ルワンナ
場所は王城の応接室に移る。
タブ爺とカスパリーニョの二人がいた。
机を挟み二人は向き合うような形で座っていた。普段ではコーヒーでもと飲み合う仲ではあるが、テーブルの上には何も出されていなかった。
「タブ爺殿、もう一度お聞きします。魔女の呪いとはなんなのですか?」
呼吸の乱れを落ち着かせるためにタブ爺は深くゆっくりと深呼吸をする。
「レオン王子は今、大きな不安を抱えておる。それはワシらが到底理解できるレベルではないかもしれん」
「それがあの骸骨とどのような関係があるのですか?」
「……わからん。ワシも詳しくはわからんが風の噂で魔女の呪いの力は聞いたことがある。きっとレオン王子が持つ大きな不安に漬け込んでどこかのタイミングで魔女によって呪いをかけられたのだろう」
「さまざまなご経験をお持ちのタブ爺殿が言うのであればその情報は確かなのでしょう」
「すまんな明確なことはワシにはわからんが、あの骸骨の正体は魔女の呪いで間違いないだろう」
「……」
「……」
二人の沈黙がしばらく続いてカスパリーニョが沈黙を破った。
「王子を襲ったと見られる黒づくめの男を尋問しましたが、魔女との関わりは否定しなかったもののそれ以外に何も口を割りませんでした。尋問した部隊の報告によると、その男の舌には術式のようなものが書いてあり自爆したそうです。これはレオニス国王にも伝達済みです」
「なんとな!」
「タブ爺殿、これはもしや…」
「ああ、今回の騒動はまだ始まりに過ぎんのかもしれん」
「一体、奴等はなんの目的でレオン王子を襲ったのでしょうか?」
「うーむ、今の情報からではなんとも言えぬが、魔女はレオン王子を狙っている事実は変わりないだろう」
「でしょうね、すぐにレオニス国王に報告し、対策を考えます」
「ああ、ワシも一緒にレオニス国王に説明に行こう」
時は同じくしてレオンの自室にて。
レオンは自室で手当を受けてベットに横になっていた。その脇には椅子が置いてあり、路地裏で同じく黒づくめの被害を受けた少女が座っている。
少女は手を擦りむくだけの軽傷で済み、包帯で巻いた手をそっと握りしめて静かに座っていた。
やがてレオンが目を覚まし、上半身を起こした。そして、ゆっくりとベッドのすぐ隣に座っている少女の方を見た。
「無事だったんだね、よかった。怪我をしたのはきっと僕のせいだよね…ごめん記憶が曖昧なんだ」
頭を抱えながら、しかし安堵して少女を見つめるレオン。
「……」
少しの沈黙の後、少女は言った。
「私の名前、言ってなかったわね」
少女は大きな瞳でしっかりとレオンを見ながら言う。
「私の名前はルワンナ」
「ルワンナ…本当に無事でよか…」
レオンが言いかけた時だった。
ピシャ!
ルワンナの手がレオンの頬を打つ音が二人しかいない部屋に響いた。
「まず守ってくれてありがとう。でも『命などいるものか』ってどう言うこと」
レオンはしばらく下方に視線を向け俯いていた、ルワンナはスッと息を吸って続けて言った。
「命を粗末にする人は大っ嫌い!」
鋭い目つきでレオンを睨みつけるルワンナから視線を逸らすレオン。
またしばらくの沈黙が続いた後、ドアをノックする音が聞こえてその後に一人兵士が入ってきて言った。
「レオン王子、レオニス国王がお呼びです」
「…わかった」
レオンが返事をするとルワンナの方へ向き直った。
「ルワンナはここにいて、家の者がルワンナの家まで無事に案内してくれると思うから」
ルワンナは静かに頷いた。しかし、レオンを見る鋭い目つきは変わらなかった。
レオンが一度下を向いてから視線を上げ、ルワンナの方を向いて言った。
「ルワンナは『命を粗末にする人は大っ嫌い!』って言ったね」
ルワンナは静かに頷いた。そして、レオンは続ける。レオンの手は少し震えていた。その手をもう片方の手で震えを抑え込んだ。
「僕は自分の命がどうなってもいいと思ってる。生きてるのが怖いんだ」
そう話すレオンの唇は震えていた。
「生きてるのが怖いことなんて誰だって経験することだわ。でも、生まれたことに意味があるの、そして、意味を見出すのよ」
ルワンナは真っ直ぐとした瞳でレオンを見てそう言った。
レオンの自室の窓から日の光が差し込む。ちょうど、レオンの方は影を、ルワンナの方は光を映し出した。
レオンはベットから出て立ち上がり、枕元に置いてあった上着に袖を通した。
「そうかもしれないね。…そう思えたらいいね」
自分に言い聞かせるようにそう言う。
レオンは上着の襟を正して部屋のドアを開けた。
「また君に会えることを願っているよ」
「ええ、どうも」
レオンは部屋の扉を閉めてレオニス国王が呼び出した場所である玉座の間へと向かって行った。




