魔女の使い
爆発した砂煙の中から二人、黒づくめの人物が二名現れた。
レオンは咄嗟に腰にあった剣を抜いたそして、赤い髪の少女に「下がって」と言うと少女は一歩下がって、そしてレオンは剣を黒づくめの人物に向かって構えた。
黒づくめの二名のうち片方が口を開いた。
「この坊ちゃんがリマーナ様が言っていたレオンって奴か」
「フフフ、なんだか弱そうっすね」
「おいおい殺すなよ。リマーナ様からは生きたまま捕獲しろとのご命令だ。速やかに任務を遂行するぞ」
「ニ対一なら余裕っすよ。アニキ」
黒づくめの片方の人物から「アニキ」と呼ばれていた男はレオンに剣を向けて言った。
「魔女リマーナ様からのご命令だ。少年、命だけは助けてやる。しかし、無傷でいられると思うなよ」
レオンは不敵な笑みを浮かべて言った。
「命などいるものか」
「ほう、言うじゃないか」
レオンと黒づくめの「アニキ」と呼ばれたもう一人は剣を交えて戦っていた。何度かレオンも反撃のチャンスがありそうだったが、剣術では黒づくめの男の方が技術は高く、レオンが振っていた剣は黒づくめの男によって振り飛ばされてしまった。そして、黒づくめの男はレオンの腹を思い切り蹴り飛ばし、レオンは飛ばされ壁に背中を打ちつけた。
「威勢の良い割にはあっけないな。捕獲するか。…と、その前に」
黒づくめの男は壁際で横たわるレオンの隣に視線を移した。
「嬢ちゃん。あんたもこの現場を目撃したからにはタダで返してはおけない」
「アニキ、女の方は俺が相手しましょうか?」
「いやいい、俺がやる。レオンは大したことないからお前がやれ。腕の一本や二本もぎ取れても問題ないだろう」
「了解っす!」
ゆっくりと近づいてくる黒づくめの人物二人に壁際に追いやられたレオンと少女はもう逃げ場を失っていた。少女は必死に後方の草食動物たちを守ろうと数匹を抱き抱えて黒づくめの人物たちを睨みつけた。
「フンッ!」と黒づくめの男は少女に向かって剣を突き出した。少女は死を覚悟して目を瞑っていたが…。
カン、カラン。
この音は剣が地面に落ちる音だった。
黒づくめの人物が突き出した剣は真っ二つに折れて破片が弾き飛ばされていた。
「な、なんなんだこれは…」
黒づくめの男の視線の先には紫の炎で包まれた骸骨が上半身だけレオンの背中から出ていて、その骸骨が少女を手で包み込むようにして守り、剣を弾いたのだった。
この紫の炎を纏った骸骨の大きさは黒づくめの男が見上げるほどあり上半身だけで三メートル近くあった。
レオンはゆっくりと横たわる体を起こし、やや前傾姿勢でゆらりと上半身を揺らして前方の黒づくめの男を見る。そして、レオンの目の下には紫色の痣ができていた。
一歩、二歩と後ずさる黒づくめの男をゆっくりとした動きの虫でも捕まえるようにレオンの背中から出ている骸骨は掬い取るような動きで捕まえた。そして、人間の体がその骸骨によって簡単に持ち上がる。
一気に劣勢に立たされた黒づくめの男は下方に視線を移し、レオンに言った。
「た、頼む命だけは助けてくれ」
レオンはゆっくりと黒づくめの男のいる上方へと視線を移した。そして、少し口元が緩んで言った。
「死ぬのが怖いのか?」
レオンは黒づくめの男にそう問いかけた。普段のレオンとは違ってその発せられた言葉は冷静に言っていて冷たさを感じさせた。
骸骨が黒づくめの男を握る手は少しずつ強くなり、バキっと骨の折れる音がする。
「うわああああああああああ」
骸骨の腕は黒づくめの男を投げ飛ばそうと勢いをつけた。すると、
「やめて!」
少女は黒づくめの男を投げ飛ばそうとしたレオンを抱きついてレオンを止めようとした。しかし、骸骨はその少女をもう片方の手で跳ね除けて少女も突き飛ばされてしまった。少女は突き飛ばされて、気を失ってしまった。
目の前で繰り広げられる光景を見て「き、聞いてた話と違うっす!」ともう一人の黒づくめの男が叫んだ。
その黒づくめの男はその言葉だけ言い残して、「アニキ」と呼んでいたもう片方の黒づくめの男を置いて行って一目散にその場を逃げていてしまった。
逃げて行った黒づくめの男には目もくれない。レオンの興味は目の前にあったからだ。
「死の恐怖を教えてくれないか?」
レオンは自分の好奇心を満たすかのようにそう言った。
「バ、バケモノめ」
レオンの背後から出ている骸骨は黒づくめの男を向い側の壁に投げた。人間を投げているがまるで野球ボールでも投げているみたいに軽々と人間の体は飛んでいき壁に体を打ちつける。
「ゴフッ!」
黒づくめの男は血を吐いて気を失ってしまった。
「こ、これは一体どういうことですか!」
そう言ったのはカスパリーニョだった。隣にはタブ爺の姿もある。
「街で爆発音や警報が出ていたので駆けつけてみれば、なぜ王子がこのような姿になっているのです!」
この状況を今すぐに説明できるものは誰もいなかった。
カスパリーニョは数人の兵士を連れてきておりその兵士たちに向かって「捕えよ!」と壁際に横たわる黒づくめの男を指差した。
そして、タブ爺はレオンを見るなり何か思い出したようにハッとした表情になり、
「の、呪いじゃ! 魔女の呪いの力じゃ!」
唾を飛ばして興奮気味にそう言った。
「呪い?」
カスパリーニョタブ爺に聞き返した。
その間にカスパリーニョとタブ爺が来たことを知ったレオンは安堵したのか、その場に倒れてしまった。そして、背中から出ている骸骨の姿も煙のように消えていった。
現場には倒れるレオンと少女。そして、カスパリーニョとタブ爺、数十名の兵士がおり、カスパリーニョは倒れているレオンと少女を保護するように兵士たちに命令した。
「とにかく今は王城に戻ろう」




