三人の秘密
タブ爺はレオンの方を一度見てからサリヴァンの方へ向き直って言った。
「レオン王子がフォンツ王国近くの谷の橋から飛び降り自殺をしようとしたんじゃ」
サリヴァンは目を見開いた。そして、レオンの肩に手を置いて言った。
「誰にだってそう言う時期もあるわよ。王子も多感な時期だもの、ちょっと嫌なこ…」とサリヴァンが言いかけたところでレオンは遮った。
「毎日声が聞こえるんだ。どこの誰とも知らない誰かがまるで空から僕のことを監視ししてるみたいに僕の行動や言動を否定してくるんだ」
サリヴァンはゆっくりと目を瞑ってそして言った。
「悪魔の声ってやつね。そりゃ不安も大きくなるはずだわ」
タブ爺は「ふーむ」と言ってもう一口グラスに口をつけてから言った。
「原因はわからんのう」
「で、このジジイが治癒魔法を使ってレオン王子を助けたって訳ね」
「ああそうじゃ、レオン王子の体の損壊が激しくもう少し手遅れだったら死んでいたかもしれない。死人を生き返らせることはできないからのう、ワシの魔力を最大限使って回復させた。背中に少し傷跡が残ってしまったが、問題ないわい」
「ふーん、で、魔力を回復したいから酒飲みに来たってことでしょ」
「ハハハ、バレたかのう」とおどけてタブ爺は言った。
サリヴァンは「全くもう」と呆れていたがレオンの顔には笑顔はなかった。
「生きるのが…辛い。本当は死にたかったんだ」
三人の空間は一度静まり返った。
「死んでどうしたかったんじゃ」
「苦痛から…茫漠とした不安から解放されたかった」
レオンは手で自分の髪を覆って言った。
「ダメなんだ。毎日怖くて怖くて、やり場のない不安が日に日に大きくなってく」
そしてレオンはため息を吐くようにして言った。
「僕なんか死んじゃえばよかったんだ」
タブ爺は大きなグラスを机に置いてレオンの目を見てしっかりと言った。
「失っていい命などないぞ。レオン王子、命は神様から授かった大切なものじゃ簡単に捨てようなんて考えてはいけない」
「……」
サリヴァンとタブ爺は目を見合わせた。そして、サリヴァンが言った。
「それはそうと、ここには長居できないんじゃない。レオンちゃんが深夜に王城を抜け出したってこともう国王にも伝わってるでしょ?」
タブ爺もからになったグラスをテーブルの上に置いて、
「では、王城へ戻ろうかのう」とレオン王子に言った。
レオンは小さく頷いた。
「気をつけていってちょうだいね。レオンちゃん…」
サリヴァンはそう言い残すと、続けていった。
「いつまでも見てるからね。ンフン♡」
サリヴァンのバーからフォンツ王国までは距離があるため、タブ爺とレオンはサリヴァンから馬を二頭借りて王城まで数十分走らせた。
その道中、タブ爺はレオンに言った。
「王城に戻ったら今回レオン王子がいなくなった件について自殺未遂だったという事実は伏せましょう」
「いいの?」
「ええ、もしレオニス国王に知れ渡ったりしたら国王もさぞ心配されるでしょうからサリヴァンと三人だけのことに留めておきましょう。『一時の気の迷いで家出したくなった』そう伝えれば良いでしょう」
「わかった。ありがとうタブ爺。迷惑ばかりかけてごめんね」
「いいえ、私はレオン王子が小さい頃からレオン王子の味方でございますから」
二人は馬の手綱を強く引っ張り馬はさらに加速してフォンツ王国へと向かって行った。
王城に戻ると一番怒っていたのは国王レオニスではなく、レオンの教育係で執事のカスパリーニョだった。
王城の来客用の広間でタブ爺とレオン、机を挟んでカスパリーニョが座っていた。
カスパリーニョは初老の老人で顔が細長く口元には白髪のカールした髭が特徴的な人物である。
「まず、王子。昨日の深夜どちらへ行かれたのですか?」
カスパリーニョはまずは一つ一つの事実を確かめるかのように淡々とそう言った。
「えっと、その…」レオンが言いづまっていると、タブ爺が遮って言った。
「家出じゃ。家出したとろをワシが近くの谷で見つけて保護した。これが事の経緯じゃ。どうかこれでレオン王子を許してくれんかのう? カスパリーニョ」
「タブ爺殿がおっしゃるなら、話の信憑性は確かでしょう」
カスパリーニョは机に両手をついてタブ爺に深く頭を下げた。
「タブ爺殿この度は本当にご迷惑をおかけしました。王子を救ってくださってありがとうございます」
「いやいや、礼には及ばんよ」
「レオン王子を小さい頃から面倒を見られていたタブ爺殿にはなんとお詫び申し上げたら良いのか見当もつきません」
そして、カスパリーニョの視線はすぐにレオンの方へ向けられた。
「レオン王子、剣術の修行、魔法の習得、体力強化まだまだやることはたくさんありますぞ」
「わ、わかってるよ」
レオンは億劫そうに返事をしてカスパリーニョはタブ爺の方へまた向いた。
「タブ爺殿はお疲れでしょうからどうか王城でゆっくりしていってください」
「すまんねぇ、では、そうさせてもらうよ」
後にレオンは無断で国外へ外出したこと、そして、国境を警備している兵には勝手にレオン王子を国外へ出るために門を開けたことがカスパリーニョから怒られた。




