魔女討伐隊
場所は王城の玉座の間に移る。
玉座の間では、入り口の扉を開いて向かい側に階段を数段登ったところに玉座が鎮座しており、玉座から入り口にかけて赤いカーペットが敷かれている。そのカーペットの両脇には兵士たちが数百人並んでおりその中に正装したカスパリーニョ、タブ爺、レオンの姿もあった。
そして、玉座にはフォンツ王国国王レオニスが座る。レオニスは五十台後半の男性で王冠を被り、肩まで伸びる長髪に口元から胸元まで伸びる髭を蓄えている、顔には歴戦の傷跡が残っており存在しているだけでその場の空気がピリピリさせるようなそんな存在感の持ち主である。
「カスパリーニョ始めよ」とレオニス国王は言った。
「しかし、まだ第一兵団長が見えていませんが…」
フォンツ王国では第五兵団まで存在しており第一兵団はその中でも国の精鋭部隊が集められた集団である。
「問題ない」
「かしこまりました」
深々と頭を下げるカスパリーニョ。
そして、頭を上げて言った。
「今回集まっていただいたのは王都にてレオン王子が魔女の手下と思われる人物に襲撃を受けた件についてです」
「ああ、わかっている」
「このままですと我が国へのどんな形で再び襲撃に来るかわかりません。よって、魔女討伐隊を編成すべくレオニス国王へ進言したく存じます」
間髪入れずレオニスは答えた。
「討伐隊の編成を認めよう。して、どのような編成にするかだが…」
レオニス国王がそう言いかけた時、玉座の間のドアが大きな音を立てて勢いよく開いた。
「俺が行く!」
「アーサー殿」とカスパリーニョは後方の人物に向かって言った。
「遅いぞアーサー」とレオニス国王が言った。
「すみません。今、戦から戻ったばっかりなんです」
アーサーと呼ばれた男は二十代前半ぐらいの人物で整った顔立ちをしており金髪で毛先がツンツンと跳ね上がっており、金色の鎧をつけている。このピリピリしたムードでも笑って遅刻してくる気持ちの強さと何より爽やかな笑顔が特徴的な男である。
そして、この男こそ第一兵団長アーサーである。
「一人目は決まりだな」とレオニス国王が言った。
「アーサーを魔女討伐隊隊長に任命する」
アーサーは玉座の間後方から玉座がある階段のすぐそばまで歩を進め、片膝をついて胸に手を当ててレオニス国王に頭を下げた。
「隊長の任命大変ありがたく存じます」
「うむ、心して任務に当たれ」
「はい!」
「では、アーサー殿が討伐隊隊長になるということは第一兵団が魔女討伐隊になるということで間違い無いでしょうか?」
「ああ、そうだな。異論はない。第一兵団を魔女の討伐隊としよう」
「…あ、ただうちの第一兵団も今、戦から帰ったばっかだ。負傷者が出ている。特に治癒魔法を使える人材が多数負傷している状況だ、少なくとも…」
アーサーは指を二本立てて顔の前にかざした。
「あと二名は治癒魔法が使える人材が必要だ」
一瞬の場の沈黙の後、
「ワシが行こう」
そう言ったのはタブ爺だった。
「タブ爺殿、入隊していただけるのですか!? タブ爺殿が来ていただけるのであれば心強い」
「ああ、ただしワシからも提案したいことがある」
「なんでしょう?」とカスパリーニョは隣に立つタブ爺の顔を覗き込むようにして言った。
レオニス国王も興味深そうにタブ爺の方を見ている。
タブ爺は隣に立つレオンに視線を移した。
「レオン王子もこの魔女討伐隊に入隊してもらうことじゃ」
「……」
「……」
カスパリーニョもレオニスもこの場にいる全員が一瞬沈黙した。そして、確認のためもう一度タブ爺に訊ねるが、タブ爺の返答は変わらない。
「レオニス国王いかがいたしましょう。王子を討伐隊に同行させるのはまだ危険かと思われますが…」
「ああ、してなぜレオンを連れていく必要があるのかね? タブ爺」
レオニスは続けて言った。
「タブ爺、お主はレオンのことを幼い時からよく知っているはずだ」
玉座に座るレオニスはレオンに視線を移して言った。
「レオンは剣術は冴えなければ魔法も使えぬし、さして剛力の持ち主でもない。此度の遠征は非常に危険が伴うゆえレオンを危険に晒すわけにはいかないだろう。ましてやレオンが魔女に狙われている」
「いいえ、レオニス国王。呪いの力を使うのです!」
「タブ爺とカスパリーニョが見た骸骨のことか」
「はい。あの強大な力を使いこなせれば魔女さえも倒す大きな戦力となり得ましょう」
再び沈黙が訪れる。その沈黙をまず破ったのはアーサーだった。
「ちょっと話聞こえてたけど、その呪い? の力はどんなものか知らないけど、とにかくすげえ強えってことなんだろ? だったら入隊してもいいじゃねえか? さっきも言ったが第一兵団も負傷者が出ている、少しでも戦力になるのであれば連れて行かない手はねぇだろう」
レオニス国王は顔の前で手を組んで真剣な眼差しで言った。
「これはレオンを守る戦いでもある」
そして、アーサーに鋭い眼光で視線を向けた。
「アーサー、レオンを守れるか?」
アーサーは胸に手を当ててレオニス国王を見て言った。
「俺の命に変えてでもレオン王子を守って見せます!」
続いてレオニス国王はレオンの方へ視線を移した。
「レオン、お前に問う。魔女討伐隊に入隊することについてお前はどう思う?」
レオンは会議の前に少しタブ爺と話したことを思い出していた。
自分の呪いの力について、この呪いはレオンの心の不安に漬け込んで魔女がかけた呪いである可能性が高い。もしかしたら、この呪いを解くことでレオンを飲み込んでいる大きな心の不安を取り除くことができるかもしれないということ。
レオンは震え手を握りしめた。
「ただ指を咥えて待っているだけでは解決できないことなんだと思います」
「では…」
「はい、僕も魔女討伐隊に入隊して…」
レオンは握った拳を開き直って自分の掌に視線を落とす。
「自分の手で呪いを解いて見せます」
「よく言った。では、タブ爺よ、レオンも一緒に連れていくことを許可しよう」
そしてレオニス国王は今度はタブ爺を鋭く睨みつける。
「くれぐれもレオンに大怪我などさせぬようにな」
「はっ!」
「そして、もう一人は治癒魔法が使える人物は誰を連れていくつもりだ? 他の兵団から引く抜くのか?」
レオニス国王の問いに対してアーサーが口を開いた。
「それは無理ですレオニス国王、どの兵団も治癒魔法が使えるものはギリギリの人員でやっています。他の兵団から引き抜くのは得策ではありません」
「一人心当たりがあります」
今度はカスパリーニョが言った。
「レオン王子と一緒にいた少女です」




