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再再再度……

――午後五時

 もう四日目、そしてこの日が佐藤の研修期間が終わる日でもあった。自分はいつものように三時にタイムカードを押してカウンターの裏に居た。

 後から言われたのだが四日分の賃金は出すと言われてラッキーと思った所だ。そりゃ働きましたもの……。さて、来たか。


「おはようございます!」

「うい、おはよう。さあ着替えてきな」


 いつもの時間通り、さぁ仕上げか。


 自分は観光雑誌を手に取ってカウンターで見ていた。この時期に綺麗な場所でも見つけて旅に出掛けたかった。佐藤は棚整理…ってまぁ見るだけだが。佐藤が戻ってきて


「お、どこかお出掛けですか?」

「まぁね。日帰りで行ける範囲内で」


 ピラッと捲る。千葉の観光マップか。捲って行くとアンデルセン公園の記事が見えた。


「わぁアンデルセン公園だ。懐かしい」

「アンデルセン公園か――六年前だなぁ行ったの」


 やっぱり千葉県民はアンデルセン公園には一回は行くものだな。市川とか印西市民もアンデルセン公園だろうけど野田や柏市民は清水公園に行ってしまうのだろうか。清水公園も清水公園で楽しい場所ではあるがな。


「昔、見ず知らずの人に胸が小さいと言って怒らせてしまった事があったんですね~」

「ほう――」

「それでお母さんとその人が大喧嘩して最後にお詫びとしてその方からアイスを貰った記憶が」

「ふーん、優しい人がいるもんだな、それで」

「その方、友達と帰ったみたいで後は何も」


 何かがフラッシュバックして冷や汗が出る


「お、おう――良い思い出なのか悪い思い出なのか分からんなそりゃ」


 自分は思い出してしまった、あの時の子供なのか――佐藤、お前が。


「あれ? 名柄川さん? 汗が凄いですね」

「いや、ちょっと……暑いな」

「そうですか?」


 自分は高校生の時はつるぺたで氷で滑らせれば摩擦抵抗無しでどこまでも滑って行きそうな胸だったからな……それで喧嘩があったもんだ。三年生からは膨らんだが現状でもこの大きさだから……これ以上は育ちは無いと思われる。以上、自分レポート。


「とりあえず、アンデルセン公園には行かないかなぁ。一人で行く所ではないし」

「そうですね」


 自分は観光雑誌を棚にしまった。家で探すことにしよう。ここでは計画は立てられない。


※ ※ ※ ※ ※ ※


 カウンターに戻って佐藤に問う


「もう研修期間が終わるし自分もお役御免だけど何か聞きたい事ある?」

「えーと……沢山教えてもらったし……もう無いです」


 まぁ、いきなり聞いて質問なんて直ぐに出るものじゃないよな。


「そうか」

「あ、一つだけ、名柄川さんはこの店終わった後どこの店舗へ?」


「……」


 逆に質問されてしまった。そうだったな、自分がヘルプで入っただけで実質自分は無職なのを言ってなかったな、結構駅から近くだしどう言おうか悩む――


「名柄川さん?」


 ここはハッキリと言ってしまおう。


「ああ、まさに"お役御免"なんだよな」

「――え?」

「まぁここ辞めるって事だ、お前が来るまでは続くことになってたんだがまぁこの通り夕方は守られたからね」

「それじゃ……何処にも?」

「まぁね」


 すまないな、佐藤…自分なりの表現をした訳だがこうしか言えない。


「そうなんですか――あの、最後までよろしくお願いします。」

「はいよ」


 さて、最後の出勤となりましたとさ。帰りにラーメン奢るか。



――午後九時

 タイムカードを押す。たったの4日分、果たしてタイムカードは必要だったのかも分からない。そしてNo006は永久欠番になるのだろうな。


「おはようございます、名柄川さん」


 深夜組が入ってきた。


「今日で終わりだってな。お疲れ様。一週間でまた無職に戻んのか?」

「え? 名柄川さんって」


 はっー! ――これはマズいなぁ


「おうおうお疲れお疲れ……」


 ササッと事務所を出た。あの野郎パッと口にしやがって。続いて佐藤が出てくる。


「置いて行くなんて酷いッスよ」

「ああいや悪い、それより今日はラーメン食いに行こう。な? な?」

「あ、良いんですか? それじゃお言葉に甘えて」


佐藤を後ろに乗せ走りだした。結構急ぎめに。


 60km……100km……


 停まっては急発進で一気に40kmまで持っては一般道で100km出す…。何を焦ってるのか分からないが今日はスピードを出すことが多い。


「名柄川さん飛ばし過ぎです!」


 そんな声も聞こえたが、気にもせずにブンブンと飛ばしてる。――そろそろ目的地に着くのだがね。

 左にウィンカーを出して駐輪場に止まる、400ccのバイクが自転車に混じって停まってるとシュール。

 一方佐藤は柱に手を付けて何かを吐き出そうとしていた。そんなんじゃ高速道路も乗れないぞ……。

「佐藤……」

「大丈夫です……大丈夫……ヴォォォ……」

「本当に大丈夫か!?」


 人間の声じゃないのが出たぞ!佐藤の背中を撫でる、そりゃもう火が出そうな勢いで。


「ああ……落ち着きました。」

 

