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和解

 蜘蛛のような魔獣たちは兵士たちが戦う前線を抜けて、治癒魔法師たちがいる後方へ瞬く間に移動して、即座に蜘蛛のような魔獣四匹ほどでルワンナだけを頭の上に乗せた。


 レオンはルワンナの方へ向かった、しかし、何十匹と魔獣がレオンの前に立ちはだかる。レオンは目の前に魔獣を倒すことに時間がかかっていた。


 すると、

「ゴフッ!」

 レオンは口に手を添えた。そして、手のひらをゆっくりと開くと血が手に付いていた。


 血が落ちた。

 レオンは目を擦った。手の甲には血が付着していた。

 レオンは鼻を擦った。手の甲には血が付着していた。


「フフフ、やはりレオンはリマーナ様の呪いをまだ完全には使いこなせていないな」

 黒づくめのある人物がそう言った。


「ダメだ! ルワンナ行っちゃダメだ!」

 蜘蛛の魔獣の無数の手の中に埋もれるレオンはルワンナに手を伸ばすが届かない。


「レオン、人質を解放してほしくば一人でこちらへ来い。ゆっくりだ」

「どうするつもりだ?」

 ある黒づくめの男はそう言った。

「他の兵士どもが邪魔だ。レオンが兵士を庇いながら戦っているが他の兵士は重要ではない。用があるのはレオンのみだ」

 レオンは要求を飲んだ。前線で戦っている兵士たちを下げて、レオン自身は歩を進めた。


「これで一人になった。あとは確保するだけだ」


 レオンは小さな声でつぶやいた。

「…僕がやらなきゃ。これは僕の戦いなんだ」


 レオンの背後でゆらゆらと揺れる紫色の炎は液体のようにレオンの体に入っていった。そして、顔の半分が紫の炎で覆われた。レオンの顔半分は背後にいる骸骨の化け物のように骸骨になっていた。


 血の涙を流し、鼻血を出しレオンは対峙する敵に言った。

「お前らを…殺す」

「いいね。呪いが体を侵食し始めている! お前の感情を! 心を! 喰らっていく!」

 ある黒づくめの人物はそう言った。


「さあ、ルワンナはこっちだ! 助けたければこの魔獣たちを倒してみろ」

 黒づくめの人物たちは地面に手を着きさらに魔獣を召喚する。


 上から下から正面から後ろからありとあらゆる方向から魔獣は襲ってくる。レオンは骸骨を使って防御しながら、攻撃し魔獣を倒していく。

 進んでも進んでも魔獣が現れて、ルワンナの姿が見えない。


「まだだ…まだ、戦わなきゃ…ゴフッ」

 レオンはふらついた、地面に落ちている石ころに足をつまずいてそのまま崩れるように地面に倒れ込んだ。



 あれ、体が動かない。

 ここはどこ?

 どこか遠くから足音が聞こえる。

 ああ、また奴が来た。逃げなきゃ。


 僕は立ち上がる。

 僕は草むらを必死に走った。行先はわからない、進行方向には地平線が見えるだけだ。後ろからカサカサと草むらを歩く音が聞こえる。その音はだんだんと大きくなってくる。


 僕は必死に走ってるのに全然前に進まない。

 それにも関わらず、奴は後ろからこちらへ向かってくる。足音は次第に大きくなってくる。


 体が後ろからくる生ぬるい風に飲み込まれた。

 僕は手で顔を覆った。そして、前方を見た。奴が目の前にいた。


 もう一人の僕が。

 もう一人の僕は僕にゆっくりと近づいてきた。そして、そっと手を腰に回して抱きしめた。


「レオン、お疲れ様。少し休もう」


 もう一人の僕は僕にそう言った。


 なぜだろう? 僕は涙を流していた。

「ダメだ! ルワンナが! 僕が戦わなきゃみんな死んじゃう! これは僕の戦いなんだ!」

「君の感情は魔女の呪いによって飲み込まれつつある。これ以上戦ったら君の感情は闇に飲まれる」

「でもまだ戦える。だってほら! まだ、自我が残って…」

 もう一人の僕は僕が言っていることを遮った。

「君は本当は生きるのが怖いんだ。現実が怖い」

「…」


「現実逃避でイドニラ…薬に手を出した。現実逃避で僕から逃げ続けた」

「やめろ!」


「そして、現実をも拒絶して自ら命を絶とうとした」

「やめてくれ!」


「レオン、ようやく僕を見てくれたね」

 もう一人の僕は僕の腰に回していた手を解いた。二人の間で日の光がもう一人の僕を照らし出す。そして、雲にかかった影が僕に落ちる。


「君は自分から光の部分を切り離して闇の部分だけで生きようとしてしまった。故に魔女の呪いで感情を蝕まれていった。今、君は自分の命を捨ててもいいと思っているだろう?」

 僕は答えられなかった。


「でも、君は光を見た。それがルワンナだった」

 もう一人の僕は続けて言った。


「そして、生きることへ希望と意味を持たせてくれる存在だった」

 風が吹いている。風で草同士が擦れる音が聞こえた。


「君はルワンナが好きだ。ルワンナとずっと一緒にいたい。彼女が持つ命への価値観が君にとって失っていたものだからだ」

 もう一人の僕は地面に視線を落として言った。


「僕もルワンナが好きだ。ずっと見ていたよ君たちを」


 しばらくの沈黙があって僕は口を開いた。自然と唇が震えていた。

「毎日死ぬことばかり考えてた。でも…でも、本当は怖い。死ぬのが怖い」

「レオン。命は有限で尊い。簡単に投げ出していい命なんて存在しない」

 また、もう一人の僕は僕を抱きしめた。


「僕を頼って。どうか光の部分を見失わないで」


 そう言い残すと、もう一人の僕は光の粉のように散って消えていった。

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