影との遭遇
ルワンナはレオンを抱く手を解いてゆっくりと立ち上がって、手のひらを天にかざした。
「雨だわ」
雨が降り始めた。さっきの満天の星空は雲がかかってしまい上空はどんよりとした雲が立ち込める。
「レオン王子、そろそろホテルに帰りましょ。濡れてしまうわ」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
ルワンナがレオンに視線をやるとレオンは左胸に掴むようにして四つん這いになり肩で息をしていた。
「レオン王子? どうしたの?」
ルワンナは訝しんでレオンの顔を覗き込んだ。
「…来る!」
「え? 何が来るの、レオン王子?」
荒い息のままレオンはルワンナの肩を掴んで立ち上がった。
「逃げよう」
雨は次第に強くなってきて本降りになってきた、ざあざあという音を立てて雨粒が地面を打ちつける。
「レオン王子! 誰から逃げるのよ!」
レオンは小川の向こうにある茂みを指差した。
「僕と同じ姿をした人間がすぐそこにいるんだ!」
「どこ! 見えないわよ! そんな人」
雨粒が落ちる雑音は声を掻き消すようにさらに強くなっていく。
視力の良いルワンナは遠くまで見てみたがレオンのような人影は発見できなっかった。それでもレオンは主張する。
「来てるんだ。すぐそこに! 今、川を渡ってる!」
「見えないわよそんな人」
「なんで見えないの!」
わぁあああああああああああと叫びながら頭を抱えるレオン。
「来るな! 来るな! 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな」
レオンは耳を塞いでさらに叫ぶ。
「早く! 逃げよう」
レオンはルワンナの手を引いてホテルに向かって茂みの中を走り始めた。
「ちょっと待っておかしいわ! 何が来ているの!」
「すぐそこにいるんだ!」
レオンは走っている途中何度か転んだ。誰かに追われているように何度も後ろを気にして走った。
「足音が近づいてくる!」
二人はさらに走るスピードを上げて走った、レオン曰く、レオンの姿をした人物を振り切ったらしい。そしてホテルに到着した。
「レオン王子と同じ格好の人なんていなかったわ。今はどこにいるの?」
「ハァ…ハァ…もう来てないみたい。あれは一体なんだったんだろう」
レオンは握っていたルワンナの手を「ご、ごめん」と言って急いで離した。
ルワンナはレオンに再び抱きついた。
「レオン王子、疲れてるのね。ゆっくり休んで」
そう言ってルワンナはホテルの中へと消えて行った。
レオンもホテルの入り口を警戒しながらホテルへと入って行った。
眠れぬレオンはまた一人長い夜を過ごすことになった。
翌朝、魔女討伐隊の三十名とMCダルマ、DJカゲが合流した。
そして、MCダルマは自身の邸宅でソウルメイトたちとの別れを惜しんだ。
これによって魔女討伐隊はMCダルマとDJカゲを加えた総勢三十二名で旅を続けることになった。
そして、魔女討伐隊はメロディア王国の中心部で全員集まっていた。
MCダルマはふと気になってアーサーに質問した。
「ってか、次向かう国ってどこよ?」
「ルベリア王国だ」
「オー! それは大変だぜ。ルべリア王国は戦争が終わったばかりの国、今は大変な飢餓状態だぜ」
「は? そうなの?」
驚くアーサーにタブ爺は言った。
「そうじゃよ。しかも長い間飢餓状態が続いておる。ま、盗賊がいるかもしれんがフーリ王国から行って魔女の手下どもにまた奇襲をくらいよりはましじゃがな」
「よし! そしたらメロディア王国でありったけ食料や燃料、諸々の物資を調達してから行こう。そして、できる限り、ルベリア王国に滞在する時間は短くしていこうぜ」
魔女討伐隊はアーサーの言う通りメロディア王国で必要な物資を揃えることにした。
魔女討伐隊はメロディア王国の国境に当たる城門前に来ていた、物資は十分に調達した。人材はアーサーの友人であるMCダルマとDJカゲを仲間に引き入れた、メロディア王国でできることは全てやった。
メロディア王国からルベリア王国は馬車で走らせて、砂漠地帯を一週間ほどかけて到着する。
その一週間が経った。
進む先にただただ地平線が見えていた景色に背の高い建物や樹木が立っているのが見えた。
やがて、その高い建物や樹木は近づいてきて国境として役割を果たしていたであろう城門の前まできいた。城門は爆弾などで半分吹き飛んだのか、誰でも自由に入れるような状態になっており、国境の城門としての機能を失っていた。そして、国境を管理する番兵すらいない状態だった。
魔女討伐隊の一行は国境を通過した。すると、
ヒュン!
矢が飛んできて先頭を走るアーサーとMCダルマの馬の前の地面に突き刺さった。
二人は矢が飛んできた方向に視線をやると髭面の中年太りした五十代くらいの男が瓦礫の上に座っていた。男の隣には矢を放ったと思われる三十代くらいの男性がいた。
「ここを通りたければその食料をここへおいて行きな」
中年太りした男はそう言った。
「嫌だと言ったら?」
アーサーが答える。
中年太りした男は言った。
「血を見ることになる」
「どうするよアーサー」
MCダルマはアーサーに言った。すると、アーサーは、
「旅にでてからまだ剣を振ってなかったからな」
「ああ、ラップバトルしかしてねえな」
MCダルマは余裕の表情でガハハハと大きく笑った。
「やるか。体がなまっちまう」
アーサーは背中に携えている剣を抜いた。
「こうやって肩を並べて戦うのは久しいなアーサー」
「そのためにお前を呼んだんだろうが」
またガハハハとMCダルマは笑った。そして、指をパチンと鳴らす。
「ミュージックスタート!」




