レオンとルワンナ
そして、レオンが奥の部屋に続くドアを開けるとそこには和室があり長机が並べられており豪華な食事が並んでいる。入り口から正面の部屋の奥では三味線や琴を弾いている人たちがいた。それらの楽器から発せられる音は聞いた人々を心地よい気分にさせる魔法もあり、音符が眼に見える。そして皆、食事が進みソウルメイトや魔女討伐隊の仲もかなり深まった。
「音酒じゃ、酒じゃ酒じゃ!」
「ああ、これは音酒だ。しっかりと音を聞かせることで旨みが出る、この国唯一の酒造方法で作った酒だ。楽しんでくれ」
MCダルマはそう言った。
タブ爺は目の前に注がれた四角い枡に入った酒に興奮していた。そして、その音酒をタブ爺はジュースみたいに飲み干した。
「もう一杯!」
タブ爺はおかわりを求めた。
「タブ爺殿、飲み過ぎはいけませんよ。いつまた魔女の使いが来て戦うことになるかわかりませんから」
「いやいや、ここで英気を養わなければななんわい」
「今日何もしてないじゃないですか!」
近くにいたレオンとルワンナもタブ爺とアーサーのやりとりを聞いて笑みを浮かべていた。
「それに迂回ルートで来てるんじゃ。魔女の使いに会うわけなかろう」
「まあそれもそうですね」
そう言ってアーサーも音酒の入った四角い枡に口をつけた。
数時間後。
「タブ爺殿、だから言ったでしょ! 飲み過ぎはいけませんって」
「嫌じゃ、嫌じゃ。もう一杯だけ。あと、もう一杯だけ飲んだら帰りますわい」
「そう言ってもう何時間も居座ってるじゃないですか。もうホテルへ帰りましょう」
宴会が行われて数時間が経過して、宴会が終了という間際にタブ爺は酒に酔い潰れていた。そのタブ爺をアーサーは数十分説得してようやく帰路に着いた。
この日はMCダルマはそのまま自宅に、魔女討伐隊の三十名は近くにあるホテルを借りて休むことになった。ついでに、タブ爺はアーサーがおぶって連れて行かれることになった。
そしてその日の深夜。レオンは一人ホテルの自室にいた。
「うぐ…」
レオンはまた耳を塞いでベットに蹲っていた。いつのもように夜になると誰かがレオンに向かって囁いているような声が聞こえていたのだ。
そして、レオンはあるものを思い出した。
レオンは、服のポケットから指の長さほどの鉄でできている縦長いケースを取り出した。それはメロディア王国に行く前に老人からもらったイドニラだった。ケースの中は三つに仕切られて入っていた球状のものは一つ減っており二つになっていた。
レオンはケースに入った球状のものをなんの躊躇いもなく一つつまみ、口に運んだ。そして、それを何度か噛んで飲み込んだ。
レオンはふうと一息つくと安堵したような表情になり、ベッドに上半身を預けて天井を見た。それは何かを成し得た達成感のような満足感のような充足気分に浸っていた。
レオンはこのイドニラを摂取すると外部から聞こえる囁き声が聞こえなくなり快楽を得る。その薬がイドニラだった。
イドニラを摂取したレオンは快楽に浸っていた、手が震えてもう一粒摂取しようと最後の一つに手をかけようとしたが震える手をもう片方の手で止めて我慢した。
レオンはイドニラが入っているケースを中身を見ないようにスッと閉めて隠すように元あった服のポケットに戻した。
それから、レオンはホテルの外へ出た。
外に出ると、外は真っ暗でメロディの国、メロディア王国でも音ひとつ無い。無音の世界が広がっていた。そして、少し歩くと背の高い草むらがあり、さらにそれをかき分けて進むと小川が流れていた。
レオンは小川のすぐそばにしゃがみ込んだ。そして、空を見上げると満天の星空が広がっていった。しばらくすると、草むらからガサゴソと物音が聞こえた。レオンは怪しんで立ち上がり音のする方を向いて姿勢を低くとった。そして、腰に吊るしている剣に手をかけた。
