もう一つの戦い
「ここまでくれば、大丈夫でしょうか……」
白竜と戦うために残ったメリアと別れた後。
アンナとクロウは邪魔にならないよう、野原を抜け、林の中へと入っていった。
遠くからでも聞こえる白竜の咆哮と破壊音。それを心配しつつも、二人はとりあえずそこに留まった。
「あの白竜がどんだけのもんかは知らねえが、メリアだって鉄のゴーレムを一撃で粉々にするような奴だからな。まぁ……信じるしかねえだろ」
「そう、ですね……」
クロウは気休めを口にするが、アンナの様子は暗い。
その様子に、クロウはアンナがメリアの事だけでなく、何かを気にしていること気が付く。
「例の予言、気にしてんのか?」
「……ええ、はい。失ったものに拘るな。確かに、母からはそう言って教育されていたのを思い出したのです」
アンナは思い出す。かつては母を失った日、母から言われた言葉を。
「失ったものの影を追わない事。過去にすがっていても、現実は待っていてはくれないのだから。……母は、そう言って亡くなりました」
アンナはその言葉と共に導石を託され、初めはただ、ヴァルナハトのことなど知らず安住の地を探していただけだった。
しかし、旅の道中で、導石は確かに自分をヴァルナハトへ誘っていた。
故に、失われたものなどではなく、存在するものであると考えていたのだが……。
「……クロウ」
「なんだ?」
「本当に、今更な話ですが。あなたはヴァルナハトが今もあると思いますか?」
クロウはしばらく考えてから。
「知るかよ、んなもん」
そう答えた。
「知るかよって、あなた……」
「俺はお前が目指してるから付き合ってるだけだ。それが本当にあるかどうかなんざ知らねえ。ただ……」
「ただ?」
「お前は、それが存在すると信じて導石に従ったんだろ?失われたものではなく、今もあると信じて。過去にすがっているんじゃなく、前に進むためにお前は導を辿ったんだ。だから、まぁ、きっとあるだろうさ」
「……ありがとうございます、クロウ」
アンナはクロウの言葉に微笑んで感謝を言う。
場の雰囲気が少し弛緩したその時。
「いいや、それは虚妄にすぎん」
アンナの背を、刃が貫いた。
「がっ……はっ……!?」
「アンナ!」
咄嗟に剣をとるクロウだったが、既に刃はアンナを貫き、抜き去った後だった。
「パルデルッ!てめぇ!」
「祝福付きの魔法剣だ。ダンピールには効くだろうな」
崩れ落ちるアンナの前に立つパルデル。その手には光輝く剣が握られていた。
「流浪神が現れた今、一刻の猶予もない。今までの様に手加減はできん。最悪、殺してでも貴様らの旅は終わらせる」
「上等だ、こっちも殺す気でやってやる……!」
殺気だつクロウだったが、パルデルの後ろでアンナが僅かに手を動かすのが見えた。
「……!」
「貴様もまた、他の二人と異なれど危険分子だ。ここで排除する」
「はっ!やってみろ!」
言葉と共に、パルデルとクロウの剣がぶつかった。
〇
「ふむ、この程度か」
「ぐぁっ、くそっ……」
パルデルとクロウ、二人の戦いは、時間が経つにつれクロウの劣勢へと傾いていった。
「元より二人がかりで私に対抗していたのだ。この結果も必然か」
「へっ、言ってろ、ここから大逆転してやるからよ……!」
「強がりだな」
パルデルはクロウを剣ごとその膂力で吹き飛ばし、呪文を唱える。
「ライトニング!」
「シィッ……!」
出現した雷撃を、クロウは剣で切り払う。
見る者がいれば目を丸くする絶技だったが、その腕を持つクロウをもってしてもパルデルには一歩及ばない。
「これで終わりだ」
「………!」
雷撃を切り払い、体制を崩したところへ瞬時にパルデルが詰め寄り、剣を振るう。
「ぎっ……!」
「チッ、よく粘る」
咄嗟にクロウはよけるが、結果的によけきれず肩口から胸までを切り裂かれた。
(くそったれ、今まで何度もやりあってきたが、こいつ、手加減なしだと隙がねえ!何とか、一瞬、気をそらせれば……!)
クロウがそう思った瞬間、パルデルの動きが鈍った。
「……ッ!これは……!」
「!今だっ!」
クロウは剣を握りしめ、渾身の力を込めて振るう。
「疾風剣!」
「っ!ぐうっ!?」
クロウから放たれた風の剣戟は、パルデルを一瞬怯ませた。
「今だッ!アンナッ!」
「何……!?」
パルデルが刺し貫いたはずのアンナの方を見る。
するとそこには、蹲りつつも魔法陣を血で描いていたアンナがいた。
「ダイナマイト・エクスプロージョン!」
瞬間、世界が光に包まれ。
次の瞬間、大爆発が起こった。




