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メロディア王国

 王城の前には魔女討伐隊の三十名が全員馬に乗り整列していた。


「いよいよじゃな、レオン王子」

「そうだね。タブ爺」


 三十名に前にアーサーが馬の乗って先頭に立ち、振り返る。

 アーサーは合計二十九名の顔を端から端まで眺める。

「ついに時が来た!」

 アーサーの力強い声が王城前に響く。


「俺たち魔女討伐隊は、この日を迎えるために剣を磨き、腕を鍛えてきた!」

 隊員たちの表情は引き締まる。


「これより俺たちはレオン王子を苦しめる魔女を討つため、長き旅へと出る! 恐る奴もいるだろう! でも忘れんな! 俺たちには家族がいる! 仲間がいる! 守るべき民がいる!」


 アーサーは剣を高く掲げた。

「魔女討伐隊、出陣!」


「おおおおおっ!!」

 三十人の雄叫びが地鳴りのように響いた。


「よっしゃー! いざ! メロディア王国へ行くぜ!」

 アーサーは剣の切先を進行方向であるフォンツ王国の城門へと向けた。

 総勢三十名はアーサーを先頭にフォンツ王国国外へ通じる城門へと向けて王都で馬を歩かせている時だった。


「ねぇ、アーサー」

 アーサーの後方に位置するレオンがアーサーに聞いた。


「このメンバーで本当に魔女に勝てるのかな?」

 レオンは不安げにそう言った。しかし、


「無理ですね」とアーサーは即答した。


「え?」


 レオンはあまりにも簡単に即答するので呆気に取られた。

「無理…なの?」

 レオンはぽつりぽつりとそう言った、少しうなだれたような姿勢になって続ける。


「やっぱ僕が自分の力をコントロールできなかったからだよね。ごめんね、僕が全く戦力になってなくて」


「いえ、違います。レオン王子のせいではありません。安心してください」

 アーサーはさらに続けた。

「メロディア王国に行く理由はフーリ王国を避けるための迂回ルートでもありますが、もう一つ理由があって、かつて俺と一緒に旅したことある奴がいて、そいつを仲間に入れます」


