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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
ヨーロッパ、フランス編
31/51

突入……

――時計時間 午後七時

 カランカランと缶の倒れる音がして目覚めた。自分が飲んだビール缶が倒れたようだ。アテンダントさんも回収しに来てくれなかったみたいだ……。


 自分はシートを上げて窓を見る、相変わらず雲と平行しながら移動してるようだがそれを確認出来る位に明るかった。とりあえず時計を見ると午後7時だが、勿論これは日本の時間だしこんなに明るい筈が無い。フランスの現地時間が分からないがとりあえず、朝であろう。まぁ飛行機の乗り継ぎが無いだけマシ――かな。


 雨宮さんも起きたのかアイマスクを外して自分に挨拶をする。


「お早うございます、名柄川さん……って随分ビール飲んでますね」

「まぁ、これで寝れるかなと」

「せっかくの旅ですし、ゆっくりしても良いですよね、私は仕事上ちょっと……」


 そういえば、雨宮さんは仕事でフランスに行くんだったな。自分はただの観光、しかも平日の昼間から。


「そういえば、気になったんで聞きたい事があるんですけど、雨宮さんの仕事内容ってなんですか?」


 雨宮さんは一度考えて――喋り出す。


「これからの内容について関わるので多くは言えませんけど」

「はい」


 カバンの中をガサゴソと何かを取り出す。

 取り出されたものは雑誌だった。


「カントリー 海外版?」

「ええ、実際に観光地を訪れて、それを記事に書くんです。結構大変な仕事ですよ」


 自分はパラパラと雑誌を読む。


「あ、そこですよ。私が担当している記事は」

「ほぅー」

「まぁこうして記事を書き上げて皆様に手に取ってもらうんですよ」


 興味津々だった。この歳になってから雑誌とか本を読む週間が無くなったからこうして文字を目で追うのが楽しかった。今呼んでいるこの雑誌はフランスに関しての情報ではなく、ヨーロッパ全体のまとめ情報だが、テレビとかネットとかで見る情報じゃないから斬新に感じた。


 自分はパタンと閉じて


「雑誌だけど面白かったです。新鮮な気持ちになりました」

「そう喜んでもらえると光栄です。もし日本に帰ったら書店でお買い求めください。」


 貰えないのか……ちぇー。


「ピーン……ピーン……」


 そんな音が機内に響いた。


「当機にお乗られのお客様、当機は間もなくフランスのシャルル・ド・ゴール空港に着陸します。当機はこれから暫く揺れが続きますのでシートベルトをお締めください。」


 もう着くのか。


「もう着くんですね。長かったようで短かったようで」

「そうですね、名柄川さんともお別れですね」

「雨宮さんとはもう一度会いそうな気もするんですよね」


 雨宮さんはくすくすと笑って


「まぁフランス内ですから」


 飛行機はドンドンと下がって着陸しそうだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※


――フランス時間正午

 飛行機を降りて順路を辿る、右も左も分からない所を歩く、空港の案内の日本語を頼りに荷物受け取り場に着く。

 とりあえず、雨宮さんとはまだ一緒だ。幾ら取材とはいえキャリアケースは持ち歩くようだ。


「近くのホテルを事前に予約してるんで、暫くそこを拠点にするんですよ」

「あ、ホテル……」


 自分はすっかり忘れてた。ホテル予約なんてしてない…


「あの――あの、ホテルって幾らぐらいですか」

「えっと、平均的には日本円で――一四〇〇〇円くらいですかね」

「良かった――自分、予約してなくて」

「事前に予約しとかないと後で大変ですよ、確か……」


 カバンから紙を取り出してピラピラと捲る


「ありました、このホテルがオススメですよ」


 流石海外の情報を知っている。一泊100ユーロとのこと。――えーと、1ユーロ幾らだ?


「1ユーロって幾らですかね?」

「知らない事多いみたいで」


 雨宮さんは笑う。


「1ユーロ一三〇円です。このホテルは一三〇〇〇円くらいです。ただ……1年前の情報なのでちょっと違うかもしれないので注意してください。」

「色々とありがとうございます」


 自分はペコペコとお辞儀をする。恥ずかしい話だ。


 自分の目立った色のキャリアケースが来て、それを持ち上げる。やっぱりオレンジは目立つ。雨宮さんも自分のが見つかったらしくヒョイっと持ち上げてこっちに向かってくる。


「偶に荷物見つからない事多いんですよね。今日は良かったです」

「そんな事あるんですか」

「私がイギリスから日本に帰っていった時に私の荷物がロシアに行ったりとか……」


 ひええ、国から国って大変。


 色々手続きを経て外に出る。――この空気の匂いは嗅いだことが無い。新鮮だな。


「とりあえず、名柄川さん。右も左も分からないみたいなのでタクシーで都心まで向かってみますか?」

「あ、はい。何から何まで本当に……」


 優しすぎるよ、雨宮さん。とりあえず、タクシーを拾う。他の人も随分適当なタクシー――っていうかTAXIって表示が無いのもタクシー?自分もそれに乗ろうとする。


「名柄川さん! それはダメです!」


そう言われてビクンっとなる


「ええ? これだって……」

「日本と違って非公認のタクシーもあるんです、ちゃんと車の上にタクシーって表示がある車を選びましょう」


 なんだそりゃ、非公認のタクシーってなんだよ。

 とりあえず、雨宮さんの言うとおり公認のタクシーに乗る――筈が、ドアが開かない。


「名柄川さん、ドアは自分で開けるものです」


 雨宮さんがガチャっとドアを開ける。――如何に日本の文化が進んでるのかが分かる。


「Merci à la rue place Joffre」(ジョフル広場までお願いします)

