終劇
リマーナは「ああ、降参、降参」と諦め気味に言いながらその場に大の字になって横たわった。
「あーあ、もう終わりだ。私の永遠の命を得る計画は台無しだ。もう生きる意味を失った」
場所は魔女が住む城の屋上。空は青々と延々に広がっている。爽やかな風が二人の頬を撫でた。
ルワンナは空を見上げる。青空を一羽の小鳥が横切って行った。
「永遠に生きることが生きる意味じゃないわ」
ルワンナは続けて言った。
「私ね、小さい頃に羽を折った小鳥を助けたことがあるの。その子は何百年も生きられられない。でも、空を飛んだあの一瞬はとても幸せそうだった」
レオンはルワンナに一度視線を移してからリマーナを見た。
「僕もずっと生きるのが怖かった。でも、ルワンナが教えてくれたんだ。終わりがあるからこそ今日という日を大切にできる。今を生きることに価値があるんだって」
そして、ルワンナはリマーナに説教するみたいに手を腰に当てて言う。
「だから永遠に生きたいと思うからダメなのよ。今を楽しまなくっちゃ」
リマーナは「ふん」と鼻を鳴らした。
そして、ルワンナはちらりとレオンを見た。
「ねぇ? レオン王子」
そう言ってルワンナはレオンの方を向いて綺麗に咲く花のようにぱあっと笑った。
レオンは少し驚いたような表情をする。
「本当に…」
レオンは途中まで言いかけた。そして、少し微笑んで言い直す。
「本当に僕は君から学ぶことだらけだ」
レオンは笑った。その笑顔は作られたものではなく心の底から湧いてくるものが込み上げてきたものを表現したものだった。
ルワンナは不思議そうに首を傾げる。
「あらそう? 私は何もしてないわよ。それよりも…」
ルワンナはじろじろとレオンの顔を覗き込むように見る。
「な、何か、ついてるかな?」
「ううん、レオン王子少し顔つきが変わったかなって」
「…」
レオンは無言で少し顔を赤た。
ルワンナは人差し指を顎に添えて何か思いついたように言った。
「あ、あと。レオン王子笑ったところ私、初めて見たかも」
「そ、そうかな? ちゃんと笑えてた?」
「ええ、素敵な笑顔だったわ。これからもっとたくさん笑ったらいいのよ。生きてるのが楽しくなってくるの!」
ルワンナは弾むような声だった。
二人のやりとりを見たリマーナは呆れたようにため息混じりに言った。
「はあ、若いのう…」
「ねえリマーナ、おばちゃん」
ルワンナは後半部分をわざと強調してリマーナに言った。
「あ?」
「もう絶対レオン王子に呪いなんてかけないって約束できる?」
リマーナは怒り気味で拳を何度か突き上げながら言った。
「貴様らのせいで、もう呪いも若返りの魔法も使える魔力が残ってないわい!」
数日後の昼下がり王城の中庭にて。
中庭から空を見上げると青くどこまでも広がる空が見えていた。天気は快晴、日の光が暖かく差し込む。
「レオン王子、今日は天気がいですね」
「アーサーは腕、大丈夫なの? ごめんね、僕の戦いに無理やり巻き込んでしまって。こんなことさえなければ片腕を失わずに済んだのに」
「いえ! いいんです! 俺は俺なりに武人として成長できました」
アーサーは失った方の腕をぐるぐると回して「全然余裕です」と言っていた。
「しかもこの義手、専門の職人に作らせたんですがめっちゃしっくりくるんです。しかも着脱可能! ほら見てレオン王子! すごいでしょ!」
アーサーは義手を取ってさらにぐるぐると腕を振り回した。
「うう、やっぱ痛々しいよ」
「ええ、そうですか?」
アーサーは渋々着脱した義手を失った方の腕に装着した。
「そういえば、ダルマさんとカゲさんはどうしてるの?」
「ああ、ダルマは毎日あの豪邸でソウルメイトと酒飲みながらラップバトルしてるらしいですよ。カゲは相変わらずダルマの言いなりです。また、音楽を奏でてるんじゃないですかねえ」
「ハハハ、相変わらずだなあ、あの二人は」
アーサーは少し肩の力が抜けて安堵した表情になる。レオンに視線を向けた。
「やっぱり、レオン王子は笑った顔が一番いいですよ」