「仲間に入れるの?」

「はい、めっちゃノリがいいやつで強いやつなんで協力してくれるはずですよ」

「そっか。アーサーが言うなら心強いな」

「レオン王子にそう言っていただけて感謝です」


 フォンツ王国からメロディア王国までは馬を走らせ三日ほどで到着する。

 そして、フォンツ王国を出て三日経ち、魔女討伐隊はメロディア王国がすぐ見えるとろまで来ていた。


「タブ爺はメロディア王国に行ったことあるの?」

 レオンが何気なくタブ爺にそう問いかけた。

「ああ、ありますとも。メロディア王国はその名の通り『音の国』じゃ。なので、音の魔法を使える人々が住んでおる」


「音の魔法?」

「歌、楽器など様々な表現方法で魔法を発動するのじゃ。歌声や楽器なんかの音色で傷を癒すものもおれば、太鼓の音で敵を吹き飛ばすものもおる」

「そんな魔法があるんだね」


「音は人の心に直接届くからのう。メロディア王国の者たちは魂を音で語ると言われておる」

「へぇなんだか美しい文化だね」


「レオン王子、それだけではないぞ。メロディア王国には極上のクラシックを数十年かけて酒に聞かせて音で熟成させた音酒というのがあって、それが格別にうまいんじゃ」


 興奮気味にタブ爺はよだれを垂らしながら続けた。

「音酒のつまみはもちろん音楽じゃ。心を癒すメロディが酒と相まって極上の快楽を生んでくれる」


「タブ爺殿、レオン王子はお酒飲めないですよ」

 アーサーがタブ爺とレオンの会話に横槍を入れた。


「ああ、そうじゃった。すまんすまん」


 アーサーはメロディア王国の入国審査官に諸々の手続きを済ませて、入国するための城門が開かれた。

 すると、入国して正面に大きな道路がありその両脇にトランペットを持った鼓笛隊が一列に並んで音色を奏でていた。


 音の海の中、アーサーが先を数歩いて、後方のレオンへ振り返った。

「レオン王子、よかったですね。歓迎のパレードですよ! 歓迎されてる証拠です」

「うん」


 魔女討伐隊の三十名がトランペットの鼓笛隊に囲まれた道路を渡り切った後、噴水があり、前に一名スーツを着た五十代くらいの男性が立っていた。 


「ようこそおいで下さいました。アーサー殿」

「うっす!」

 アーサーが大きな声で返事をすると男性は耳を塞いで震えてしまった。

「メロディア王国は芸術の国ゆえ繊細な人が多いんじゃ」とタブ爺が言った。

「???」

「アーサーの声が大きかったんじゃない?」とレオンが言う。


「ああ、そうだった。忘れてた」

 アーサーは柔らかく笑って頭をかいた。


 今度、アーサーは声を小さめにして言った。

「MCダルマとDJカゲが住んでるところまで案内して欲しい」


「かしこまりました。ダルマ様とカゲ様は国中央部に位置する邸宅におりますのでそこまで案内いたします」


 男はそう言うと、馬を連れてきて小さな体を持ち上げて乗った。

「では案内します」


 案内中、案内人の男はアーサーに尋ねた。

「アーサー殿、この国では繊細な人が多いです。その中でもダルマ様はまるで心臓に毛が生えてるのではないかと思わせるほど精神力が強い方です。しかも、ラップを用いた音の魔法をお使いになられる方です。そのお方にどのようなご用件でしょうか?」


「昔のダチなんですよ。今回の旅で仲間になってくねえかなって思ってメロディア王国まで来ました。久々にあいつのラップも聞きたくてね」


「そうだったんですね。ダルマ様のところへ行く方は珍しいので、気になってました」


「あいつ癖の強いラッパーだから尖ってますからね」とアーサーは笑みを浮かべた。

 それから一時間ほど馬を走らせた頃だった、メロディア王国の中でも一際目立つ大きな大きな豪邸が建っていた。


「デカ…」


 魔女討伐隊の誰かが思わず声を漏らした。それほど立派で大きな豪邸だった。

 その豪邸の門まで来て案内人は「では、これで失礼します」と一言言って帰って行った。


 アーサーは門の前にあるインターホンを鳴らすと声が返ってきた。


「ああん?」


 なんとも気だるそうに返事をする声が返ってきた。


「アーサーだ久しぶりだなMCダルマ、DJカゲ」

「やっぱりアーサーか足音、聞こえてたぜ。とりあえず上がれ」

「……」

 MCダルマと呼ばれた男がそう言うと黒い門が自動で開いた。DJカゲからは返答が返ってこんかった。


 門の向こうには家まで続く一本の道があり、両脇には丁寧に手入れされた庭園が広がっていた。


 魔女討伐隊の全員でその通路を家に向けて進む。

 魔女討伐隊の三十名は馬を家の近くにある馬小屋にそれぞれ停めた。そして、馬を降りて家の扉の前に並んだ。すると、家の扉を使用人と思われる人物が開けた。


 扉を開けてすぐに正面に広がるのは大広間だった。そこにはまるで王が座るような豪華な椅子が一つちょこんと鎮座しており男が一人座っていた。


 男はふてぶてしく足を組んで肘掛けに肘を置き、手に顎を乗せてこちらを見ている。風貌はアーサーが「ダルマ」というだけあって達磨にそっくりで、釣り上がった眉毛にまん丸の目の中に黒い瞳、扇状に広がるふさふさとした髭が特徴的で、ピアスにネックレスに指輪にありとあらゆるアクセサリーを身にまとった男で、これぞ王と言わんばかりの堂々たる佇まいであった。


 そして、MCダルマの後方で椅子に隠れるようにじっとこちらを見ている背の低い細身の人物がいた。その人物は、まるで棒人間を絵に描いたように手足が細く全身タイツのような黒い服を着ている、黒い長髪で、三日月のような目にくり抜かれた白いお面をしている。


「随分、大勢いるな何かのパーティーでも始めようってか?」

 気だるそうにダルマは言った。

「……」

 アーサーがDJカゲと呼んでいた人物は黙ったままだった。

「まあそれに近い。率直に言うと、お前の力を借りにきた」

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