少女との出会い
場所は王城の中庭に移る。
中庭は中心には大きな木が一本生えており、それを囲うように植え木が四角形に並べられており、石畳の床が広く面積を取っているような場所である。
王城の中庭でには剣術の訓練が行われることが多い。
「レオン王子、休んでいる暇などありませんぞ!」とカスパリーニョは焦っていた。
石畳の地面の上に木刀を持った二人が対峙している。
「ではいきますぞ!」
カスパリーニョは木刀を強く握り込み、対するレオンに木刀を振りかざした。カスパリーニョは木刀をまるで鞭のようにしなやかに操作する。
レオンは、カスパリーニョの攻撃を両手で木刀に手をかざし、止めようとするがカスパリーニョの木刀の威力が勝り、レオンの木刀は遠くへ弾き飛ばされ石畳の床に乾いた音を鳴らして落ちた。そして、レオンは尻餅をついてしまった。
カスパリーニョは木刀の切先を座り込んでいるレオンの鼻先へ当たるか当たらないかぐらいまで近づけた。
「王子、あなたはもう十八歳でレオニス国王の息子です」
カスパリーニョは木刀を下ろして、レオンを見下ろした。
「今まで剣術も魔法も体力も、私が持てる限りの全ての力を注いで王子に尽くして参りました」
カスパリーニョはため息混じりに言った。
「はっきり言わせていただきますが、レオン王子は平均的な十八歳の少年に比べると魔法も使えない、剣術も劣る、体力も平均より下回っております。これから国を背負ってゆく人材として私は心配で仕方ありません」
「わかってるよ…」とレオンは小さく呟いた。
「レオニス国王はあれほど優れた能力を持っている方なのになぜその血を引くレオン王子の能力はここまで低いのでしょうか?」
カスパリーニョはため息をついた。そして、木刀でレオンの腰のあたりを指し示した。
「腰の剣を抜きますか? 木刀などとという遊びのような訓練より剣を使った訓練の方が王子は…」
「もういい! もう放っておいてくれ!」
レオンは王城の中庭を逃げるように走って立ち去った。
「どこへ行かれるのです! 王子!」
カスパリーニョの声だけが虚しく中庭に取り残されてレオンは王城を出て行った。
カスパリーニョから逃げたレオンは王城を抜け王都に出ていた。
王都では王城へまっすぐ通じる大きな道路がありその道路の両脇には様々な出店が並んでいて栄えている。この通りは人の通りも多く、荷物を運搬している馬車などの通りもまた多い。
レオンは人をかき分けながらただただ向かう先もなくふらふらと歩いていた。すると、腰のあたりで何か擦れたような感覚がした。レオンは気になって腰に手を当ててみると、腰にぶら下げていた金貨の入った巾着袋がなくなっていることに気づいた。
レオンは前方に視線をやると髪の長い少女が走り去っていくのが見えた。その少女はレオンの巾着袋を抱えて走っていた。レオンはその少女が巾着袋を奪った犯人と見て間違いないだろうと思い、急いで追いかけた。
少女は大通りから狭い路地裏に入り、レオンも追いかけて路地裏に入っていく。
少女はまるでこの迷路のような日の当たらない薄暗い路地裏を知り尽くしているかのように迷いなく進んでいき、レオンもその少女を追って行った。
少女の足が止まり、少し距離をとってレオンも足を止めた。場所は建物の壁に囲まれており行き止まりだった。
先に声をかけたのはレオンの方だった。
「僕のお金、何に使おうとしていたの?」
少女は振り返りレオンに大きな瞳を鋭い目つきにして睨みつけた。
少女はレオンと同い年ぐらいの年齢で腰まで伸びる綺麗な赤い毛をしており、赤いドレスを着ていた。育ちは悪くなさそうだが路地裏を走り回ったせいでドレスは砂埃で少し汚れている。
「私の魔法だけじゃ治してあげるのに限界があるから、この子達にご飯を食べさせてあげたかったの」
少女の後ろの壁際には痩せ細ったウサギや羊などの草食動物が数匹いた。
少女はレオンから盗んだお金は何日も食事をとっていない、後ろにいる小動物たちに食事を与えるために使うつもりだったとレオンに告げた。
レオンは驚いた。
「君はなんですでに朽ち果てていく命に、そして、人間でもない小動物になぜそこまでできるの?」
少女は少し困ったように笑う。
「理由なんてないわ」
「ない?」
思わずレオンは聞き返してしまった。
「お腹が空いて苦しんでいる子がいるから助けたい。ただそれだけ」
レオンは眉をひそめる。
「でも、助けても明日には死ぬかもしれない」
「そうかもしれないね」
「だったら意味ないじゃないか」
少女は首を横に振る。
「意味はあるよ」
そう言って少女は後方の壁際にいる痩せ細ったウサギを一匹抱き上げる。
「この子がお腹いっぱいになって幸せになるから」
「……」
「明日死ぬかもしれないから今日を諦めるなんて、かわいそうでしょ?」
レオンは言葉を失った。
少女のやっていることはレオンにとって非合理的なことだったからだ。
金を盗み、自分へ何か高価なものや食料を買うわけでもない。
救ったところで誰も感謝しない、命。
それでも少女は迷いなく手を差し伸べる。
まるで命そのものを愛してるかのように。
命に対する価値観にレオンはあっけに取られていると少女は言った。
「怒らないの?」
「え?」
少女はレオンから取った巾着袋を胸の前に突き出した。
「お金、盗んだんだよ」
「……怒るつもりだった」
「だった?」
少女は聞き返した。
「でも、今は君のことがよくわからない」
「変な人ってこと?」
「そう…かも」
レオンは何か釈然としない様子だった。
しばらく二人の間で沈黙が流れているとレオンの後方で爆発音が二発聞こえて近くの住民は叫びながら逃げ出して行った。