 良かった。ここで吐かれたらここラーメン屋じゃなくて病院に行く所だった。


「帰りは――ゆっくり行こうな」


 自分達は店内に入った。自分のお気に入りの店だ。家から遠いからあまり来ないが、ラーメン以外にも唐揚げ定食とかがあってこれも絶品、だけどメインはラーメン。テーブル席に案内された。


「お決まりでしたらお声掛けて下さい」


 店員はお冷を置いてスタスタと厨房に戻る。メニューを見る。ここの鶏白湯とりぱいたんをベースにしたラーメンが多い。というかそれしかない。他には二郎系のラーメンがあるがこれはとんこつベースだ。


「俺大丈夫ッスよ」


 佐藤は決まったようだ、自分もメニュー表を置いて店員を呼ぶ


「ご注文はお決まりですか?」

「自分は鶏白湯とりぱいたんラーメンとレバニラ単品で」

「俺は二郎ラーメンとチャーハンと…ギョーザお願いします」

「かしこまりました」


結構食べるんだな……。


「結構食べるんだな」

「すみませんね」

「まぁ今が時期だ」


 ボーっとスマートフォンを見る。SNSを確認してるわけだが佐藤も同じくシャッシャッと何かを見ていた。


「名柄川さんこんなバイクはどうですか」


 と聞いてきたので「どれどれ」と見ると写っていたのはアメリカンバイク…これはVツインマグナか?


「アメリカンバイクが良いのか?」

「ええ、これも良いなぁって思って」


 アメリカンバイクかぁ――確かに乗り降りも楽だし引き起こす時も案外楽だ、だけど


「高速道路乗った時……寒いぞ?」

「あー……でもカッコよくないですか?」

「カッコよさを重視して男を見せるバイクだからな。だから全てを捨ててないと乗れないぞ」

「ううー……」


 まぁネイキッドでもオールドルックでも寒いんだけどな…。


 自分はレバニラをがっつく、この店のレバニラは美味しい。他にも中華料理はいっぱいあるが中でもレバニラが一番美味しい。佐藤が頼んだチャーハンも前に来た時に食べたがこれも美味しい。

 だけど、ラーメンがメイン。

 勿論、ギョーザもシップの匂いに似てる味がするお茶……そういえば、食べものじゃ無いのにこういう表現ってどうなのだろうか、よく「葉っぱの味がする」とか「鉄の味」とか言うが。

 うーん、舌と臭覚は同体なのか?


 自分達が頼んだラーメンが来た。自分はいつものラーメン。佐藤は二郎系のラーメンだ。

 二郎系のラーメンってまぁ…どこの店に行っても必ず太麺で、もやしが入ってて、にんにくが乗って、絶対に積まれたもやしの横に肉が添えてあるよな。でも味が違う。勿論スープが違うわけだが、これだけの違いで美味しい不味いが変わるだけだから不思議だ。

 因みに自分はこの店定番のラーメン。定番安定。


※ ※ ※ ※ ※ ※


――午後十時

 特に佐藤と喋る事無く勘定を済まして外に出てしまった。本当にこれが最後だと言うのに。


「ご馳走様です」

「どうも」


 うーむ、辛気臭い。もっと、言う言葉が無いのかね、佐藤ももっと何か喋れば良いのに。

 自分はシートにギュッと腰を降ろす。


「乗りな」

「はい」


 佐藤も腰を降ろす。バイクを走らせる。

 こう、考えてみると自分がただ単に喋らないだけなのかもしれない。

 上下の関係ができるとこういう感じなのかね…上司が喋り部下が応える。

 部下が喋ると上司は応えてくれない、いつからか日本はそうなってしまったのだろうか。

 上司のご機嫌取りなんざ趣味じゃない。では早速自分は喋る事にしよう。


「佐藤、三日くらいバイクに乗り続けてるが大丈夫か?」

「スピードを急に出されるとビビりますけど大丈夫ッスよ」

「そうか、いつか免許取ったら一緒に何処か行こうか」

「はい!」

「頑張れよ」


 自分はスピードを上げた。



――午後十時半

佐藤の家に着いた。最後だな。


「着いたぞ。――明日から会わなくなるな」

「そうですね。お疲れ様です」

「うん、さようなら」


 ヘルメットのシールドを閉めて佐藤の家を後にした。

 今思えば、あの言葉も嘘では無かったな。


「――仲間が出来る」か。


 暫く会ってない友人も沢山居る。遠くの友人も居れば、麻衣という存在も居る。

 自分は特に会社に通っている訳も無く毎日ブラブラと何処か行くだけだからこうして高校卒業してからはこうした友人……まぁ高校生な訳だが、友人が出来た事が無かった。


 良い経験になったな。

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