「oui」(はい)


 自分は何処に連れて行かれるのかも分からずタクシーは発進する。


「これからパリで一番有名な所に連れて行きます」

「一番有名?」


「elle japonaise? Je mignon」(彼女日本人かい?可愛いね)

「J'enseigne diverses」(色々教えてるんですよ)


 サッパリ分からないけど、褒めてるらしい。とりあえず、このタクシー内でフランス語の本をペラペラと捲って少しは覚えないと。


「ah-You know you were English?」(英語だったら分かるかい?)

「ああ、えーと――You can see if a little」(少しなら…分かります…)

「It is because the leads may use English」(通じるから使っていくと良いよ)

「おお、Thank you」


 ユーズだから使えるって事か。オッケーオッケー。


 とりあえず、一行はジョフル広場という所へ行くみたいだ。風景、人、空気と何から何まで違う。自分はバイクを使っての移動が多くなると思うが大丈夫だろうか。計画していた事と違いすぎてちょっと不安になる。


 窓に写る自分の顔は不安そうな顔で…もう日本に帰りたいって顔をしていた。


「名柄川さん」


 自分はその顔のまま振り向いた。

「人は未開の地に行けば不安になりますけど、慣れれば国が違っても人は皆一緒ってわかりますよ」

「雨宮さん……」


 ちょっと泣きそうだった。ただ隣同士なだけだったのにこんなに優しくしてくれる人が居て良かった。もし雨宮さんに出会っていなかったら、本当に分からずじまいで終わってしまうところだったのだ。


「一応、雑誌取材者の一人として、有名な場所一つは紹介して、それからそのホテルまで行きましょう」

「分かりました――最後までお願いします」


 車が止まって運転手がサイドブレーキを引く


「Je suis arrivé」(着きましたよ)

「merci」(ありがとう)


 雨宮さんはお金を置いて外に出る。自分も続いて外に出た。自分はキョロキョロと周りを見ると奥の方にデカい塔――そうエッフェル塔があったのだ。


「うわぁ!」


 そう、これも自分が見たかった物の一つ。エッフェル塔だ。


「如何ですか? 本物は」

「いやぁ凄いですね!」

「じゃあもっと近くで見てみましょうか」


 自分達はエッフェル塔に向かって歩き出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※


 エッフェル塔の歴史は日本の東京タワーよりも長い。一八八九年に建造が完成し、この建造年は日本ではまだ明治時代である。尚且つ驚きなのが、一人も死者が出ず二年で建造が完了した事だ。当時としてもかなり異端な存在だったのでフランスの様々な芸術家達も賛否両論。

 そして一人の反対派はエッフェル塔一回のレストランが好みで、いつも通っていた理由は「エッフェル塔を見なくて済む」という理由だった。そして「エッフェル塔の嫌いな奴は、エッフェル塔に行け」ということわざが出来たようだ。エッフェル塔の最上階からはパリを一望出来るので、機会があったら行ってみては如何だろうか。


 昼間に見るフランスの全貌は綺麗だった。何かこう――街全体で一体感がある感じで、どこもかしこも

ワイワイとやっているというのが分かる。そしてセーヌ川を見ると、うーん……自分の頭の中では利根川って感じしか出てこなかった。いやフランスではあるのだが、今見てる光景では明らかに利根川……っぽいのだ。ひょっとしたら自分は今日色々な事がありすぎて疲れてるのかもしれない。


「名柄川さんどうですか?」

「ああー利根川……」


 ついうっかり声に出してしまった。自分は訂正をする


「あ、ごめんなさい。ついセーヌ川が利根川に見えたもんで」

「利根川と違ってセーヌ川は街の真ん中を渡っていますよ、名柄川さん」

「こんな大きな川が街を……」

「川の全長は多分利根川の倍ですよ」


 ただでさえ全長の長い利根川を超えるとは…日本というのは恐れるに足らん存在なのかもしれない。利根川の敗北也。



――フランス時間午後一時

 なんだかんだ言って一時間以上も見てしまった。

 雨宮さんにこんなあたしに付き合って時間は大丈夫なのか?と聞いてみたら


「今日は一日自由時間みたいなものです」


 と、いうことなので一日目は一緒に付き合ってもらえるそうだ。というより、あたしが何を仕出かすか分からないから渋々付き合ってるみたいな状態だが……。


 一応、雨宮さんに紹介してもらったホテルで泊まる予約をして荷物を置く。

 中々に綺麗な場所だった。流石、取材に来ただけ下調べかつ情報は完璧だ。


 自分は整理をして外に出た。

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