サリヴァンとは
「んんやぁだもぉう!! また来てくれるなんて超嬉しい。お礼にキスをあげましょう!」
バーカウンターを乗り越えてレオンのことを全力で抱きしめながらサリヴァンはそう言った。ん〜とサリヴァンはレオンの顔の近くに顔を寄せたが、レオンはそれを回避して、「結構です」と丁重にお断りした。
つまり、タブ爺とレオンの二人はレオンが自殺未遂を行った橋の近くにあるサリヴァンのバーに着ていた。
あの時と同様に、二人はバーカウンターの背の高い椅子に、タブ爺は小さい体でよじ登るようにして、レオンは少し背伸びをしながら椅子に座った。
「連絡ちゃんと届いてたわよ」
サリヴァンは鳥籠に入っている鳩を二人の前に見せながらそう言った。
「正式に魔女討伐隊にが発足されるだなんてね」
サリヴァンは「はい、いつもの」と言いながらタブ爺にジョッキ一杯に入ったウィスキーを、レオンにはジュースを提供した。
サリヴァンはジュースを飲むレオンをじっと見つめる。
「どう調子は? もう声は聞こえなくなった?」
「…まだ」
「そう、これから少しずつ良くなっていくわよ」
タブ爺はジュースみたいにウィスキーを飲んで口元を拭いてから言った。
「魔女の呪いを解けばおそらく心の不安は解消され、レオン王子を苦しめる謎の声もなくなるじゃろう」
「謎の声は神のお導きなんて噂もあるけどね」
「バカ言え、レオン王子を死に追いやろうとしたものじゃ、神の導きなんてものではなく明らかに呪いじゃ」
サリヴァンは綺麗に二つに割れた顎に手を添えて考えた。
「でも、魔女の呪いってなんなのかしら。なんでレオンちゃんに?」
「…そこがわからん。なぜ王子なんじゃ」
サリヴァンは悪巧みでもするようにニヤリと元々上がった口角をさらに上げて言った。
「若い男の子にかけることに意味があったりして」
「意味…ですか」
レオンの回答にサリヴァンはゆっくりと頷く。
「若い男子はいきがいいもの。そりゃ魔女も欲しがるわよ」
「それはちょっと意味が違うんじゃ…」とレオンは苦笑を浮かべる。
サリヴァンはじっと見ていたレオンから視線を外し、濡れたグラスを手に取り布巾で拭き始めた。そして、ため息を吐くように言う。
「魔女もバカよねぇ。なんで王族の子になんか呪いをかけるのかしら。討伐隊が出て大騒ぎになるなんて魔女側だって分かりきってるでしょう?」
「逆に言えば魔女討伐隊ができることによってこちら側から魔女へ接触することを狙っている可能性もあるわけじゃな」
タブ爺はまた何口かグラスを口に運んでからまた言った。
「とは言っても、今回の王都への襲撃は初めてじゃったからのう、向こうが大規模に動き出す前にこちらから仕掛けるのが目的の一つじゃ」
サリヴァンは拭き終えたグラスを棚に戻してから、こちらを向き、思い出したように言った。
「ってか、あんたが国の任務にあたるなんて何年ぶりよ、まだ引退していなかったのねこのクソジジイ」
タブ爺はフォッフォッフォッフォと笑いながら言った。
「三十年は経つかのう。ワシが呪いを見つけた第一人者じゃし、レオン王子を幼い頃から面倒見ていたからのう。大いなる責任がある」
「ってか、あなた、レオンちゃんを連れていくのが条件ってどういうことよ! 普通呪いをかけられてるんだから国で守るのものでしょ?」
タブ爺はウィスキーをさらに流し込んでから空になったグラスを机の上に置いて、さらにもう一杯頼んだ。
「魔女の呪いは自分自身で解くものじゃ。他人の力だけでは解けまい…ワシの経験上呪いとはそういうものなのじゃ」
レオンはジュースをちびちびと飲みながら二人の会話を静かに聞いていた。そして、すでに顔を真っ赤にしたタブ爺がレオンの方を向いた。
「なぁ、レオン王子、共に頑張りましょう」
タブ爺はレオンに握手しようとしたが、よろけて椅子から転げ落ちてしまった。椅子も木の床に落ちて乾いた音を立てた。
「ったく! 飲みすぎよこのクソジジイ!」
サリヴァンの女性らしい普段高い声がこの時は男らしいどすの効いた声だった。
床に大の字に眠るタブ爺をサリヴァンはゴミでも払うかのように箒を持ってきてタブ爺のことを外まで払い出した。
「レオンちゃんごめんなさいねぇ〜これでもこのジジイの実力は確かなのよ」
「はい、タブ爺のことは僕も良く分かってますから」
またレオンは苦笑いした。サリヴァンもまた口角をあげて笑みを浮かべる。
そして、次にサリヴァンは真剣な顔つきになって言った。
「魔女討伐、頑張ってね。私ずっと応援してるわ。ずっとよ」
「ありがとうございます。サリヴァンさん。勝てるかどうかわからないけど僕なりに頑張ってみます」
レオンの表情に少し明るさが戻っていた。そして、サリヴァンはレオンの肩に手を置いてにっこりと笑う。
「あなたなら出来るわ。だって王子様だもの」
そして、レオンから視線を逸らして小さく呟いた。
「これはあなたが始めた物語なんだから」
サリヴァンは箒を強く握りしめて、追い出したタブ爺の方へ向かって行った。
「さあ、起きなさいジジイ! 会計がまだ済んでないわよ!」
「つけといてくれ」
タブ爺は店の外、満点の星空の下、寝転びながらむにゃむにゃとそう言った。
「何言ってんよ! 毎回毎回つけといてってろくに金も払いやしないんだから! もう!」
「サリヴァンさん僕が出しますよ」
「あら! いいの! ホント大好きレオンちゃん! キスをあげましょうね。ん〜」
顔を近づけるサリヴァンをレオンは交わして再び「結構です」と言って丁重にお断りした。
レオンが会計を終えた時だった、レオンはサリヴァンに訊ねた。
「そういえば一つ気になったのですが」
「あらどうしたの? レオンちゃん」
「タブ爺とサリヴァンさんって昔一緒に旅をしていたんですよね?」
「ええそうよ、だいぶ昔の話だけどね」
「サリヴァンさんは何か魔法が使えるんですか?」
しばらくの沈黙の後、サリヴァンは口を開いた。
「それ、聞いちゃう? ドン引きしない?」
レオンが何か言おうとした時だった。
「ハックション!! おお冷えるのう」
レオンはタブ爺の方へ振り返る。タブ爺は寒そうにして両手で腕を摩っていた。
「タブ爺ごめん、早く帰ろう」
今度はサリヴァンの方へ振り返る。
「また今度聞かせてください」
サリヴァンはゆっくり首を縦に振った。
レオンとタブ爺の二人はサリヴァンのバーの近くに止めていた馬にまたがり松明に火を灯して、サリヴァンのバーをあとにした。
サリヴァンは店の外で二人を見送っていた。手を振って、そしてまた元々上がっている口角をさらに上げた。




