ガルディ
「ハハハ、リマーナ様の血の効果が切れたから勝つ? 良いね面白いジョークだ。一等賞をあげよう!」
ガルディは戯けたようにして肩をすくめてそう言った。
「ほう、一等賞とはどんな贈り物かな」
「こんなのはどうだ?」
ガルディは顔の前で両手の拳を握って力を込める。すると、体が一回りも二回りも大きくなっていきまるで巨人になっている。
MCダルマは額に手を当ててどんどん大きくなるガルディを下から見上げていた。
「さあ、かわしてみるといいぞ」
ガルディは手のひらを開いてMCダルマを横から引っ叩くように手を動かした。MCダルマはギリギリのところで攻撃を回避したが、隣にあった廃墟ビルはおもちゃのように崩れていった。
「これが俺の最終奥義、巨人化だ」
トントンタン、トントンタン、トントンタン。
DJカゲは音を止めない。まだ、戦いは終わってなかった。
「Hey! ガルディ全力言うぜ! お前の特徴!」
「ハハハ、良いね! どんなディスでも来るといい。俺はなんでも肯定してやるぞ」
MCダルマはDJカゲが奏でる音に身を任せる。
「この音の海に溺れていく感覚。これが生きてるって証だぜ」
MCダルマは手を突き出した。そして中指を立てる。
「Yeah! お前の頭、前から思ってたけどそれって亀頭?
残念! ついてるとこ間違えてるぜ! もう一度生まれ変わってきな! そんなお前俺が全力で祈祷!」
MCダルマは「南無阿弥陀仏」と呟きながら神に祈りを捧げるように手を合わせる。
「次はいい人生をナ!」
大きな大きな音のシャボン玉が何かを形造り始めた。初めは球体でそれから細部が形成されていく。次第に何かの形を作り上げた。
何かを形作っている最中、MCダルマは腕を下から上へ突き上げて観客はいないがひたすら煽る。
シャボン玉が形成したものそれはダルマだった。
ダルマの大きさはガルディの頭よりも大きい。
「よお、ガルディさんよお。もしかして結構気にしてたか?」
「…」
「あ、おい。何か言ったらどうだ?」
「…ってるんだ!」
「あん?」
「気に入ってるんだ! この頭」
ガルディは自慢のスキンヘッドを撫でる。
「おいおい、想像以上にお怒り!
でもお前の頭、超似てるぜカリ!
でも、お前の頭は××××××××(放送禁止用語)」
「貴様ぁ!」
普段温厚なガルディが急に取り乱し始めた。それに伴って、MCダルマが作ったシャボン玉のダルマもさらにサイズアップしてはち切れんばかりに大きくなっている。
ガルディは拳を強く握りしめる。血管が山脈のように隆起しておりもはや人の体では表現し得ない領域に到達していた。
ガルディは視野が狭くなって、手当たり次第に攻撃を始めた。
ガルディはMCダルマとガルディの両脇にある廃墟ビルをまず攻撃した。廃墟ビルはダルマ落としのように最下層が吹き飛び、それから上の階がまるごと地面と垂直に落下した。
MCダルマは怒ったガルディを面白がってさらに追い討ちをかけ始めた。
「超ポジティブシンキング! それって脳みそ空っぽ!
危機感なさすぎ! それってお前が×××××××ンポ(放送禁止用語)!
能天気すぎて脳みそ迷子!