レオンは照れくさそうに頬を掻いた。
「そ、そうかな」
すると、アーサーは中庭の入り口、王城へ通じる通路へ視線を移した。
「お、もう一人の主人公が来ましたよ」
「うちから採れたてのお野菜持ってきたわよ。みんなで食べてね」
ルワンナは魔女討伐隊の任務以降、治癒魔法の能力を買われて王城で働くことになっていた。
ルワンナの後ろにはウサギや猪、鹿などの小動物たちもついてきていた。レオンはしゃがんで一匹のウサギの頭を撫でた。アーサーの頭の上には小鳥が一羽止まる。
レオンは立ち上がってルワンナから野菜の入ったかごを受け取った。レオンは少し重そうにして少しよろついてから持ち直した。そして、レオンは口角を少し上げてニッと笑みを浮かべた。
「ありがとう。嬉しい」
「レオンの笑顔が見れて私も嬉しいわ」
レオンは空を見上げた。空はどこまでも広がっていて吸い込まれそうな青をしている。
ふと、レオンはつぶやいた。
「僕は生きるよ。ルワンナ」
ルワンナは目を細めて言った。
「ええ」
「前を向いて歩くよ」
アーサーの頭の上に乗っていた小鳥はルワンナの肩へと移動していた。
「きっと何度もつまずくかもしれない」
小鳥はルワンナの肩から腕をつたって指先へと移動して行った。
「まだ生きるのが怖い。明日死ぬかもしれない。大切な人を失うかもしれない。でも、」
小鳥はルワンナの指先から羽を広げ大きく空へ羽ばたいて行った。
「だからこそ生きたい。だからこそ、今日という日を大切にしたい」
ルワンナはレオンの手をそっと握った。そして、大きな瞳でレオンを見た。
「レオン」
ルワンナはレオンの頬にキスをした。
「命には終わりがあるから」
フォンツ王国国境近くのとあるバーにて。ある人物がある人物にインタビューを行っていた。
Q:あなたは剣士ですか? それとも魔法使いですか?
A:魔法使いよ。
Q:どんな魔法が使えるのですか?
A:あらやだあ。他人が知られたくないことを知ろうとするなんてスケべな人なのね。でもまあ仕方ないからヒントをあげるわ。
Q:ヒント?
A:あなたが今履いてるパンツ。水色の縦縞のパンツよね?
Q:ど、どうしてわかったのですか?
A:答えは透視よ。あら! 私が答えを言っちゃたわ。まあいいわ。それよりもあなたの大事な部分ももう丸見え。アソコは小さい方なのね。
Q:か、関係ありません。それよりもレオン王子の背中から透視の「目」が発見されました。仕込んだのはあなたですか?
A:あらやだ見つかっちゃったのね。あの子が橋から自殺未遂をした時に治療するどさくさに紛れて背中に透視の「目」を仕込むように酒ジジイに言っておいたの。これから面白いことが起こりそうだと思ったからね。だから、酒ジジイはレオンを治療した時に言ったはずだわ、「背中に傷が残った」って。そこに透視の「目」を仕込んだの。まあ、酒ジジイは残念ながら己の欲に負けて死んだみたいだけどね。
Q:ということはあなたはレオン王子の動向をずっと透視の「目」を通じて観察していたのですか?
A:見ていたわ。ずっとね、暇だったもの。
Q:なぜこんなことをするのですか?
A:簡単よ、ただ楽しいからよ。楽しければなんだっていいじゃない。私はただ見てるだけ。私もあなたも傍観者に過ぎないのよ。
Q:あなたは魔女討伐隊がルベリア王国で奇襲にあったことを知っていましたか?
A:ええ、もちろん知ってるわ。ジョーとガルディでしょ? 見ていたからね。
Q:伝書鳩を飛ばすなどして奇襲されることを魔女討伐隊に事前に伝えることはできたはずですよね?
A:ええ、もちろん。
Q:なぜ、魔女討伐隊を助けるチャンスだったのに奇襲されると教えなかったのですか?
A:何度でも言うわね。私は傍観者。ただ見てるだけよ。まあしかし、事の顛末は楽しかったわ、アソコがじんわりしちゃうくらいね。
Q:タブ爺は影で魔女と繋がっていました。もしかしてあなたも影で繋がっていたんじゃないですか?
A:シー。




