笑えない
MCダルマは両手を高くあげた。それを見たDJカゲはキーボードを叩く動作やスクラッチする動作を止めた。そして、会場に沈黙が現れる。
「ああ、何て言うか。憐れみじゃねぇがお前の本当の姿、思いの丈を聞けてよかった」
レオンは吹き出るようにかいていた汗を拭った。人に囲まれた熱気、照明の熱さ、全てがレオンに熱を送り込んでいた。そして、MCダルマは弾け飛んだカプセルから青く染まった音の花を手に取った。
「もう一度聞く、お前最後に笑ったのいつだ」
紫の炎で燃えていた骸骨は姿を消していた。レオンはMCダルマから視線を逸らしてやや下方を向いていた。
「わからない」
「だろうな」
MCダルマは即答したそして魔女討伐隊に向けて続けて言った。
「これりゃ心を食う呪いだ。負の感情が大きくなっている。放っていたらコイツ自らの手で死ぬぞ」
「心を食う呪いじゃったのか」とタブ爺は言った。
「ああ見た感じそんなもんだ」
MCダルマはタブ爺にそう言いながら中央部の台から降りた。
「勝負は俺の負けだ。旅について行ってやるよ」
MCダルマはレオンを見上げた。
「心の叫びを聞いて王子が魂、曝け出してんだ見捨てておけるかよ」
魔女討伐隊はMCダルマ入隊宣言に湧いた。
「片付けておけ、せっかく来たし、この俺が入隊するんだ祝杯をあげねえとな」
ソウルメイトたちは中央部に設置した台とDJカゲを取り囲んでいた機材や音の花のカプセルなどラップバトルで使用されたものは全て片付けた。
「全員奥の部屋に行け。せっかく遠くから来たんだ、アーサーたちにご馳走を用意してある」
ソウルメイトと魔女討伐隊が大広間のさらに奥の部屋に移動している時だった。レオンはまだ移動せず、移動しようとしていたMCダルマに声をかけた。
「待ってください」
「ああ?」
MCダルマはまた気だるそうに返事をした。
「ダルマさんの本当の力を僕はまだ見ていないです。ダルマさんはどうやって戦うのですか?」
MCダルマはケタケタと笑いながら言った。
「おいおい言うようになったじゃねぇか坊ちゃんよう」
そして、MCダルマは真剣な顔つきになってさっきまで使っていたマイクを顔の前に持って言った。
「これは音の花用で子供が遊びで使う時のマイクだ。誰でもラップで音の魔法を使っているかのように疑似体験できる」
そして、MCダルマは服の内ポケットからキンキラに光っているマイクを一本取り出した。
「音の魔法で攻撃するには本当はこっちを使う」
MCダルマはそのマイクを宙で一回転させてから再び掴んだ。そして、指でくるくるとペン回しするみたいにマイクで遊びながら言う。
「あとDJカゲも必要だ。ミュージックがなきゃ俺の魔法の効果はねぇ」
MCダルマは何か思いついたような表情をして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、だからDJカゲも同じく旅に同行する。忘れてたぜ」
ちゃっかりとMCダルマの近くにいたDJカゲは恐らくギョッとしたであろう表情をお面の下でしていたことだろう。
その表情を見たMCダルマは「当たり前だろ」と言ってガハハハハと豪快に笑い始めた。
「俺の魔法は当然ラップだ。おい、カゲ、音を頼む」
そう言われるとDJカゲは急いでソウルメイトが撤去しかけていた機材の中からパソコンのようなキーボードとディスプレイがついた機材を取り出してきて、MCダルマとレオンがいる場所に全力疾走で戻ってきた。そして、それを片手に乗せてさっきラップバトルで使用していた音を出し始めた。
トントンタン! トントンタン! トントンタン!。
MCダルマはレオンの方を向いてマイクを口の近くに運んでそして、口を開いた。
「黙ってないで出ておいで!
お前の化け物見てみたいぜ!