そのポジティブだけは世界最高(笑)」
トントンタン、トントンタン、トントンタン。
音楽はまだ止まない。そして、シャボン玉のダルマは更に肥大化し始める。
「うおおおりゃあああああ!」
ガルディは大口を開けてMCダルマを食べようとしたMCダルマはなんとかかわす。ガルディは口の中に入った砂を吐き出した。
ボヨン。
急にガルディの体が浮いた。ガルディはMCダルマが作った、ダルマの形をしたシャボン玉の中に入ってしまったのだ。
ガルディは外に出ようともがくが体が浮いて思うように動かず、水中で溺れているように必死にもがいていいる。
「ゴホゴホ、ヤベェこれが最終奥義で良かったぜ」
MCダルマは口元に手を当てる。血が出ていた。
「終劇って言ったろ?」
パチンと指を鳴らす。
ものすごい爆風があたりを襲う。周辺の廃墟ビルの残骸は全て吹き飛び隕石が落ちてきたかのような大穴が地面に開いた。
土煙がやがて止み、大穴の中心にいたのはガルディだった。白目を剥いて、口から煙を吐いている。着ていた服は全て破けパンツ一丁でうつ伏せになっていた。
「リ、リマーナ様…」
実は俺は小さい頃からいじめを受けていた。
学生の頃は何をしてもダメだった。
あの頃は、気も小さくてひょろくてガリガリでとにかくイケてなかった。
ハハハ、この俺が? って思うだろ。そのまさかさ。
いじめの中心人物のご機嫌をとるように振る舞ってみたけどいいように利用されるだけ。
必死に勉強した。魔法、剣士、知力も体力も学年でトップの成績を取ったことがある。それでも俺に対するいじめはなくならなかった。
ある日、魔法学校のスクールカーストナンバー1のやつとナンバー2のやつが殴り合いの喧嘩をしていた。両方俺をいじめていた奴らだ。
しかし、ある発見をした。殴り合いで負けたナンバー1の奴はその日からナンバー2の言いなりになっていたんだ。
俺は学んだ。紙の上の点数じゃ意味がない。先生に認められる成績でも意味がない。
強さこそ正義だ。いや、強さの根底にあるものそれが筋肉。筋肉こそ正義だ。
拳で語ればいじめは終えることができる。
俺は圧倒的に筋トレをした。筋肉さえあれば現状を打破できる。
ある日、学校の帰り道。俺をいじめるメンバー全員を呼び出した。
俺は全員をボコボコにした。当たり前だ、そいつらより何千倍も筋トレを積んできたんだ。圧倒的に筋肉も増強して体は見違えるほどになっていた。
俺が筋肉をつけた頃、俺をいじめる奴は誰もいなくなった。
しかい、ふと、将来が怖くなった。俺より筋肉があるやつが来たらどうしよう。また、いじめを受けるかもしれない。そんな恐怖に怯えてる時だった。リマーナ様が俺の元へ現れた。
リマーナ様は言葉では形容し難いほど美しい。物に例えれば宝石のようだった。
リマーナ様は俺の上腕二頭筋をするっと撫でて言った。
「あなたは大変な努力をしてきた。痛かったでしょう? 苦しかったでしょう?」
嗚呼、俺は気づいてしまった。誰かに認められたかったんだ。受け入れられたかった。だから、筋肉を鍛えまくった。
「よくここまで頑張りましたね」
情けないが俺はリマーナ様の前でボロボロと涙を流していた。母ちゃんの前でもこんなに泣いたことがないのに、たった一言で人の心を掴む偉大さは今にも過去にもリマーナ様しかいなかった。
リマーナ様は俺に言った。
「強さとは何か?」
「筋肉です」
「筋肉は歳と共に衰えていきます」
「…」
確かにそうだ、言葉が出なかった。筋肉で悪人を制圧できるには老いという壁を超えていかなければいけない。
「もし、永久に筋肉を鍛えることができる方法を私が知っていると言ったらあなたはどうしますか?」
「もちろんその方法を知りたい!」
リマーナ様は両手を広げて語った。俺より小さいはずのリマーナ様はこの時大きく大きく見えた。
「永遠の命を手に入れるのです」
この言葉を聞いた瞬間俺は迷いがなくなっていた。
老いも、病も、死もなくなる。誰にも奪われない。二度と弱者に戻らない。
この人についていけば、俺の筋肉は永遠になる。
だから俺は誓った。
この命も、この拳も、この筋肉も全てリマーナ様に捧げると。
「リマーナ様、すいませんでした。夢半ばで力尽きるなんて。俺のトレーニング不足です」
MCダルマは爆発でできた大穴に滑りながら降っていく。そして、ガルディの元へ来た。
そして、中指を立てた。
「Yeah! ディスりすぎた! やってやったぜ、ヒャッハー!」
MCダルマは何度も両手を上下に振って煽る、煽る、煽る。
「俺の勝ちだぜクソやろー! イエーイ! イエーイ! イエー…」
バタン。
MCダルマも倒れた。急いで、DJカゲはMCダルマの元へ駆け寄った。棒のような細い手でMCダルマを突くと「グゥ…」と大きないびきをしていた。
安堵したDJカゲはその場で座り込んだ。
なお、ガルディの黒焦げになった巨体はもう動くことはなかった。




