不死の力
「こうやって自ら致命傷をくらうことでぇ、俺は命の危機を実感してるぅ」
アーサーが残した斬撃の跡は確実に存在していたが、すでに修復が始まっており、ジョーは立ち上がっていた。
ジョーは自ら負った致命傷の傷跡をじっくりと確かめるように自分の指でなぞった。そして、拳を強く握りしめる。
「生きてるってことを!」
アーサーは振り返った。そして、ジョーへ言った。
「お前、さっき体に何を打った?」
ジョーはよくぞ聞いてくれたとでも言いたげな表情をしてフフフと笑った。
「こらぁなぁリマーナ様の生のお恵みだぁ」
「生の恵みだあ?」
呆れたように首を傾げるアーサー。
しかし、ジョーは真剣な顔つきで答える。
「ああ、俺たちが打ったのはまだ未完成だがリマーナ様の血だぁ。これを注射すれば一定期間不死の状態になれるってわけだぁ」
「未完成? って、まさか…お前たちの目的は」
ジョーはグローブのような手を横に大きく広げた。
「リマーナ様の完全体。永遠の命を手に入れることだぁ!」
アーサーは訝しんでジョーに言った。
「待て、それとレオン王子をさらうことになんの関係がある?」
「フフフ、リマーナ様の呪いがかかった王族の血こそ不死の力を得るのに必要な素材だぁ」
「ってか、不死身だとか寝言言いやがって。人はからなず死ぬ。それは自然の摂理であり普遍的事実だろ。言ってることが全く馬鹿げてるぜ。いい年して死ぬのが怖いとか思って気が狂ったんじゃないのか?」
「では、今の斬撃を修復したこの力をお前はどう理解するぅ?」
「…クソ! 頭こんがらがってきた!」
アーサーは金髪の頭を掻きむしった。そして、思いついたようにジョーに視線を上げた。
「待てよ。今の魔女は誰の血でその力を得てる? まさか、王妃様を…」
ジョーは話を遮って口の前に人差し指を一本立てる。
「おっと、おしゃべりをしに来たんじゃあねぇ。戦をしに来たんだぁ」
ジョーは剣に再び炎を灯した。弾けるような音を纏いながらアーサーに振りかざす。アーサーも剣を振り、止める。
「俺はなぁ、お前の武が見たい。過去の話なんざぁあどうでもいい」
「なんかまともに会話できそうにないなお前。一番まともかと思ったのによう!」
アーサーとジョーは二度、三度と剣を振るって受け止め合いが続いていた。
そして、アーサーが仕掛けた。アーサーは剣を再びジョーへ構える。
「もう一踏ん張りってところだな」
トントンタン! トントンタン! トントンタン!。
DJカゲは安全なとこに避難して、折り畳み式の機材を広げて何かスクラッチするような動作をしている。顔の大きさほどあるヘッドホンを装着し、上下に長髪を揺らす。DJカゲが奏でる音楽が深夜の静かな空間にはよく響いた。
「Hey! You!
お前が携えてる!
イカすぜ筋肉!