腹に抱えてんだろでっけぇの!
ウェーイ! 見せてみろってぇの!」
レオンをラップでさっき煽った時と同じ文言をそのままMCダルマはマイクに向かって話した。
すると、地面からシャボン玉のような球体が浮かび上がってきた。
MCダルマはマイクから口を離して、宙に浮かんでいいる球体を掴んでボール遊びをするように手のひらでポンポンと跳ねた。
「これはいわば、粘土みたいなもんだ。自由自在に変形できる」
そう言うとそのシャボン玉のような球体を手でこねくり回して形を変えた。そして、槍のような先端が尖った形を作った。
「今、球状の玉が出てきたが、地面から出てくる瞬間に触れることなく形状を変化させることも可能だ」
MCダルマはその槍の形状をしたものを地面に向かって突き刺した。地面には本物の槍を刺したように穴が空き見事にその槍状のものは床に刺さっていた。
「変形すればこうやって刺すもよし」
そして、突き刺した槍の形状のものを引き抜いて、持ち上げて今度は上に向かって投げた。そして、パチンと指を鳴らすとそれは宙で大きな破裂音が聞こえ煙が舞った。それに思わずレオンは耳を塞いだ。
「こうやって爆破させるもよし、使い方は色々あんだ」
さらにMCダルマは説明を続ける。
「このシャボン玉みてぇのは相手へのディスが強ければ強いほど威力が強い。今、俺が試しに指を鳴らして爆破させたのが小規模だったのはお前へのリスペクトの方が上回ったからディスがそんなに込められてねぇわけだ」
「あの…」
「ああ?」
「ディスってなんですか?」
「相手を侮辱したり、けなしたり、批判したりすることだ。ラップの世界ではよくやることだ。さっきのラップだとお前の呪いのことを言っている」
「そうだったんですね。音の魔法って不思議ですね」
「ラップだけじゃねぇ。楽器や歌、音楽だったらなんでも魔法になるし表現の仕方は自由だ」
「王子! はよ来い! ご馳走じゃぞ!」
後ろからタブ爺が呼ぶ声が聞こえて、レオンは振り向いて挨拶をする。そして、また振り向いてMCダルマの方を向いた。
「ありがとうございました」
レオンはMCダルマに頭を下げてタブ爺の元へ行こうとした時だった、MCダルマは何か言いたげた表情をしてから口元を何度か掻いて言った。
「なぁ、さっきの質問だけどあんまり気にすんな」
「さっきの質問っていうのは、最後に笑ったのはいつかって話ですか?」
「ああ、聞いた俺も悪かったが、心の底から笑えないんだろ? 呪いで心を蝕まれて。作り笑いはできるようだがな」
「…そうかもしれないです」
レオンが言いにくそうにそう言った。それから、タブ爺の方へ歩を進めようとした時だった。MCダルマは続けた。
「まあ、気にすんなよ。いつか笑える日が来るぜ。必ずだ。いや、俺が呪いを解いてお前に本当の『楽しい』ってやつを体験させてやるよ。楽しい感覚って最強だぜ? 超ノリノリになるんだ、もう誰にも止められねぇ」
身振り手振りを交えて話すMCダルマにレオンは笑みを浮かべた。もちろんこの笑みは作られた笑みであり心の底から笑っているわけではなかった。
「一つ聞いてもいいですか?」
「ああ?」
「ダルマさんは何をしてる時が楽しくて心の底から笑えますか?」
MCダルマは拳を胸に突きつけて自信ありげに言った。
「そりゃもちろん、DJカゲが奏でる音の海に身を任せてる時だ」
お互いの間に少しの沈黙があって、レオンは言った。
「やっぱり、僕には楽しいって感覚が理解できないです」
レオンはうつむき加減でそう言い残した。
そして、レオンも大広間から出て宴が行われているさらに奥の部屋に移動した。MCダルマはその姿をじっと見守っていた。




