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責任感

 ヴェルヘイム王国のある場所にて。

 伝書鳩が一羽、魔女リマーナの元へ来た。

 伝書鳩はリマーナの指先に止まった。透き通るような白い肌に細長い腕をしていた。

「レオンが来た」

 リマーナが一言そう言った。実に静謐な声だった。

 リマーナの前方には黒づくめの人物が一人跪いて深々と頭を下げている。

「レオン以外は殺してかまわない。生きてレオンを捕獲しなさい」

「はっ!」

 黒づくめの人物は返事をしてその場を去っていった。




「レオン王子、ヴェルヘイム王国が見えてきましたぞ」

 タブ爺がそう言った。辺りは夜中から日が出始めて明るくなりつつあった。


 レオンたち総勢十名は魔女が住むヴェルヘイム王国の城門前まで着ていた。城門は丸太を縦に並べて作られた門で押して入るには何人もの力が必要になりそうなほど大きな門をしていた。


 城門の前には誰もいない。そして、城門は完全に閉まっていた。

 レオンが城門に近づくと城門は勝手に開き始めた。まるで、レオンが来ることを待っていたかのように。


 門の向こう側にある街は魔女の住む街といえど、フォンツ王国と特に変わらない。煉瓦造りの家があり、店があり、宿があり普通の国だった。


 魔女討伐隊総勢十人がヴェルヘイム王国に入国した。そして、少し進んで十字路に差し掛かったところで、黒づくめのローブを着た人物たちが横一線にずらりと並んだ。黒づくめの人物たちも十名ほど。全員が一斉に地面に手をついた。すると、地面に円形の術式のようなものが紫色に光り始めた。


 そして、円形の術式の中からそれぞれ魔獣が顔を覗かせやがて地上に現れた。

 腹に大きな目玉があり、鋭い爪を持つ熊のような魔獣、もう一体は蜘蛛のように体の中心に核となる球状のものから八本の尖った足が生えた魔獣、もう一体は巨大な翼を持つ翼竜で細長く鋭い嘴、後頭部から槍のように伸びる大きなトサカ。そして、トサカには目がついており合計三つの目を持つ。


 黒づくめの人物十名がこれでもかというほど魔獣を召喚していた。


 数は…数えきれない。


 魔女討伐隊がみていた世界は数秒前まで普通の街だったが、現在は魔獣で埋め尽くされている。空も陸も魔獣が存在する。魔獣たちの幾つもの目は、魔女討伐隊十名を見ている。


「なんだよ…これ…。こんなの勝てるわけない…絶対無理だ」

 魔女討伐隊のある兵士がそう言葉をこぼした。

 レオンは言った。

「魔女の目的は僕だ。僕がこのまま魔女の元へ行けば戦わなくて済むはずです」


 レオンは黒づくめたちに向かって歩を進めようとした時だった、誰かがレオンの腕を引いた。

「行っちゃダメ!」

 ルワンナだった。


「行ったらレオン王子が何されるかわからないわ! もしかしたら殺されてしまうかもしれない!」

「いいんだ、ルワンナ。さっきも言ったけど僕は元々死にたかった。自分で死のうとしてた最低な王子なんだ」

 ルワンナはレオンの腕に抱きつく。

「でもダメ…行っちゃダメよ。もう誰一人失いたくない」

 ルワンナの声は少し震えていた、その瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。


「レオン王子戦いましょう!」

 魔女討伐隊のある兵士が言った。

「勝てるわけないだろ! 見てみろよあの魔獣の数」

 さっき弱音を吐いた兵士がそれを否定した。しかし、

「やってみないで諦めるな! 俺たちはレオン様を守るためにここまで来た。このまま魔女の首も取るんだ! いいな!」

 弱音を吐いた兵士は涙ながらに「はい」と頷いた。


「僕が先頭に立つよ。治癒魔法使いは後ろで援護を」

「でも、王子…」とある兵士は言った。


「僕の戦いなんだ。僕がやらないと。僕がみんなを守らないと」


 魔女討伐隊の前方にいる無数の魔獣の中から一匹、熊のような魔獣がレオンに向かって走り始めた。それに続くように他の翼竜の魔獣も接近し、蜘蛛のような魔獣も前進し始めた。


 熊のような魔獣は鋭い爪を立ててレオンに引っ掻くような攻撃をした。しかし、レオンは背後には三メートル近い骸骨が紫の炎に包まれて上半身を見せていた。そして、熊のような魔獣の攻撃を片腕で止める。そして、レオンはもう片方の腕で体を掴む動作をすると骸骨は熊のような魔獣を掴む。レオンは、掴む力をさらに強めると熊のような魔獣は断末魔のように大きな声を上げてその後、動かなくなった。


 レオンはさらに進んでいく。たった一人で飛んている翼竜、蜘蛛のように八本の足で地面を這う魔獣も次々と骸骨が殴り、握りつぶして。倒していく。


「いける! いけるかもしれませんぞレオン王子」

 タブ爺は興奮気味にそう言った。

 一匹、

「僕がやらないと」

 一匹、

「僕が戦わないと」

 一匹、

「僕の戦いなんだ」

 レオンは確実に魔獣の息の根を止めていく。


 レオン一人で多くの魔獣の数を減らしていった。しかし、足りなかった分は補充するように魔獣たちの後ろに隠れる黒づくめの人物たちは魔獣を召喚し続ける。


「レオン、想像以上に呪いを使いこなしているな」

 黒づくめのある人物がそう言った。


「このまま魔獣を召喚し続けて押し切るか?」

 他の黒づくめの人物が言った。


「いや、人質をとった方が早い。もっと呪いの力を使ってもらう」

 最初に発言した黒づくめの人物が言った。


「誰を取る? あのジジイなんてどうだ? 経験値がありそうであの隊の司令塔かもしれない」

 次に発言していた黒づくめの人物はタブ爺を指差してそう言った。


「いや、あれはダメだ」

「なぜだ?」

「それをお前が知る必要はない」

「あー、そうかい。じゃあ、あの少女はどうだ? さっき抱きついてたやつ」

「ああ、あいつにしよう」


 黒づくめのある人物は大量に蜘蛛のような魔獣を召喚し始めた。その魔獣たちは一斉にルワンナの元へ地面を這っていく。


 それを見たレオンは蜘蛛のような魔獣たちを攻撃しようとした、しかし、空から翼竜の嘴が地面を突き刺した。レオンはそれを回避するのに精一杯だった。

「ルワンナ!」

 レオンは手を伸ばす。しかし、遥か遠く。届かない。

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