けど炸裂するぜ俺のラップ!」
「ハンッグ!」
真っ黒に染まったガルディはMCダルマの小さな攻撃などの音で出たシャボン玉は口で食べるようにして次々と破裂させていった。口内で爆発してるにも関わらずまるでダメージを受けておらず、まるで鋼鉄の鎧を身体中に纏った戦車のようであった。
「おいおい、相性最悪だぜベイベー!」
「俺は好きだ! 音の魔法!」
ガルディはMCダルマたちを歓迎するように手を大きく開いた。そして、また白い歯を見せながらハハハと笑ってから言った。真っ黒な体に白い歯がさらに目立つ。
「俺は頭使うのが苦手だから音の魔法がどういう原理で出ているのかはよくわからん! ただ、すごいってことだけはよくわかってるぞ! 違うか?」
「オッケー! それだけわかってくれればオールオッケー!」
「俺は猛烈にお前ら二人コンビが好きになっているぞ!」
「あっそ」とMCダルマは吐き捨てるように言って、DJカゲは即座に物陰に隠れた。
MCダルマは前方にいるガルディに注意を払いながら言った。
「レオン…とその他諸々に告ぐ。ここは俺とアーサーが食い止める。その隙に先に行け!」
「ダメです! それじゃあ二人を置いていくことになってしまう!」
レオンはそう言ったが、
「いいんだ、これはお前を守る戦い。こんなところで死なれたら俺がアーサーと来た意味がなくなるぜ」
レオンは何か言いかけたが言葉を飲んで、静かに頷いた。
「では、レオン王子、ここは二人に任せて先を急ぎましょう!」
タブ爺はレオンにそう言った。レオンは少しの逡巡の後「わかった」と一言言った。
「ダルマさん、カゲさん」
「ああ?」
「……」
「絶対に死なないでくださいね」
「お前からそんな言葉が出るとはな、ネガティブ王子。誰の影響だ? ハハ、まあいいや」
この時、ルワンナはレオンの手を強く握っていた。
「その代わり…」
MCダルマは途中まで言いかけたそして、
「その代わりお前が魔女倒してこい! それが約束だ」
「わ、わかりました」
「なんて素敵なやりとりなんだハッハー!」
MCダルマとレオンたちの間にいるガルディは両者を交互に見てから実に楽しそうに大きく笑っていた。
「オッケー! One Time One Life(一度きりの人生)お互い楽しんでいこうや。ガルディ」
「ハハハハ! いーね! そういう思想は大好きだ! ただ、レオンを逃すことだけはできないな。違うか?」
トントンタン! トントンタン! トントンタン!。
「Oh! さっきから聞いてれば?
なんか迎合しすぎなんじゃない? お前ってば!
自分がないやつは絶交、お友達になれないネ! 一生一人でいれば?」
大きなシャボン玉はハリセンボンのように無数の針を身に纏って、唸るような音を立てて大回転し始めた。
その間に、レオンたち数人は残った馬に跨って、魔女討伐隊を挟む廃墟ビルのさらに後方にある右折できる通路まで下がってそこから逃げようとした。
しかしガルディはゴリラのような四足歩行でレオンたちを追ってくる。
パチン!
MCダルマは指を鳴らした。
「Go、Let’s GO(さあ行こう)」
ハリセンボンのように膨れ上がったシャボン玉はガルデイの頭の上まで瞬く間に移動してそして、ガルディを突き刺して破裂した。針はガルディの硬い装甲を貫通し、腹部からは確かに流血している。
ガルディは左肩から腹部まで損傷するダメージを負い、そして、転倒した。その間にレオンたちは右折して通路からさらに隣の通路に移り、ガルディとはビル一つ隔てた状態になった。これでアーサーたち前方にいた数少ない兵士と合流することができた。総勢十名、レオン、タブ爺、ルワンナ、の他治癒魔法師が三名、兵士が四名。
そして、レオンたちはアーサーたちにジョーとガルディの相手を託してルベリア王国からヴェルヘルム王国へいく道へ進み始めた。
「ハハハ、ダメージをくらうとは俺としたことが筋トレが足りていなかったようだな」
ガルディは地面にうつ伏せになったままそう呟いた。
「お前もジョーとかいうやつみたいに修復すんのかよ」
ガルディがその場を立ち上がると爆発によってえぐられた左肩から下の肉が再生を始めていた。
「よく人を褒める性格でな、そのせいで自分が無いってよく言われるんだよ。少し気にしてたんだ」
ガルディはゆっくりと起き上がって膝についている砂を手で払った。
「ハハハ、気にしてもしょうがない! これが俺の個性! 切り替えていくぞう!」
爽やかな笑みでMCダルマの方を振り返ったガルディはまた白い歯を見せる。
「超ポジティブ。この鉄メンタルが、ディスっても効いてねえし」
MCダルマは吐き捨てるようにそう言った。




