻訳アプリを起動して言いたい事を打つ。かれこれ数十分はこの変人と話してる。この問題の打開策は……クラウチングスタートの形を取る。


「Il est d'aller pas d'abord, de boire!」(行かないとマズいんで!)


 また走ってしまった。もうこれしかないんだった、以前の経験が蘇る。流石に追いかけては来ないだろうと思ったが、残念ながらそうは行かずあの人も走ってきた。


「Attendez!」(待ってよ)


 しかし歩幅が長いからか、流石に追いつかれそうだ。ヤバい……流石フランス国内の人。

 自分はとにかくジグザグにフランスの細かい道を走る。体力に自身は無いけどとにかく進むしか無かった。本当は誰かに助けを呼ぶ必要があるが、ここはフランスだ。警察とかに頼っても何か色々自分が分からない言葉でかつ難しい事をされそうなので、やっぱり走るしかなかった。


「何で自分はフランスまで来て走ってるんだよ!」


 後ろを見つつ走る。――うん、あちらさんは見失ったか。そんなにしつこくなくて良かった。

 それにしてもここは何処だろう――かなり細い道を通って来たからここが何通りなのか分からなかった。「しまったな」困り顔をして周りをみる。


 ――いや、日本じゃ中々見れない光景で、自分にとって……いや、知ってる人にとっては凄い嬉しい場所に近かった。各バイクメーカーが一列に並んで店を構えてる通りだった。


「凄いな、皆ライバルメーカー同士なのに仲良く並んでる」


 自分は列に並んだバイクを一台ずつ見る、大型から中型まで綺麗に並んでる。

 素晴らしいな、良い光景が見れた。


――正午

 さて、とエッフェル塔を前にしてそこから凱旋門に帰ってきた。この散々な目に合わなかったらあのバイク通りには会わなかっただろう。ありがとう、ナンパ男。……なのか?

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