消えてる!
壁際で倒れるルワンナの手がピクッと動いた。レオンはすかさず叫んだ。
「ルワンナ!」
「神様から授かる特別な魔法…」
ルワンナはそう呟いた。そして、ゆらりと立ち上がる。
ルワンナは目を瞑り、胸の前で両手の指の腹と腹を合わせ手を合わせた。
「どうか神様、私たちをお救いください」
そして、
「解!」
すると、ルワンナの額に緑の光が走った。光は細い線となって円を描き。やがて一つの紋章へと姿を変えていった。
それはただの円環ではなかった。真円は蔦の形を形取り、円の正面から見て北の方角には若葉の紋章、東には白い花の紋章、南には小さな果実の紋章、西には枯れ葉の紋章がルワンナの額に刻まれていた。
そして、ルワンナが言った。
「誕生、成長、成熟、死。命の営み全てが一つとなる円環よ」
ルワンナはレオンに言った。
「レオン王子、剣を」
レオンは頷く。
そして、ルワンナは聖なる光に包まれる剣を持つレオンの手に重ねるようにして持った。
黄色の光に包まれていた剣はルワンナの手から緑色の炎が注がれるように黄色い炎と混ざって、剣は黄緑色の炎に色を変えていた。
「ルワンナ、その魔法は」
「母から教わった魔法なの、初めて使うけど戦う時に、誰かが命の理を犯した時に使えって言われたのよ」
ルワンナは大きな瞳でレオンに視線を向けた。
「レオン王子、もう大丈夫?」
「うん」
レオンは敵を見据える。
「行こう」
二人が一本の剣を握る。その先には八本の足を生やしたリマーナの姿がある。
リマーナはまだよだれを垂らしながら言う。
「どんな手を使おうが私には勝てないよ。小童どもが」
レオンとルワンナは剣を持ち、ゆっくりと前進してリマーナに近づいて行く。そして、リマーナは再び前足を使った鋭い攻撃をする。
レオンたちに向けられたリマーナの前足は黄緑色に光る壁が空中に出現し、前足は黄緑色の壁に当たった部分が煙を上げて溶けて無くなっていた、そして二人を守った。その間に二人はゆっくりとリマーナの顔の近くまで来ていた。
「リマーナ、お前はもう僕たちには勝てない」
リマーナの溶けた二本の前足は修復していない。しかし、それでもリマーナは前足で二人を叩き潰そうと叩きつけた。短い前足の攻撃は空振りに終わる。そして、リマーナはバランスを崩して胴体が地面に着地する。
二人は決して動じない。そして、ルワンナは言った。
「あなたを、命を、本来の姿へ還す」
レオンも一緒に剣を握り天へと翳す。剣は日の光を反射し、黄緑色の光がリマーナに注がれる。
「うわああああああああああああああああああ!」
聖なる光と本来の治癒魔法の力を含んだ黄緑色の光がリマーナを飲み込む。
リマーナの元にあった八本の長い足は剣から反射される光に消し飛ばされるように消滅していった。やがて、光を放出し終える。すると、
「…ほえ」
残ったのは命の本来の姿。老婆の姿のリマーナだった。手足は痩せ細り今にも折れそうで、皮膚は皺だらけ。顔は骸骨に皮膚が張り付いただけのように頬がこけて歯も何本か抜けている。そして、黒いローブは裾がボロボロになっている。
「これがあなたの人間としての本来の姿よ」
リマーナはまだ自覚がない様子で自分で頬や腕を触って自分の肌の感覚や肉のつき具合を確認している様子だった。
「嫌だ! 嫌だ! 違う! 私はこんなのじゃない!」
自分の体を、本来の肉体を手の感触で確かめたリマーナは頭をむしゃくしゃに掻きむしっていた。
「認めなさい! それが人間としてのあなたの姿なの」
リマーナはしわがれた声で言った。
「こんな姿じゃあもう生きれない! なぜ生かす! 私を殺せたはずだ。こんなんじゃ生きていても死んでいるようなものだ!」
「魔女だからって殺していいことにはならないわ。それにどんな悪人でも奪っていい命にはならないからよ。でもね…」
ルワンナは途中まで言いかけると息を吸って言い直した。
「でもね、あなたがレオン王子から奪ってきた笑顔も過去も全て生きて罪を償いなさい」
リマーナはルワンナの言葉を聞いてしばし呆然とした。そして、ほうっと息を吐き、疲れ切ったようにがっくりと項垂れる。細い首から今にも体が崩れ落ちそうだった。
「私の…負けだ」
リマーナはため息をつくように言った。
「リマーナ、罪からは決して逃げてはダメよ」
そして、レオンが言う。
「リマーナ! 僕にかけた呪いを解くんだ!」
老婆になったリマーナは億劫そうにしてレオンに視線を移した。
「もう解けている。其方は己の闇を受け入れた。その時点で私の呪いの効果はない」
レオンはいつもやっている通りに紫の炎に包まれた骸骨を出そうとしたが、出てこなかった。
「…き、消えてる」
「あら! よかったじゃない!」
リマーナは訥々と話を続けた。
「闇の感情を増幅させるためにお主にイドニラに手を出させた。イドニラで得る一時的な快楽はその反動で闇の感情を増幅させる。闇の感情が大きくなればなるほど私の呪いは強力なものになるからな。闇をすで受け入れたのならもう意味がない」




