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名柄川羽海という女の日常  作者: TASH/空野輝
激濤、関東旅編
21/51

遮るものなし……

 __午後3時

 大洗町を出てから雨風が強い、雨というのはバイカー達の天敵だ。途中で合羽かっぱを着て走る。

特に麻衣との会話も無く走らせる、インカムがあるというのに悲しい事だ。うーむ、このまま会話も無く家に着くのも悪い。――何か無いものか、そうだ。


「麻衣」

「何?」

「今からお前の家行ってもいい?」


どうせ濡れるのは同じと思い、提案した。麻衣は「いいよ」と応える、久々だな。


 一八六号線、北浦大橋。雨じゃなかったら霞ヶ浦が綺麗に見えるのだが、大雨で曇ってるから濁って見える。そして橋というのは怖いものだ。


「風に揺られるー!」

「真ん中通って羽海真ん中」


 そう言われても、強い風で何処に居ても倒れそうになる。体勢を立て直しても立て直しても自分GSR400は倒れようとする、今だけは耐えてくれ今だけは……頼むから。


 北浦大橋は湖に掛かる橋で1295mと湖に掛かる橋で日本第2位となる。1km近い橋をバランスを崩さずに通ると言う方が難しいと言えるだろう。バイクを乗る者にとっては雨、橋、風と来たら恐怖の対象である。

だが橋から映る景色は絶景なので一回は通って欲しい。因みに愛称は「サン・ブリッジ」


 なんとか耐えた。超重量なGSRを持ち上げるのは至難だ。とにかく倒れなくて良かった。

 後は普通に帰るだけ、雨は強くなってるけど午後6時位には帰れそうだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※


――午後5時

 コンビニの駐車場を休憩をしながら帰っていく。MINIだったりSEVENだったりFAMILYだったり――休憩の数が増えていく、いよいよ全ての旅の疲れが返上されていく。楽しみの裏返しは疲れ。そして現実に還されていく、人間というのはツラいな。さてそろそろ行かないと……


「麻衣、そろそろ行かないと夜になる」

「――うん行こう」


 テンションダダ下がり、雨というのはテンションを下げる効果があるね。


 利根川か、色んな川見た――今日は特に濁って見えるな。あんなに楽しかったのに一日でも雨が来ると

 一向に喋らなくなるし帰り道というのはもっと喋らなくなる。


「雨強いなー」

「強くなってくるねーヤバくない?」


 そんな返答を何回したのやら。流石に合羽を着ててもツーリング道具も合羽が当たって無い靴とヘルメットはビショビショだ。でもマップでもそろそろ一六号線。今利根川を抜けるぞっ!


 利根川を抜け何事も無く印西市を抜ける。臼井市に入って事故は起こった。この旅は麻衣だけに事故が起こるわけではない。信号が赤になった時に起こったのだ。


「印西抜けたー。そろそろ――!?」


 自分は赤信号に変わったのでブレーキを掛けたがつい掛けたブレーキはフロントブレーキだったのだ、フロントブレーキというのは強く掛ける事はしない、リアブレーキで調整をしつつフロントブレーキで弱まった速度を止めるといったのに使うのであるが、リアブレーキを使わずにフロントブレーキで一気に止めたのだ。

 GSR400ABSなら効果はあったが残念ながら乗っているのはABSが標準装備していない無印のGSR400であった。自分はバイクに跨りつつ滑る。


「――おーっとっっ……!?」


 なんとか、足で支えるが、一人ではどうしようもない状況だ。少しでも動こうとするとバイクが倒れる。だがここで倒したらGSRが傷つく。体を取るかバイクを取るかの状況。


 「まい! 麻衣っ! スタンドを出してくれ――重い」


 自分は今、GSR400 総重量230kgを片足で支えております。角度は――45度でしょうか。ブレーキを掛けた際に自分は滑りましたが、最後に靴べらを犠牲にして足で防ぎましたが一人ではどうしようも出来ません。麻衣は今、CB400SBのスタンドを立ててコチラに向かってますが、自分は初の外装慣らしをするかもしれません。ごめんなさいバイクから手と足を離します。


「羽海ぃぃ !駄目ぇぇ!」


 ――ゴスン


 耐えれなかった。麻衣がそばまで来ていたが流石にツーリンググッズを背負ったGSR400は重かった。軽傷で済むようにゆっくりと手を離したが、傷は回避不可能であろう。


「ごめん……ごめんよ、GSR」


 麻衣と一緒に引き起こしをし、左に寄せて傷を見る。ゆっくりと倒したから大した傷は無いもののタンクに若干の傷が残った。うーむ、一つ傷が付くだけで自分達にとっては大きな傷なのだ。コイツと自分は共有している、皆もそうだろう。


「どうして……フロントブレーキ掛けたんだろう……」

「路面が悪かったんだよ」

「雨なんて……大嫌いだ」


 麻衣に慰めの言葉を貰ってエンジンを掛ける。この旅にはドラマがあります。うどんを食べにと付いて行って3日間帰ってこなかった者。高速道路のSAで散った者。胸を揉まれてイキそうになった者。様々なドラマがあります。「まぁ大丈夫っしょ」と気軽に言う。

 バイクのタンクのかすり傷程度大丈夫大丈夫――いや、本当は心は深い傷だけど。


 タンクの傷部分を撫でながらボーっと走る、麻衣が高速道路のSAでコケた傷以上に傷をが付いている、あの時の麻衣は麻衣自身がクッションになって傷が付かなかったからな。…バイクに乗れば一度はやる事だからと言っても自分が道路に出てコケたのは初だ。教習場で何回もコケてそれ移行一切コケてない。しかし――ああーゴメンよGSR…。お前の傷は自分の傷だ。


※ ※ ※ ※ ※ ※


――午後6時

 ようやく、自分のいつも見てる光景の場に着いた。もうびしょ濡れだから早く麻衣の家に上がりたい所だ。この三日間本当に色々あった。自分にとってはうどんから始まった悲劇な訳だが、別に楽しくなかったという訳では無い。むしろまた麻衣と走れたな、というのを学校であれば感想文で書くだろう。さて、旅の終着点というか……自分の家では無いが終わりが見えてきた。


 現在麻衣は親元を離れて一人で暮らしている。親も同じ船橋市の家ではあるが、以前住んでいた私鉄より国鉄のほうが近くなったとのこと。

 高校卒業してから一回寄ったが物も無く質素な感じだった、さてあれから4年近く…変わっただろうか。


「そろそろ着くよ」

「うい、お邪魔するよ」


 そろそろ着くか。アパートだったよな、楽しみだ。

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