「あら、レオン王子」
「ルワンナ!」
草むらか出てきたのはルワンナだった。レオンは手を剣から離した。
「王子様がこんな真夜中に一人で出歩いてもいいの?」
「夜は眠れないんだ…色々あってね」
ルワンナはそう言うとレオンのそばまで歩み寄ってレオンの隣に座った。レオンもルワンナの隣に座り込んだ。
「ルワンナこそどうしたの? こんな真夜中に」
「私もちょっと眠れなかっただけよ」
レオンとルワンナが小川の近くで二人で座っているとルワンナの元に一匹の野うさぎが現れた。ルワンナはそのウサギを膝の上に乗せて頭を撫でた、そして、抱っこした。
「ねぇ王子、見て見て、うさぎさんよ。この国にも野うさぎがいるのね」
ルワンナは楽しそうにニコニコと笑ってうさぎをレオンに見せた。
「いいよねルワンナは、野うさぎなんかで元気になれて」
レオンは隣であまりにも楽しそうな時間を過ごすルワンナにため息混じりにそう言った。
「あら! 野うさぎなんかってどういうこと? この子だって私たちと同じ命を持った者よ。皆平等でしょ? 違う?」
「…違わないけど。命には必ず終わりが来る。どうせその野うさぎも肉食動物に食べられたりしてすぐに命を失ってしまうんだ」
「そうだけど命は終わりがあるから美しいのよ。そう! 物語と一緒よ」
「物語かぁ。旅に出る前ある人が僕に言ったんだ『これはあなたが始めた物語でしょ』って」
「きっと、その人も同じように考えてるに違いないわ。いい人に巡り会えてるじゃない」
「そうだね。タブ爺やアーサー含めて僕は人に恵まれてるかもしれない」
実はアーサーとタブ爺もルワンナがレオンのところに来たあたりからこっそりと二人の話を聞いていた。
そして、アーサーがタブ爺にだけ聞こえる音量で言った。
「二人って付き合ってるんですかね」
「わからん」
タブ爺は「わからんけど…」とさらに続けて、
「若いのう」
思わず言葉がこぼれ落ちるようにそう言った。
「さて、おっさんたちはここをさっさと退場するかのう」
「おっさんって俺まだ二十代ですよ」
茂みの奥でこっそり聞いていた二人はレオンとルワンナにバレないようにこっそりと退場していった。
そして、しばらく二人の間で沈黙があってからルワンナが言った。
「王子様も大変なのね。呪いをかけられてしまっていたなんて」
「…僕ももうどうしたいいか…わからないんだ」
レオンは言葉を詰まらせながらそう言った。そして、ルワンナは大きな瞳でじっとレオンのことを見ていた。
「もう死…」
「死んでしまいたいなんて言っちゃダメよ!!」
咄嗟にルワンナはレオンの発言を遮った。
「ダメよ! 弱気になっちゃ、王子でしょ! あなたを慕う民がたくさんいるんだから」
ルワンナはレオンをそっと抱きしめた。レオンは少し驚いたような表情になる。そして、ルワンナの膝の上に乗っていた野うさぎは茂みの方へ戻っていった。
「私たちがあなたを守ってあげるもの。せっかく神様がくれた命だもの死にたいなんて言っちゃダメよ。もっと大事にしなきゃ」
「……」
「どうしたの?」とルワンナが首をかしげてレオンに言った。
「ダメなんだ。自分が何者かわからなくただただ茫漠とした不安だけが自分の心を蝕んでいくんだ」
レオンは心の中に積もっていたものを吐き出すようにルワンナに打ち明けた。目には大粒の涙が流れていた。
「…もう僕はどうしたいいのかわからない。もう僕は終わっているのかもしれない」
言葉を一つ一つ絞り出すように言うレオンにルワンナはレオンの頭に手を回した。
「大丈夫、大丈夫よ。絶対にあなたたの不安は解決できるわ」
「ルワンナは強いね。不思議だな、ルワンナにはこんなことを話せてしまう」
すると、ポツリと雨粒がレオンの頬に一粒当たった。




