命への価値観
レオンはゆっくりと二体の死体の前に立った。
「…はぁはぁはぁ」
レオンの呼吸は急に荒げ始めた。そして、膝をついて胸に手を当てる。
「し、死んでる。死が、死が目の前で…」
「ええそうよ! 二人とも死ぬかもしれないわ。でも、まだわからないでしょ」
そう言ったのはルワンナだった。ルワンナは早急に二人に刺さった矢を引き抜いて血が出てる胸に手を当てる。すると、緑色の光がじわりと光り始めた。治癒魔法を使ったのである。
「お前、何してる。そいつらは食料を奪おうとした悪人だぞ! 生かしてどうする!」
「ええ、でも殺して良い決まりなんてないわ! まだ、救えるかもしれない」
レオンはルワンナの行っていることを呆然と見ていた。
失われていく命を救っているルワンナがレオンには理解できなかったからだ。
「こら、やめなさい!」
ルワンナは兵士に取り押さえられそうになったがそれでも振り解いて流血する患部に手を当てて治癒魔法を使い続ける。
五十代くらいの男は意識を戻し始めた。そして、絞り出すようにしてから言った。
「なんで俺たちなんかを助けるんだ」
「どんな命も生きてほしいからよ」
ルワンナは答えた。
「ほら! あんたも」
ルワンナは五十代の男の治療が終わると今度は弓を持っていた男の治療を始めた。
「ルワンナはどんな命でも助けるんだね」
「当然よ」
そうしているうちに他の治癒魔法が使える医療班が駆けつけた。その中にルワンナが魔女討伐隊に入隊する前に試験をした女性がいた。
「ルワンナあなたって子は。本当にどんな命でもあなたは救おうとするのね」
ルワンナは微笑みながら答える。
「命に善人も悪人もありません。生きていることだけは、みんな同じです」
「そんな甘さじゃ、また俺たちを襲うだけだ」
魔女討伐隊のある兵士がそう言った。
「そうかもしれません。でも、生きている人なら変われる可能性があります」
五十代の男は呟くようにして言った。
「…変われる、か」
そして、続けて言った。
「今まで俺たちは、誰かに助けられたことなんて一度もなかった。だから、奪うしかねえと思ってた」
五十代の男は食料の入った袋をルワンナの前に差し出した。
「食料は返す」
すっかり傷が治癒した五十代の男と弓を使っていた男は立ち上がりその場を去っていった。魔女討伐隊の誰も彼らを追おうとはしなかった。
しばらくすると、アーサーとMCダルマが駆けつけた。アーサーは「大変な目にあったなぁ」とケタケタ笑って見せた。
そして、アーサーは言った。
「もう夜も近い。荒れ果てすぎて泊まれるところがねぇから今日は野営にしよう」
そういうと魔女討伐隊のメンバーはさらに国の中央部まで進み、馬に吊るしていた折りたたみのテントを広げて野営の準備をした。時刻は夜も深くなっており、辺りは真っ暗になっていた。
魔女討伐隊はメロディア王国から持ってきた食料を食べて見張り以外の兵士は全員眠りについた。一人を除いて。
レオンは見張りの兵士に見つからないように野営地から少し離れた荒廃した建物の中にいた。
そこはかつて、学校として使われていたような場所で、廊下があり、窓があり、通路沿いのドアを開けると教室があった。
窓からは月の光が入り込んできてレオンはその光を浴びるように廊下の教室側の壁に背を預け座り込んでいた。
レオンはポケットから指の長さほどの鉄でできたケースを取り出した。そのケースの蓋を開けると三つに仕切られており、黒い球状の物体が箱の中に一つだけ存在していた。イドニラである。
レオンはまた玉のような汗をかいている。また誰かが自分を否定してくる声が天井から、壁から誰かが自分のことを見ているのではないかと思うくらい正確にレオンの容姿、性格、今まで行ってきた行動全てを否定する声が今、レオンを襲っていた。
しかし、レオンを襲うこの謎の声はフォンツ王国で出会ったある老人からもらった薬、イドニラを飲むことで止む。
レオンは震える手でケースに入っている最後の一粒のイドニラを口に運んだ。
すると、イドニラを摂取すると腹の底からゾワっと何かが脳天まで通り抜けるような感覚があり、その後を追うように安堵感、そして快楽が得られた。嫌なことが全て忘れられた。
レオンは快楽に浸り「はぁ」とこぼすように息を吐き、上を見上げる。上方にはひび割れた天井しか見えないがレオンの顔には笑みが浮かび上がっている。




